第19:面イン狐
「待たせた」
連絡を受けて待機していたホテルの会議室に、村木さんは20分ピッタリで現れた。お供の人が何人か後に続いて入ってくる。皆俺の顔を見て驚いた顔をしているんだけど何なんだろう。まあ気にせずさっそく事情を説明してもらおう。
「大体通話で話した内容以上の情報はない。昨晩イチハチマルマルの定期報告時に両名の監視が異常を報告。追加部隊で捜索を続けたが1時間後に失踪が決定的となり公安と対魔特別対策課にアラートが飛んだ。翌朝改めて捜索を続けたが生存を確認できず。外部協力員に協力を依頼。合同で捜索に当たるといった状態だ」
「その外部協力員って?」
「お前のことだ」
い、いつのまに俺はそんなものになっていたんだ……。
まあジョナサンさんは何とでもできるだろうけど桐原さんは心配だ。
「下手人がA国の諜報員と断定された理由はいくつかある。まずジョナサン・モストを攫う動機が強いこと。奴はこちらにも噛みついたが、元々飼い主にも噛みついていた狂犬だ。他国で暴れているとなれば当然連れ戻したいはずだ。次に、お前からもたらされた情報でジョナサン・モストは時間停止能力者であることが発覚したが、その能力の性質上一撃で意識を奪わない限りは時間停止によって拘束が無意味になる。漠然と襲うだけでは時間停止能力者は誘拐できない。逆説的に能力を事前に知っている者ならばそれが出来るという点で元の所属であるA国がかなり有力視されている」
「桐原さんは?」
「恐らく一緒にいたところを共に攫われたのだろう。彼女のルーティンはお前たちとの集会後、寄り道せず帰宅でここ数週間一貫している。正直なところジョナサン・モストが攫われたところでこちらは我関せずを貫く所だったが、日本国民である桐原あやかが誘拐されたとあってはそうもいかない」
なるほど。状況は分かった。友達だから二人とも助けたい。それで、俺は何をすればいいの?
「メイジ。お前確か癒しの水晶の時にレーダーみたいな物で探知していたって言っていたな」
「あっ、あったねそれ。二人共念動力者だから魔力で探知出来るかも」
「頼めるか」
オッケー。
ミ、ジ、キ、ハイ、カ。
んー……。
「どうだ?」
「たぶん二人とも同じ場所に居るんだとは思う。この魔術って大体の方向しか分からないからすぐに居場所の特定とはならないかも。とりあえずここから東の方向だよ」
「それをレーダーみたいに改良出来ないか? 距離まで分かれば大分絞れる」
「んー……人間の魔力を探知するのは厳しいかな。というか俺が念動力者である二人の魔力をそこまではっきり覚えてない。戦った事のある村木さんとかなら行けるんだけど……。
あっ。二人が居なくなった時間って俺との訓練の後なんだよね?」
「そう推定されているな」
ならゾボラの弦で行けるかも。ゾボラの弦って弦だけでも地面に付くと勝手に増殖するから絶対失くさないよう束ごとに俺の魔力で目印付けてたんだよね。犬みたいできしょいって従妹と妹には言われたけど。
「いやお前なんてものを……まあいい。どうだ、行けるか?」
要は自分の位置から帰ってきた反応の時間で図ればいいんだな。
ソル、ミ、ハイ、カ、オ、カジェ。よし行けた。でも地図みたいに正確じゃないな。
「それでも構わん」
「一つはタケシんちで、これは俺が山中さんに上げたやつだからいいとして、残り二つは……タケシんちとの距離を考えると、立川よりは手前っぽい? それより東京側では絶対にないよ」
「何……? 立川より手前……っ!? A国の横田基地か! よし、全員準備しろ出発する!」
『了解!』
お、おお……なんか映画みたいだ。
桐原さん、無事でいてくれるといいんだけど。
バスみたいな車にその場に居た全員で乗り込んで目的地の横田基地って場所に移動する車中、村木さんが何故か俺を強く見つめて打ち合わせを始めた。
「いいか。これから行う作戦は超法規的措置だ。発覚すれば確実に国際問題にまで発展する。だから絶対にバレないように事を運ばなければならない。故にメイジ。お前の力を借りたい。以前本部の地下まで侵入していたときに隠蔽魔術を使っていただろう。あれで突入組の姿を隠せるか」
「あれやったのラヴィーネだから俺じゃないよ」
「なに? では出来ないのか?」
「いや、出来るんだけど……」
俺の隠蔽魔術はラヴィーネ曰く複雑すぎで効果が高すぎるらしく、完璧に姿を隠す代わりに術を解くまでは例え声を出したり触られていたとしても認識出来なくなってしまう欠点がある。
あ、なんか村木さんがあきれた顔してる。
「何なのだその暗殺のためにあるような術は……通信機の類を使った場合ならどうなんだ?」
だってそりゃ猪とか鹿とか狩る時に使う術だし……。
通信機っていうとスマホとか?
