第14話 封印された龍神
***
黒々とした杭が見えた。
この村人の家に――正確には家屋の裏にあった浜辺に近づくにつれて身体の芯が圧し潰されるような感覚に東は眩暈を覚えていた。家の主人が言うには、この家に住み出してから気怠さが続いているという。
だが、予波ノ島に巣食う妖魔が問題だったのではない。浜辺に穿たれていた杭から放たれる強力な波動が家の主人の身体を病ませていたのだ。
常人には見えない杭ではあるが、そこに在り続けると現世にも影響を及ぼす。
家主の体調を考え、杭の波動を避けるように海側の壁に結界を張ってみたが、上手くできているかは自信がなかった。
不調が続くようなら教えて欲しいと告げてはいるが。
東は歯噛みする。
本当は、杭を抜いてしまいたかった。
浜辺に穿たれた禍々しい杭の切っ先は、地中で眠る白銀の龍神を突き刺していたのだ。
だが、できなかった。
杭に近づこうにも、危険を察知した身体が動かない。
圧倒的な力の差が、そこにあった。
黒い杭から放たれる重苦しい波動。
大蛇が獲物に巻き付くかのように、全身が締め付けられ圧迫されるような息苦しさが東を襲う。
予波ノ島に眠る龍神は、眠っているのではなかった。
何者かによって、封印されていたのだ。
東は生き埋めになっている龍神へと意識を飛ばして、龍神の記憶の糸を探った。
どうして島に閉じ込められることになったのか知りたかったのだが、龍神の記憶が海の底を潜るように深く、東は辿り着くことはできない。
代わりに見えたのは、龍神が過去に空を泳いでいたときの記憶だった。何にも縛られることなく悠々と大空を泳いでいる映像が東の脳裏に流れてきた。
涙が溢れそうになった。
堪えるのに必死で、唇が震えてしまった。
戻りたい。空に戻りたい。
龍神がそう願っているように思えた。
何故、地中に龍神が封印されているのか、誰が、何のためにこんな所業をしたのかはわからない。
助けたくても、今の自分では力が足りない。
東は静かに深紅の瞳を閉じて、呼吸を感じる。
暗闇に閉じ込められた龍神の痛みに耐えるような苦しげな呼吸を。
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