第11話 レイラ、嫌なユメをみる
♦︎
「レイラ! そんな怪我程度でサボるか!」
「申しわけございません。しかし、腕が動かせなくて……」
「たかが骨折程度で私の仕事ができないとは情けない。それでも名門ミリシャス伯爵家の人間か!?」
お父様がいつもどおりの冷酷な視線で私を睨みつけてくる。
馬に跳ねられて腕が折れて足も重度の打撲。
(ガルアラム様……助けて……)
私の意思などお構いなく、お父様がバケツに入っている水を私にバシャリとあててきた。
傷口が痛む。
「仕事ができなくなった罰だ。メシも今までの半分とする!」
「そんな……。栄養を摂れれば治りも少しは早くなります」
「使えない娘などに余計なエサを与えるつもりなどない。レイラはとっとと俺が命じた男の元へ嫁げ」
「この前の縁談相手は裏で違法行為をしている大商人の……」
「それ以上言うなよ?」
なにも言い返せない。
お父様も同じように、違法行為である奴隷商人と繋がっているのだから。
今言えば私も危険な目に遭う。
「幸いにもお前の容姿は妻譲りで優れている。それに末っ子のレイラなど、無理に嫁がせるよりも使い道はある」
「それを本人の前で言いますか!」
「あたりまえだ。それほどお前は身勝手で迷惑ばかりかけてくるゴミ同然なのだからな。私がお前の悪い部分を過大評価で広めたおかげで悪役令嬢と言われるようになって良かったではないか」
「ひどすぎます……」
「文句を言わず、次の縁談相手は従え!」
ガルアラム様のことが頭から離れない。
このような心情で他の男の元へ嫁ぐことなどできない。
「無理です。私には……」
「ガルアラムか!?」
「彼は関係ありません」
誤魔化そうとしたが、なぜか私の心の中を読まれているようで……。
「伯爵家のさらなる資金稼ぎを邪魔をしようとするようなガルアラムなど、私の繋がりで始末してくれよう」
「やめてください! 彼には絶対に手を出さないで……」
「ならば素直に縁談に従うのだな。やはり私の思惑通りだった」
「な?」
「お前はうまく使えば莫大な金を手に入れるための道具だ。そのために、怪我してもらっている間に高く買い取ってくれる大商人に交渉していたのだよ。その間、おまえを家においておく必要もなかったからな」
「まさか、あの事故は……?」
「気がつくのが遅かったようだな。ちょうど良い具合に邪魔なガルアラムとレイラがすれ違うタイミングだった。簡易な無音銃で馬の足を狙えば当然制御不能になるだろ?」
私だけでなく、ガルアラム様にまで迷惑をかけるなんて許せなかった。
いくらお父様が相手でも、これ以上は我慢できない。
だが、ガルアラム様の命を守ることを最優先した。
「私がお父様の指名する縁談に従ったら、ガルアラム様を見逃していただけますか?」
「……まぁそれでも良いだろう。こちらとしては莫大な金が入れば文句はない」
「わかりました。受け入れます」
「それで良い! なお、縁談相手はおまえのことを気に入っている。満足したあとに高額で他国へ奴隷として売られるからそのつもりでいるのだな」
「はい……」
全ては私がガルアラム様に対して余計な心情を抱いてしまったからこうなったのだ。
お父様がその気になれば、裏ルートを使って確実に抹殺してしまう。
「取引成立だ、出てくるが良い」
「へ? どうしてガルアラム様……?」
ガルアラム様が口元までロープに縛られている。
お父様は満足した表情で右手には銃を所持していた。
「コイツは我が家に調査を入れようとしていたからな。消えてもらう」
「手を出さないと言ったでしょう!」
「あぁ。取引成立させるまでの間は手を出さないと言っただけだ」
身体を動かそうとしても全く動かない。
どうして動けないのだろうか。
ガルアラム様のコメカミに銃口が突きつけられる……。
そして。
♦︎
「やめてーーーーーーーーーーー!!!!」
大声で叫んだら、最近よく見る天井だった。
ふかふかのベッドの上でここ最近幸せを堪能していた医療室。
私の悲鳴であわてて起きたようなガルアラム様も視界に入ってきた。
「大丈夫か……?」
ガルアラム様のひとことだけで、正気が戻る。
声は大きいもののどこか優しく、安心ができる声が私の脳裏に刺さるように届いた。
どうやら、私は嫌なユメを見ていたようだ。
しかも、現実を再現されるかのようなとても恐ろしく怖いユメだった……。
リアルすぎて怖すぎて、思わず涙をこぼしてしまった。
「無事で、良かった……」
「怖いユメでもみていたのか」
ユメの衝撃が大きすぎた。
今もなお不安すぎて弱い部分が出てしまった。
こういうとき、本当なら手を握ってそばにいてほしいと思ってしまう。
さすがに恋人関係でもないし、そのような願いは言葉には出せないが。
……だが、どういうわけかガルアラム様のほうからそっと、私の手に手を合わせてきた。
「すまない、嫌だったらすぐに離れる」
「いやじゃ……ないです」
しばらくガルアラム様の手に包まれ、安心をいただいた。
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