風のかみさま

ミコト楚良

風が吹く日

風の吹いた翌朝。

庭に出しっぱなしにしておいた、壊れかけリサイクルポリエチレンのやわらかい取っ手つきのバケツ。

鉢植えと鉢植えの間に、すっぽりと横倒しに、はまっていた。


風に飛ばないように、夫が移動してくれたんだろうか。

聞いてみたら「していない」という。


「え。じゃあ、飛んでいったのを、誰かが鉢植えの間に差し込んでくれた?」

「そんなこと、しないでしょ。人の家の庭に入り込んで」


 庭と言っているが、玄関から門柱まで数歩しかない。


 隣のおばあさんは孫のボールが、うちの庭に入り込んだとき、さあっと入ってきた。掃き出し窓のレースカーテン越しに、わたしは見ていた。


 建売住宅はオープン仕様。塀なんかない。

 駐車場の場所を取って、わずかばかりの門柱ポストがあるばかり。


 見れば見るほど、バケツは誰かが、わざとはめたとしか思えないほど、横倒しに見事にはまっている。


(誰でもないとしたら、かみさまでしょうか。かみさま)


 わたしは、そう思うことにした。

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