やったことがないから分からないってことで早速試す。うおーこれが映画とかで見るインカムか。かっこいい。こんな時じゃなきゃ一しきり堪能するのに。
術をかけてから……あーテステス。
『普通に聞こえるな』
『ならこれでよさそうだね』
『いや、待て。その術は至近距離にいても存在に気づけないんだったな? なら声だけ聞こえてもお互いの居場所が分からないということは起こりうる。物――そうだな、小銭を置く。それで位置を知らせる合図としよう』
『おお。賢い。確かにそれなら分かるかも』
「それとメイジ。お前確か以前に動画でテレポートしていたな。あれに制約や条件はあるのか?」
「特にないんだけど、使う魔力が多いからあんまり連発は出来ないよ。あと出口に物があると大怪我するから、予め出る場所は決めておかないといけないくらい」
転移は草一本でも足が半分に裂けるから本当に危ない。
「その出口は自由に決められるのか?
「ただの目印だから変えられるけど、俺が直接出向かないとダメだね」
「今はどこに設定されている?」
「今はタケシんちの部屋かな」
「……背に腹は変えられない。協力を要請できるか」
タケシに連絡してみる。『転移で何人か送ることになりそうなんだけど平気?』
返信『どういうこと? よく分からないけど物が入らないように片づけておくね』
これで良しと。
「何回使える?」
んー難しい質問だ。今の状態なら7回だけど、色々やった後だとそこまで使えないかもしれない。
「では4回分の魔力を残せ。救出対象の2名と俺とお前の分だ。俺の分は最悪、脱出時に隠蔽魔術をかけてくれれば節約できる」
「村木さん! 本当にこの子供に協力させるんですか! だってソイツは――」
そこで今まで黙って聞いていた村木さんのお供っぽい対策課の人? だ。
「静岡。今は議論の時間じゃない。後にしろ」
「しかし……!」
「日本国民の人命が掛かっているんだぞ。四の五の言わせるな。使えるものは使う。いつも言ってるだろう」
お、おぉ……なんかよく分からないけど村木さんかっこいい……。
「作戦を説明する。正直場当たり的な行動計画だが、今はとにかく要救出者の生存もしくは痕跡の確認をしたい。だからお前の力を借りて強引に行く」
手短に行われた説明は以下のような内容だった。
まず横田基地に対象がいるかどうかを探知の魔術で改めて確認。居なければ再度移動車に集合する。これは今も地図を確認しながら探知しているけど、場所は一致しているから問題なさそう。
侵入は隠蔽魔術を使って正門から侵入する。そこには赤外線(?)などの科学的な監視網はなく物理的なセキュリティしかないのだそうだ。
まずレーダー魔術を使ってゾボラの弦の魔力を目印に探索。ゾボラの弦がある場所に拘束されていればそのまま転移で脱出。そうでないなら施設を虱潰しに探索する。行動開始から二時間経過しても成果が得られない場合は集合し撤収する。
「正直お前の探知魔術が頼りだ」
「方向だけなら二人を直接探知できるから、ゾボラの弦の方に居なかったらそっちに切り替えよう」
「よし。じゃあこれを着ろ」
といって手渡されたのは黒いジャケット。おお、フードもついてていい感じだ。
「それから、突入時はこれを被れ。やっつけだがな」
「おお! こ、これは……」
狐の面、だ。確かにこれなら面倒なことしないでも顔が隠れるや。
うわ。被ってみると結構視界狭いな。魔術で視覚補助しよ。
「どう?」
「体格以外の情報は消えたな。フードも被れよ。髪の毛などの情報を可能な限り残さないためだ。ん、よし。着いたな。術をかけたら出るぞ」
了解。
よし、ジョナサンさん、桐原さん。待っててくれよー。
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