第78話 保険

Aランクダンジョンで、姫路アリスとかち合ってから一週間ほど経った頃――


「よう、この短期間に出鱈目に強くなったそうだな」


「ちび姫から聞いたわようぅ」


「お久しぶりです」


顔見知りである姫ギルド所属の、山路幸保やまじゆきやす岡町涼おかまちりょうが家に尋ねて来た。


「初めまして。私は姫ギルド所属の田吾作たごつくると申します」


田吾作という男を連れて。


見た目はヒョロガリで背が高く、髪型はおかっぱ。

そしてその目には瓶底メガネの様な眼鏡をかけており、独特なオタクっぽい雰囲気を漂わせている。


「初めまして。顔悠です。どうぞ上がって下さい」


彼らは突然やってきた訳ではなく、事前に連絡は貰っていた。

なので家に上がる様に進める。


「アングラウスちゃんお久しぶりねぇ。って!あらあら、この子とってもプリティじゃない!?」


テーブル上に座っているアングラウスに挨拶した岡町が、ソファでイビキをかいて寝ているぴよ丸を見つけ黄色い声を上げる。


そういや、岡町達と会う時は何時も俺と融合していたから、彼らはぴよ丸の存在を知らないんだったな。


「ん……むにゃ……なんぞ?マヨネーズの時間?」


「さっき食ったばっかりだろうが」


腹いっぱいすすって満足して寝たばっかりだってのに、呆れた食欲である。


「きゃー、可愛いわねぇ」


「喋るって事は……その丸い謎の生物も、お前さんの使い魔なのか?」


「まあそんな所です。どうぞ座って下さい」


俺は三人に座る様に促し、台所に行ってお茶を入れて来る。


「それで?SSランクダンジョンに潜る日程は決まったんですか?」


姫ギルドには、二人目のSSランクプレイヤーが誕生している。

それに加え姫路アリスもSランクに到達しており、戦力が揃って来たという事でSSランクダンジョン攻略へと挑戦する事が決まっていた。


「ああ、一応来週の予定だ。サポートしっかり頼むぜ」


その攻略には、俺も同行する事になっている。


ギルド員でもないのに?

そう思うかもしれないが、以前幸保達とSSランクダンジョン攻略を手伝うと約束しているので、その約束を果たすためだ。


因みにポジションは、いざという時の保険。

基本的に戦闘には参加せず、要請があった時のみ加勢するというスタンスになる。


まあ姫ギルドとしては、出来れば自力だけでSSランクダンジョンをクリアしたいんだろうな。

だから俺には基本手出しさせず、万一の保険として同行させる訳だ。


「余り期待され過ぎても困るんですけどね」


「何言ってやがる。Aランクダンジョンのボスを一刀両断してるんだ。期待するに決まってるっての」


「まったくよぅ。ちび姫の話じゃなかったら、絶対信じないレベルのとんでもパワーよ」


巨体にフィジカルが売りの、Aランク最高峰のボスともなればその耐久力は相当な物となる。

普通に考えて、Sランク程度の実力で一発で仕留めるのはまず不可能と言えるだろう。

そのため、岡町達は俺の今のレベルをSSランク相当だと見込んでいる様だった。


まあ実際、ぴよ丸の封印されてた力も含めて考えるなら、確実にSSSランクレベルに達してはいるだろうが……


「そう思ってるんなら、わざわざ確認は必要ないんじゃ?」


「まあそれはそれ。これはこれ、だ」


「そうそう。助っ人とはいえ、悠君の強さがある程度把握できてないとアレだしね」


彼らが態々家まで訪ねて来たのは、助っ人を務める俺の実力を確認する為だ。


どうやって?


相手の強さをランクで大まかに測るスキルがあるらしく、それを使って確認する様だ。

今日ここへ連れて来た田吾作って男が、たぶんそのスキルの持ち主だろうと思われる。

でなきゃ、顔見知りでもない奴を何しにつれて来たんだって話になるからな。


「では……この不肖田吾作めが、顔悠さんの強さを測定させていただきます。準備は宜しいですか?」


「あ、ちょっと待ってください。ぴよ丸」


俺はマヨではないと知って再びソファでイビキをかきはじめたぴよ丸を鷲掴みにして起こす。


今のまま測定されると、恐らくSランク相当とみなされるだろうからな。

姫路アリス達の前で豪快に力を披露してしまっているのだ。

もう今更力を隠す必要はない。


「融合だ」


「……マスターよ。レディーの寝込みを襲うのは、紳士と呼べん行為じゃぞ」


ヒヨコ如きに紳士の何が分かるというのか?

それ以前に、そのボールみたいな体でレディーとか厚かましいにも程がある。


「いいからさっさと融合しろ」


「しょうがないのう」


ぴよ丸が面倒くさそうに俺をつつき、そして融合する。


「スキルも頼む」


『ラジャラジャ。神炎鳥ゴッドフレイムバード


普段は無駄にテンションが高いぴよ丸だが、寝起きは流石にテンションが低い。

まあスキル自体は発動しているので、別に問題はないが。

ついで俺も命を爆発させて力を引き上げる。


「どうぞ」


「では……アイアイアイ!」


田吾が椅子から立ち上がり。

瓶底メガネを外し、それを前に突き出しつつ意味不明な雄叫びを上げる。


その姿を見て思う。


こいつ絶対変人だ。

と。

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