File 02〈首輪に従う黒狗〉
01 «拘引»
ゆらゆらと、揺れている。男の右肩に担がれた僕は、人形の如く垂れ下がるようにして、ただゆらゆらと揺れていた。
重力に身を任せ、振り子のように
目覚めてから、
「何だぁ、
そう言ったのは、果たして誰だろうか。明らかに僕達を指して野次を飛ばしているように思えるが、その人物を特定することは敵わなかった。
何しろ、顔に付けられた秋田犬の面が邪魔をして、上手く視界が取れないのだ。見通しの悪い中、自分だけ事態がよく飲み込めぬまま、人目に曝され運ばれている。秋田犬の面をした血だらけの死体など、好奇の眼差しを浴びて当然だ。
そして、僕を俵担ぎにする男もまた、黒いガスマスクで表情を隠している。この珍妙なコンビが人前を歩く——ただそれだけで、辺り一帯から視線を掻っ攫うのは当然であろう。ざわざわと騒めく人波を縫いながら、男が歩を進める度に、周囲はまるで珍しいものでも見たかのように
それより、
厚いベールに包まれた真の姿を知って間もない内、軽率な思考に支配されてしまうのは、僕の浅慮故だろう。少し勘案すれば、辿り着けたはずだ。【神】を喚起させるほどの崇高な風采。——そんなものが悠然と
きっと軍内部における第一級接触禁忌種には、その外見を満天下に知らしめることさえ許されぬ機密性の高さがあるのだろう。そんな答えに、何となく僕は着地した。
「
「おいおい。天下の
それにしても騒がしい連中だ。辺り一帯で賑々しく沸き上がる悪声は、男を小衝く野次や非難する陰口ばかり。思わずうんざりとするのは、必然の帰結だった。
が、「
行動に出たい気持ちは山々でも、何せ許可が出るまで発声は一切禁止されている。止むを得ず懐疑を飲み下し、僕は
一方男は、辺りから飛んでくる野次を悠揚迫らぬ様子で躱しながら、前へ前へと歩みを進めていく。己が外を出歩けば、野次馬の存在が湧くことなどいつものことなのであろうか。至極泰然とした態度で、
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