07:聖姫はじじぃの名前を知る

 街から戻ると早速、私は宮廷魔道師のじじぃに話を通して、魔法と武器の訓練の許可を貰った。

 そしてもうひとつ、護衛さんと仲良くなったからという名目と、私だけ個別に作るのは手間でしょうといって、騎士や兵士の集団食堂で食事をする許可を貰った。

 集団食堂は大鍋からつど皿に分けるから、食事に毒が入れられる可能性はぐんと下がる。もちろん【鑑定】は欠かさないけれど、食事に毒が入っていないというのはとても楽になった。


 さて話を戻そう。

 武器の扱いについては彼らが良いというなら問題ないといわれた。

 そして魔法についてだが、私は本を読んで独学でも良いと言ったのだけど、意外にもじじぃが自分が教えるといって意見を曲げなかったので、直接指導を受ける事となった。

 もちろん突然そんな懐柔する態度を取り始めたことに違和感を覚えている。



 カスパルと名乗ったじいさん。

 出会って一週間にして初めて名前を知ったと言うのはある意味驚きよね。

 私は毎日ほんの短い時間ではあるが、彼から直接魔法を教えて貰うという約束を取り付けて、カスパルと別れた。


 ちなみに、神聖魔法の【敵意感知センスエネミー】で微弱な悪意を感知したので、これは監視の名目があるのだろうと推測している。



 その二日後が彼から魔法を習う最初の日となった。

 カスパルに話を通してからと言うもの、意図は不明だが私を殺害しようとする、直接的な行為はなくなっている。

 対して、私の動向を監視する人々が増えている事に気づいた。最初は気のせいだと思ったのだが、感知系の魔法で確かめたの気のせいでは無かったことが分かった。



 最初の日、私はカスパルの指導により、魔法の基礎について知識を得る事となった。教えるに見せかけて何かされるかもと警戒していたのだが、微弱な悪意以外は無い様なので、少しだけ安堵する。


「最初に属性だが、細かいのを入れればかなりの数がある。

 じゃから細かいのは割愛するぞ。まずはそうじゃなぁ、光と闇、そして神聖と暗黒、火水土風雷に氷、この辺りまでが代表的といえるじゃろうか。

 実際に使えるかどうかは、属性によっては本人に素質が無い事があるから、やってみないと分からん」

 カスパルは今言ったものなら何でも使えるらしいので、全て教えて貰うことになった。


「聖女の純奈すみな様は、闇と暗黒以外は全て習得できたのぉ」

 と、どうでもいい情報を貰った。


 さて私はというと、幸いにも全てに特性があったようだ。難なく全ての属性が練習のランクになると、最初にあった神聖と光を残して【属性魔法】というスキルに統合された。

 鑑定の時と同じだわ……

 もちろん言う必要の無い事なので言わないけどね。



 少しだけ物思いに耽っている間も、カスパルの話が続いていた。

「全て使えるとは、もしかしてお主は魔法の素質があるのやも知れぬな。

 あとは熟練度が溜まりにくい属性があれば、覚えれただけで特性が低い属性じゃから、早々に諦めるほうが良いかも知れんよ」

 と、覚えた後でも成長速度に差が出るぞと教えて貰った。

 【属性魔法】に統合されてしまったので、それは大丈夫だと思いたい。

 じゃないと全体の成長が遅いという事になり、つまりそれは神聖と光以外は特性が低いという意味になってしまうのだ。



 一日目を終えて、私は神聖魔法の【嘘発見センスライ】と【敵意感知センスエネミー】の魔法を効果時間が切れる度に、逐一掛け直して維持していたので、教えてくれる内容に嘘や悪意は混じっていない事は把握している。

 会話の節々で私の成長速度や魔法の素質を見て、将来的に聖女に対する都合の良いコマにしようと言う思いが透けて見えていたので、今後は過少報告しておく方が無難かもしれない。




