第14話:うちの家はよく壊れる

 とりあえず道の真ん中でする話ではなさそうなので、手近な喫茶店に一緒に入った。なんと奢ってくれるらしい。


「あたし、この力のせいでずっと外に出るのが怖くて……それで、魔法の力を使えるっていうメイジさんに相談したくて、あの」

「あ、うん。俺を頼ってくれてなんかありがとう……?」


 俺を呼び止めたぽっちゃり系のお姉さんは桐原あやかさんというそうだ。

 話は正直よく分からないけど、なんか困ってるってのは伝わった。

 要は念動力が暴発するからそれを解消したいってことだと思う。とりあえず魔術じゃないからそこから教えてあげた方がいいのかな。


「えーっと、まず桐原さんが使ってるのは魔術――えーと桐原さんが思ってる魔法じゃなくて、念動力だよ」

「ねんどうりょく?」


 桐原さんはアハロトマイノみたいに首を傾げた。食べたくなってきた。帰り道で飛んでないかな。


「なんだっけ、サイコネジネジ? パイロキネウチ?」

「サイコキネシスとかパイロキネシスの事ですか?」

「そう、それ!」


 念動力は魔術と違ってより直接的な結果しか得られない代わりに言霊や術式が必要なく、発動者の意志一つで能力が発動する速度感がウリだ。

 車に引かれそうな猫を助けるのが念動力で、雨に打たれた捨て猫に傘をさしてやれるのが魔術だ。桐原さんの首を傾げる角度が深くなった。なぜだろう。


 魔術と念動力の差はけっこー分かりやすい。

 魔術は魔力を動かして結果を得るけど、念動力は魔力と対象を共鳴……っていうか光らせて……? まあとにかくそんな感じにして結果を得る。だから念動力を使う時に魔力を動かす必要はない。

 つまり魔術は魔力を動かせないと絶対使えないけど、念動力は魔力さえあるなら、頑張ってればそのうち使えるってことだ。

 タケシがいい例で、タケシは魔力を1ミリも動かせないし動いてるところを見たことがないけど、魔力自体は結構あるから練習すればたぶん念動力で何かすることが出来ると思う。


「とゆーわけだからさ、桐原さんのはやるやらないの切り替えが曖昧なままになってるんだよ」

「それってつまり、スイッチのオンオフが出来てないってことですか?」

「うん。それで言うと明かりのスイッチがないのに勝手についたり消えたりしてる感じ」

「ははぁ……」


 とーちゃんから聞いた話だと念動力が使える子供は赤ん坊の頃に大概やらかすらしい。俺は赤ん坊の頃に3回家を燃やしたと言っていた。妹は家を7回吹っ飛ばしたらしいから、たぶん大分大人しい赤ん坊だったんだろう。


「それはどうやって収まらせたんですか?」

「俺も妹も使って覚えたよ。桐原さん、たぶんずっと使わないようにしていたでしょ」

「え、えぇ。まぁ……」

「全く逆理論だよ。使って覚えればもう二度と勝手に出ないから、とにかく使いまくって練習しちゃいなよ」

「え、えぇ!? そんなの怖いですぅ!」


 うおっ、なんかとんでもない声の裏返り方したぞこの人!

 いやでも念動力を制御する方法なんて使いまくる以外に方法ないしな。


「あ、あの! 一人だと怖いんですけど、メイジくんさんに見ていていただければ出来るかもしれないんです……!」

「くんさん……? 俺が見ててもたぶん何も役に立たないけど」

「もしこの力が暴走して、周りの人に危害を加えてしまったらと思うと怖くて」


 そんな心配する? 暴走しても精々街路樹か電信柱がねじ切れるくらいだと思うけど……。


「ヒィィッ!? この力そんな恐ろしいことになるんですかァ!?」


 そんな怖い? 走ってる車にぶつかった方がよっぽど危ないような。まぁ心配なら時間があるときに俺が見てるから、学校終わった後くらいの時間で奥卵に来てよ。


「見てくれるんですか!?」

「うんいいよ。でもジュース奢ってね。あ、連絡先教えてよ」

「あ、はい……すごっ、あたし中学生の男の子と連絡先交換してる……フヒヒ」

「桐原さん何歳なの?」

「あたしですか? 19歳です」


 年上だとは思っていたけど山中さんと同い年なんだ。

 それにしてもなんで俺に対して敬語なんだろう。まあそのうち慣れるかな。

 こうして俺に念動力者の知り合いが一人増えた。

 ……埼玉に住んでるの? すごい遠くから来たね。頻繁に来ることになるけど電車賃とか大丈夫なんだろうか。



 翌日の放課後。

 ゾボラの弦は無事手に入り、パーカーの紐の代用品として生成中。昨日桐原さんと話していてちょっと思いついたことがあったので、荷物を抱えてタケシんちまでやってきた。


「山中さーん」


 夕方だと山中さんは台所で晩御飯の支度をしている。


「なーにーメイジくん」

「これメキルワッサヒ」

「あ、これがメイジくん家の畑で一番採れるメキルワッサヒなのね。思ってたより普通の色してる」

「そりゃ食べ物なんだからヤバイ色はしてないよ」


 それ言いだすと紫キャベツとか食いもんの色してないような……いや、よそう。

 山中さんは受け取ったメキルワッサヒを一枚ちぎって口に運んだ。バリバリ咀嚼している。


「見た目は色の濃いキャベツだけど味はほうれん草ね」

「そーなんだよ。ほうれん草食べた時見た目と味の入れ違いで脳が混乱した」

「私は今その真逆のギャップで苦しんでるよ」

「あとこれ。山中さんに贈り物!」

「うん? なーにー?」


 ゾボラの弦は一本一本が細くて、紐にするなら編みこんで束ねないと使い物にならない。かといって糸ほどの細さがあるわけでもないから刺繍には向かない微妙な立ち位置の素材だ。ただいいこともあって、一本一本色が違うんだ。

 昨日、念動力の話をしていて昔やっていた練習を思い出した。思い出しがてらそれを贈り物に仕立て上げた物だ。気合入れてめちゃくちゃ細かい模様を編みこんだ。

 貰った山中さんは目を丸くしている。まあそりゃ見た目は目がチカチカするだけの何かだもんね。


「これはなあに?」

「ゾボラの弦を念動力で織って魔術を込めた魔道具だよ。地面に叩きつけると煙玉の術が出来るよ! やってみてよ」

「そんなの花開院さんの家で出来るわけないでしょ。今度メイジくんの顔にぶつけて試してみるね」

「ひどい」


 この余りのゾボラの弦で桐原さんには練習してもらおう。


「ひゃっ! ちょっとメイジくん! このワッペン今動いたわよ!?」


 アイツら生命力高いから狩り取った後も偶に動くけど、ダメだったのかな。

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