第五章 学園編

第74話 学園編スタート

 その日の朝は快晴だった。

「うん、今日から学園生活が始まるのね。楽しみだけど、油断はできないわ」

 ロゼリア・マゼンダは窓を開けて、外の景色を眺めながら呟く。

 魔物氾濫から三年。

 ロゼリアは真紅の髪を背中まで伸ばし、悪役令嬢にありがちな縦ロール……ではなく、三つ編みのハーフアップという、どちらかといえば深窓令嬢にありがちな髪型をしていた。

 この三年の間には、主に商会の仕事を手伝いながら、チェリシアから教えられた攻略対象とも地味に交流していた。もちろん、チェリシアとペシエラも交えながらである。

 ただ、一人だけどうしても繋がりが作れなかった攻略対象が居た。その彼とは学園で初めて出会う事になる。

(商会の仕事の伝手で手紙くらいの交流はできるかと思ったけど、さすがに他国の人間では無理があったわね)

 攻略対象は全部で五人。

 アイヴォリー王国王子、シルヴァノ・アイヴォリー。

 宰相の第一子、チークウッド・マルーン。

 騎士団副団長子息、オフライト・ノワール。

 この三人以外にも、王都の商会の息子と隣国の王子が居る。

 商会の息子とは、マゼンダ商会が商談を行う上で何度か会っている。計算が速かったり、言葉の裏まで理解して動いたりと、商才はあるようだった。

 残る一人は、アイヴォリー王国とは協力関係にあるモスグリネ王国の王子である。彼は交流の一環として、六年ある学生生活のうち、前半三年間をアイヴォリー王国の学園で学ぶのだ。

(チェリシアは、十三歳から六年間ある学園の事を『中高一貫校みたい』とか言っていたわね。おそらく前世の学校の事を言っていると思うのだけど……)

 知り合って五年が経つというのに、転生者であるチェリシアの事は、未だもってよく分からないロゼリアである。前世の事が独特の価値観すぎるのが原因だろう。

 さて、学園の制服はブレザータイプである。平民も条件次第で通える学園ではあるが、その多くは貴族であり、女子のスカートは膝下であれば長さの規定は無い。ちなみに男子はスラックスだ。

 しかし、制服とは言っているが、基本的な形式を踏まえていればカスタムが可能である。袖の形を変えたり、生地の質を変える事はできる。ただ、色と模様はアレンジ不可である。

 ロゼリアの制服はパフスリーブの長袖のボレロ風にブラウス、足首丈のスカート、黒のタイツに膝下のブーツという、比較的スタンダードなお嬢様の出立ちである。

 ……ますます深窓の令嬢っぽい。すごく活発なお嬢様なはずなのに。


 ロゼリアは馬車に乗り、学園に向かう。

 アイヴォリー国立の学園は、サンフレア学園と名前が付いている。

 サンフレアは設立時の女王の名前だ。彼女が設立したこの学園のおかげで、王国の学力水準はとても向上し、学園の中庭と学園長室と講堂の三か所にその銅像が建てられているらしい。

 学園に着くと、同時にコーラル子爵家の馬車も到着した。中からはチェリシアとペシエラが姿を現した。

「おはようございます、チェリシア、ペシエラ」

「おはようございます、ロゼリア」

「おはようございますですわ、ロゼリア」

 三人が挨拶を交わす。

 いろいろ経緯があって、ペシエラは飛び級で入学を許可された。十歳でありながら、魔法の腕前も学力もとても高いためである。

 二人の制服はお揃いのデザイン。袖口は肘からラッパのように広がっている。薄いピンクのブラウスにハイウェストの膝下ギリギリのスカート。白のタイツにミドルブーツという格好である。

 髪型に関しては、チェリシアは肩にかかる長さのストレートなセミロングの一部を後ろでリボンで止めていて、ペシエラはふわっとしたウェーブのかかった髪をツインテールにしている。

「せっかくだからアレンジしてみましたの。髪の長さが足りませんので、シェイディア様みたいな髪型にはできませんでしたけれど」

「三つ編みを作って髪を縛るのよね。おしゃれだけどなかなか面倒よね」

 チェリシアはくすくすと笑っている。

 チェリシアとペシエラのコーラル家は、三年前の魔物氾濫の鎮圧と領地改革の功績が認められ、去年伯爵位に陞爵された。魔物氾濫は詳細が不明だったので評価としては乏しいのだが、それに関連して水場が発生し、高台地域の農地改善が進んで王国の食糧事情に大きく貢献した事が評価されたのだ。

(本来なら魔物氾濫を抑えた事で、チェリシアが男爵位を賜ってもおかしくないけれどね……)

 まあ、当時十歳と七歳の少女が魔物氾濫を鎮圧したなんて、誰が信じようかという話である。

「それにしても、ペシエラまで同時に入学なんて信じられない話ね」

「お父様が推薦して下さったそうですわ。陞爵の際に、褒美の一つとして申し出たのですわ」

「なるほど」

 ペシエラが入学してきた理由を聞いて、ロゼリアは納得していた。

「前回とは違いますからね。私の立場にはお姉様がいらっしゃいますし、レイニと一緒にお二人をサポート致しますわ」

 ペシエラはむんと気合いを入れる。それを見て、ロゼリアとチェリシアは微笑んだ。

「では、参りましょうか」

 三人は校門から学園の中へと歩み始めた。いよいよゲーム本編の時間軸のスタートだった。

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