第40話 侵略者

俺が肩に手をやり、予備の命を十文字に移すと――


「感じます!私の中に顔さんの命が入って来たのが!」


――知らない人が聞いたら誤解しそうな事を言う。


だいたい命を移したからって、それを感じたりは出来ない。

命なんて物は、通常死の間際でもなければ感じる事は出来ない物だ。

俺の時だって、師匠に何千回と殺されまくってやっと感じ取れる様になった訳だからな。


「小娘、本当に命を感じ取っているのか?」


「はい!自由自在です!こんな風に」


「ほう……悠、この小娘体に入った命を自在に動かしているぞ」


「マジか……」


あの時の俺の苦労は一体……


まあ十文字はレジェンドスキル【10倍】の効果があるから、恐らくその影響なのだろうが。

勘も10倍になっているみたいだし。


「所で……お前には命が見えてるんだな」


十文字の中に入れた命が動いているのが分かるって事は、アングラウスにもそれが見えているという事だ。

コイツは本当に多彩な奴である。


「まあな。だが見えているだけで、我には悠の様に増やしたり繋いだりは出来んぞ」


「まあ……それをやると普通は死ぬからな」


裂くのもそうだが、繋げるのも普通の生物がやるとまず死ぬ事になる。

命に穴を開けてパイプを通す様なもんだからな。

なので不死身でもなきゃ普通は死ぬ。


「顔さん、貴方は私の命の恩人です!本当にありがとうございました!」


「役に立ててよかったよ」


「どうお礼をしていいやら。本当に100億は良いんですか?」


「ああ、それより――」


100億は勿論魅力だ。

だが今俺が最も欲しいのは――


「出来たらエリクサーを持ってたら分けて貰いたいんだけど」


――そう、妹を救うためのエリクサーだ。


いやまあ100億あったら余裕で買う事も出来るだろうけど、余剰な金を貰うより、エリクサーの現物に差額を十文字への貸しって事にした方が絶対得なはず。


何せ相手は世界2位だからな。

何か困った時に力を借りられるのなら、それに越した事はない。


「あ、はい。エリクサーなら持ってます」


十文字が掌を上に向けると、何処からともなく黄金色の瓶がその上に現れる。

どうやら彼女はスキル【インベントリ】を習得している様だ。


【インベントリ】は重量やサイズを無視して、大量のアイテムを出し入れする事の出来るスキルだ。

ユニークでもレジェンドでもないスキルではあるが、取得者がかなり稀なレアスキルと言われている。


「ありがとう。助かるよ」


俺は十文字からエリクサーを受け取り、彼女に礼を言う。

これで憂の奴を治してやる事が出来る。


「いえいえ、これぐらいどうって事ありませんよ。顔さんは私の命の恩人なんですから。他にも何かあったら遠慮せず言ってください」


「じゃあ我から一つ」


何でも言ってくださいと言う十文字の言葉に、アングラウスが乗っかる。

まあ何を言うのかは大体想像できるが。


「これからも精進して強くなり続けろ」


やっぱり。

アングラウスは強くなった十文字と戦いたいって言ってたもんな。


「そうでなければ、お前は遅かれ早かれ命を落とす事になる。異世界からの侵略者によってな」


俺はアングラウスの言葉に眉を顰める。

何言ってんだこいつはと言いたい所だが、俺には心当たりがあった。


……異世界からの侵略者。


俺がエターナルダンジョンにいた時、一時的に特殊なタブレットで外の情報を得ていた時期があった。

その時、崩壊型ダンジョンは異世界からの侵略ではないかと言う考察が頻繁に上がっていたのだ。


結局回線が繋がらなくなって、俺が外の様子を見れたのは短期間だっためその後の事は知らない。

だが、アングラウスは俺の物より強力なタブレットでずっと地上の回線や電波を拾い続けていた。


つまり、俺の知らない情報をこいつは持っているという事だ。

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