 また後日には魔法の使い方を細かく教えて貰った。特に魔法の特殊な使い方の部分だ。

 魔物がいる世界だけに、その特殊な使い方とは戦闘に関する技術ばかりだった。



 最初が『待機詠唱キャスト』について。

「人により待機して置ける数は違うが、事前に魔法を唱えておく事で詠唱を省いて使用することができる。

 待機できる魔法は一種類で同じ呪文だけじゃ。杖や呪文書を使うと待機できる数が増えたりするのぉ」

「杖も呪文書も持っていないわ」

 そう愚痴りながら、私は言われた通りに簡単な【氷球アイスボルト】を詠唱した。

「それを撃たずに、持ったままで次の詠唱をするのじゃ」

 簡単に言ってくれるわね……


 再び【氷球アイスボルト】を詠唱するが、結局私はそれを維持できずに射出してしまった。

 その後、数回やったが一度も成功する気配は無かった。


「難しい技術じゃが出来れば戦いの幅が広がるじゃろう」

 そして、やるなら訓練場で許可を取ってやるようにと、念押しされた。部屋でやって飛んでいくと危ないからね。



 別の日には『魔力蓄積ブースト』を習った。

 こちらも『待機詠唱キャスト』と同様に、魔法を一回使った後に二重詠唱して、今度は効果を加算する。小さなアイスボールが重ねる度に大きくなっていくのだが、MP消費は二つ分なのに、威力は二倍以上になるというから、なんともお得感があって良い。

 もちろん失敗して飛んで言ったわよ!



 さらに別の日、『範囲増強ワイド』を習う事となった。

「ここまで来れば分かるじゃろう、一つ作って効果範囲を広げるように念じて、ホイさっと重ねるんじゃ」

 説明に擬音を含むとか、これだから出来る奴は……


 ちなみにこれの効果は、消費は二つ分で範囲も二倍、しかし威力がちょっぴり上がるらしい。前の『魔力蓄積ブースト』よりもさらにお得感があって良い。


 くっつけ方にそれぞれ違ったコツがあるだけで、やり方の根底は同じだ。

 つまり、失敗して飛んでいった……



「次が最後じゃ」

 そして最後が、『重複詠唱オーバーラップ』という。


「一つを作り完成する一歩前に、別属性の同レベルの魔法を作って混ぜるんじゃ」

「はぁ? 属性魔法は同時に一種類しか使えないでしょう。どうやって違う属性を使うのよ」

 以前の『待機詠唱キャスト』を聞いたときに、そう言われているのだから、今教えて貰った別属性を混ぜるのは不可能のはずなのだ。


「最初の魔法を氷、射出する前に管理を放棄して次の魔法の火を詠唱して完成させる。

 氷は放棄されているから、そのまま火の管理下に回せば『重複詠唱オーバーラップ』となる」

 不機嫌気味な私を余所に、カスパルは手本を見せてくれた。

 彼の前には、見事に【氷球アイスボルト】と【火球ファイアボルト】が融合された、合成魔法が完成していた。


 なるほどとは思わないでもないが、口で言うのは簡単でそれが出来れば苦労しない。

 ダメ元でやって、

「あれ、出来た……」

「ほぉこれは面白いのぉ、一番難しい『重複詠唱オーバーラップ』が成功するとはのぉ」

 カスパルは少しだけ嬉しそうに見えた。




 一人になってステータスを確認してみる。


────────────────────

名前:氷山瑞佳ひやまみずか

種族:人族(転移者)

年齢:21

称号:聖姫


HP:40/40(120/120)

MP: -/ -

ST:18/18(54/54)


スキル

料理 B

裁縫 D

神聖魔法 -

光魔法 -

属性魔法 E

重複詠唱 F

鑑定 C

生活魔法 B

野外活動 練習


アビリティ

癒しの小奇跡

天使の慈愛

神の障壁

※※※※※※

※※※※※※

────────────────────


 スキル欄に【重複詠唱】が追加されていた。

 という事は、もしかしてこれって前にサロモンが言っていた、ランダムで取得するスキルなんじゃないの?

 才能と運が良ければ覚えれるかも、だったはず。

 つまり覚えたければ練習あるのみって事よね。


 それにしてもあのじじぃ、ランダム取得って言葉を知らないのかしら!

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