や。
マクスウェルの仔猫
や。
ねえ。
寒い、ね。
心が。
身体が。
凍えていく。
震えているのは、寒いから、だけじゃないよ。
だって今、暖房をいれて。
二人で過ごした、あの部屋の中にいるんだから。
あんなに。
あんなに。
あんなに。
二人の気持ちがあんなに温かかった、この部屋が。
こんなに寒々しい所だったなんて。
知らなかった。
●
今、去年の年末に
たった三週間前に。
彼方が私に、書いてくれた年賀状。
同じ部屋に、住んでたのに。
一年たっても二年たっても、何年たっても送ってきて。
嬉しい嬉しい、アート溢れる年賀状。
すごく気合を入れたって言ってた、今年のイラストは。
片耳同士が優しく絡み合った、白と黒の
今年こそはって、彼方も言ってくれてたもんね。
●
ね。
ごめんなさい。
許して下さい。
許して、ください。
悪いところ、直します。
彼方は優しいから、何も言わなかったけど。
私、自分のダメな所、わかるよ。
●
もっと笑顔でお仕事するように、気をつけます。
会社が近づいて、繋ぐ手が離れていっても
彼方が取引先の女性のお話をしても、二回に一回は焼きもち、我慢します。
コンタクトレンズが苦手だからって、眼科の前で彼方にしがみつきません。
近くのスーパーで彼方が見えたからって、どーん!って体当たり、やめます。
『もー』って頬を突っつかれて、吹けない口笛を鳴らす真似は、もうしません。
食べれないニンジンを、『あーん』って彼方に食べさせようとしないから。
お酒を飲んで甘えたくなっても、人前ではキス魔になったりしないから。
いっぱいいっぱい、心と体がびっくりするくらいに愛して、って言わないから。
私の事、どれくらい好きですか!って困らせないから。
会社でも恋人繋ぎしたいって言わないから。
早く結婚して、早く彼方の赤ちゃんがほしいなって、言わないから。
●
もう、逢えないの?
本当に、神様のところに行っちゃったの?
また子供を助けたその足で今度は、私のもとへは帰って来れないんですか?
置いてけぼりですか?
彼方をこんなに大好きな私を一人にしちゃうんですか?
泣いてるの。
泣いてる、よ?
もう、よしよしって、してくれないの?
●
マンションのエントランス。
コンビニの前!
メトロの改札?!
電車の中。
会社の駅!
彼方のデスク?!
●
どこに、いますか。
どこですか。
かなたさんは、そこですか?
かみさま。
かみ、さま。
おねがいしても、いいですか?
かなたを、わたしに、もどして。
わたしを、かなたに、かえして。
それいがい。
なにも、なにも、いらないから。
かなた。
かなた。
どこですか?
かなん、ここだよ。
かなん、だよ。
かなたの、かなんは、ここにしか、いないよ?
かわいそうだなって。
しょうがないなって。
なに、こいつって。
もしおもったら、ここにきて?
ここに、きて?
●
「おーい……香南さん。
「や。」
「何故に?!うぐぐ……力が増した。怖い夢見たのかな?よしよし」
「や。ゼッタイ、や。置いてっちゃ、ヤダ!!」
「な、何を?……僕はどこにも行かな」
「やぁだーっ!!」
「ぎょぎょー?!く、苦しいよ?!」
「どっかいっちゃやだ!……そんで、もれちゃう!」
「……はい?ええ?サラリと宣言?!おトイレ行こ?」
「ひとりじゃ、や!あと、のど乾いた!」
「あ、お水あるよ?トイレ早く行っトイレ?」
「や。口移しがいい。あと、激つまんない。もれちゃう!もーれーるー!あふ」
「あふって、待ってー!そしてダメージ特大の来た?!」
「あああっ」
「待って!いやほんと、あと20秒とちょいと待ってー?!何とかしますからあ!」
香南さんを、ベッドからお姫様抱っこで抱えあげる。
首筋に抱きついて、頬同士をぺたり、と合わせてくる。
今日も、可愛いがすぎる。
会社では凛々しい上司、おうちでは、愛しいお姫様。
僕の方こそ、離れたくありません。
そばにいさせてくださいね。
ずっとずっと。
愛する貴方と。
「……ちょびっと出た」
「何ですとぉ?!ついでにお風呂だね」
「よきにはからえ」
「上から目線?!あ!わかったからウルウルしないで下さい!ドキドキしますから!」
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