第48話 ありえない

「冗談でしょ……」


結界の解除を弾かれ、私は唖然とする。

私はSSランクのプレイヤーで、魔力が20倍になるレジェンドスキルまで所持しているのだ。

地球上の誰よりも強大な魔力を持つ自信があった。


だが――


これがスキルによる結界だったなら、まだ納得も行く。

系列が違う力なのだから。

だが結界は魔法だった。


それはつまり――


私が純粋な魔力勝負に負けた事を意味していた。


「私以上の魔力の持ち主がいるなんて……」


表には出て来ず、実力を隠した猛者がいる事は知っていた。

だがそれでも、自分の魔力を超えるプレイヤーなどというものは想定外も良い所だ。


干渉している相手は自分以上。

なら、レジェンドスキルの情報は諦めるか?


勿論そんな訳はない。


「相手の魔力がこっちより勝ってたとしても、穴を開ける事ぐらいならできるはず」


結界自体の解除は難しくとも、魔力を集約してピンポイントに干渉すれば小さな亀裂を入れるぐらいは出来る筈だ。

そして幸い――幸いと言うか不幸と言うか、私の体は小さいので、微細な亀裂でも頑張れば通り抜ける事が出来る。


私は自身の全魔力を両手に収束させ――


「ちょっとちょっとちょっと!何しようとしてるんすかエリスちゃん!」


――ようとしたら、手を掴んで止められてしまう。


「邪魔をしないで頂戴」


私はそれをした糸目の女——気高き翼ノーブルウィングのメンバーであり、訪日に際しての同行者に文句を言う。


彼女の名はミノータ・グラノーラ、28歳。

魔法を得意とするタイプのSランクプレイヤーで……既婚者だ。

糸目の癖に旦那さんはイケメンで、ラブラブとの事。


死ねばいいのに。


いやまあ、そんな事はどうでもいいか。


「いや邪魔するっす。エリスちゃん一体何をする気っすか」


「なにって……収束した魔力を叩きつけて、結界に私の通れるレベルの穴を開けるのよ」


「魔力叩きつけて穴をあけるって……そんな事したら大変な事になりますからね。落ち着いてください。ここはダンジョンじゃなく、人のいる場所っすよ」


「む……」


言われて気づく。

全力の魔力をぶつけて結界に穴を開ける。

それは解除と違い完全に力技だ。


当然そんな真似をすれば、力のぶつかり合いでとてつもない衝撃が発生してしまう。

一応人気のない場所で結界の解除をしている訳だが、別に山奥という訳ではない。

周囲には建物が建っており、此処でそんな真似をすれば周囲一帯の建物は間違いなく粉々に吹き飛んでしまうだろう。


「私とした事が……」


希望を目の前してに巨大な障害が立ち塞がってしまった事で、少々冷静さを欠いていた様だ。


「しっかりしてくださいよ、エリスちゃん」


「はぁ、止めてくれてありがとう」


危うくとんでもない事を仕出かすところだったのだ、ミノータには感謝だ。

訪日の際、子供の姿をしてる私だけだと色々と面倒な事になると思って連れて来た彼女だけど、まさかこんな事で役立ってくれるとは夢にも思わなかった。


けど――


「さっきからちゃん付けで呼んでんじゃないわよ!」


役には立ったが、ちゃん付けを許すかどうかは話が別だ。

だいたい年上をちゃん付けで呼ぶなんてありえない。


「いやー、ついつい」


「ついついじゃないわよ、全く。にしても……困ったわね」


無理やり穴を開けてと言う手は取れない。

だからと言って解除する事もできない。

態々希望を求めて日本にやって来たというのに、これでは完全に手詰まりだ。


一体どうすれば……


何か良い手はない物かと顔を顰めて考え込んでいると、ミノータが――


「ん?誰かこっちに来るっすね。って、あれ顔悠かんばせゆうじゃないっすか!?」


――突拍子もない事を口にする。


「そんな訳ないでしょ。そんな都合よくあらわれるなら、誰も苦労し……って、本当に顔悠じゃないの!?」


何を馬鹿なと。

そう思ったのだが、ミノータの視線の先を確認してびっくりする。

写真で見たのとまったく同じ姿をした、顔悠がこっちに向かって歩いて来ていた。


「これぞ正に神の思し召しって奴っすね。エリスちゃんの普段の行いが良いからっすよ」


「エリスちゃん呼ぶな」


私はユニークスキル【魔眼】を発動する。

これは相手の名前や種族、それにレベルや魔力量が分かる効果のあるスキルだ。

基本モンスターの強さを測る能力だが、こうやって人間に使う事も出来た。


私はこの能力で本人かどうかを確認した訳だが――


「——っ!?」


その結果の意味不明さに思わず驚く。


顔悠、Lv1。

種族:??

魔力:2


ぴよ丸、Lv206。

種族:????????

魔力:45,256。


まずなんで顔悠を鑑定したのに、ぴよ丸とか言う謎の存在まで一緒に鑑定されたのか?


そして両方ともにその種族が不明な点。

種族が分からなかった事など、今まで一度もない。


と言うか、顔悠って人間よね?

種族不明とかどうなってんのよ。

意味不明も良い所だわ。


最後に付け加えるなら、ぴよ丸と言う謎の存在の魔力が4万以上もある点だ。

レジェンドスキル【魔砲少女】と、ユニークスキル【大賢者】をもつ私が200レベル台だった時でも此処までの魔力は無かった。

そう考えると、このぴよ丸なる存在は私以上の魔法適性を持っている事になる。


……なんなのよ、いったい。


鑑定結果が余りにも意味不明過ぎて、おかしな夢でも見ている気分だ。


「どうしたっすか?エリスちゃん」


ミノータがまたちゃん付けで呼ぶ。

だが私の頭は混乱していて、それを気にする余裕はなかった。


やがて顔悠は私達の前にやってきて――


「えーっと、君が結界に干渉したんだよな?」


――私にそう尋ねた。


私はどうやら勘違いしていた様だ。

てっきり結界は、値下げを狙う誰かが張った物だとばかり思っていた。

だが顔悠の口ぶりから、これは彼が用意した物だと理解する。


だが同時に、どうやって?

という疑問も浮かんでくる。


確かに彼は意味不明な存在だ。

だが、レベル1で魔力も2しかない。

控えめに言っても、ゴミの様なステータスである。


謎のぴよ丸なる存在の方も魔力が4万を越えてはいるが、レベルに対して高くは感じても、その程度では今の私の魔力の足元にも及ばない。

そのため、私の解除を弾く程の結界を張るのはどう考えても不可能だ。


「ええ、貴方に接触したくてね。所で一つ聞いていいかしら?」


「答えられる事なら」


「貴方から遠ざけるこの結界を張ったのは、一体誰なのかしら?」


「うーん、それなんだけど……」


顔悠が何故か自分の足元を見た。

すると突然、彼の影から一匹の黒猫が飛び出して来た。


その猫に不穏な物を感じた私は【魔眼】で鑑定し――


「ほわぁ!?」


――驚きの余り変な声を上げて、その場で尻もちをついてしまう。


え?なにこれ?嘘でしょ?


なによこの化け物……

いくらなんでも、こんなのあり得ない。


アングラウス、レベル20,000

種族:??

魔力:2,000,000

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