第72話 レイニ
「世界の渡り子?」
三人揃って首を傾げる。お互いに聞いた事があるのか確認するが、誰も知らないようだ。
『はははっ、分からなくても無理はないよ。千年に一度現れるかどうかって話だから』
三人を見ていた精霊は笑いながら言う。
『でも、それだけじゃない。赤い髪の子と小さい桃色の髪の子は時の“渡り子“だろう? 禁法である“時渡りの秘法”を使える者が居るとは驚きだな』
精霊は楽しそうにケラケラと笑っている。三人は何が何だか分からないといった顔だ。
「と、時渡りの秘法?」
『そうさ。言葉の通りの魔法でね。未来や過去のある一点に飛ぶ魔法さ。使った本人と対象だけが普通は飛ぶんだけど、どういうわけか二人飛んだみたいだね』
「それって、私とペシエラの事?」
精霊の言葉に、確認するようにロゼリアは呟く。
『そうそう。多分そっちの小さい桃色の髪の子は、君との因縁が強すぎて巻き込まれたんだろうね』
「あぁ、それなら納得ですわ」
ペシエラは手の平を拳でポンと叩く。
『ただ、この秘法は禁法と言ったよね?』
「え、ええ」
『使った本人も時渡りをするけど、代償として魔法の力を失うんだ。あと、対象となった者にそれを告げる事もできないんだ。話してしまえば、変えたかった事象が確定してしまうからね』
「そうなのね……」
精霊の説明に、ロゼリアは悩む仕草をする。
『君たちはボクの興味を引きすぎだよ。時渡りと世界渡りが同時に存在するなんて、まずあり得ないからね。しかも、一人は立場が変わってしまったようだね』
「そ、そんな事も分かるのです?」
ペシエラが叫ぶ。
『そりゃそうさ。ボクたち精霊は時の流れに関係なく存在してる。それに加えて、人の魂も感じ取れるんだ。桃色の髪の子たちは、とても不思議な状態だからね、すぐに分かったよ』
精霊があまりにも的確すぎるので、ロゼリアたちは自分たちの事を精霊に説明した。全部を語ると長くなりすぎてしまうので、大まかな事だけを話した。
『うん、大体は理解したよ。やはり人間というのは面白いね』
精霊はクスクスと笑っている。どこに面白い点があったのかと問いたいが、精霊にとっては人間の行動の一つ一つが面白いのだから仕方がない。
笑いが治まると、精霊はロゼリアたちに向き合う。
『うん、決めたよ。君たちについて行こう。退屈しそうにないからね』
「え、ええぇっ?!?!」
精霊の発言に、ロゼリアたちは大声で驚いた。気まぐれで気難しいとされ、契約する事はほぼ無いと言われている精霊が、あっさり一緒に居ると言い出したのだ。驚くなという方が無理である。ゲームでヒロインと精霊が一緒に居る事を知っているチェリシアですら、である。
『一番魔力の多い、大きい桃色の髪の子につくとしよう。それだけの魔力があれば、他の二人にもボクの能力を伝える事ができるからね』
精霊はすっと、チェリシアの頭上へと移動する。
『ボクの名前は“レイニ”だよ。大きい桃色の髪の子なら、おおよそ意味が分かるだろうけど、一応説明しておくよ』
レイニ、それは光線を意味するrayと雨を意味するrainの二つの意味があるらしい。つまり、光と水の魔法を得意とする精霊だという事を意味している。
『そういえば、君たちは水場を求めていたようだね』
唐突なレイニの言葉に、ロゼリアたちはカイスの村の事を思い出した。
「そ、そうです。カイスの村に農地を作ろうとすると、どうしてもまとまった水場が必要になるので」
説明するロゼリアに、レイニはふっと微笑んだ。
『ボクに任せてもらおうかな。魔物氾濫を鎮めてくれたお礼だよ』
レイニが羽を強く動かして魔法を使うと、魔物氾濫の起きた凹地に振動が起きる。その揺れは村まで伝わり、村は警戒に包まれた。
ところが、その揺れが治まった次の瞬間、目の前では信じられない事が起きた。
突如として、凹地から大量の水が噴き出したのだ。それはあっという間に凹地を湖に変え、湖からは新たな川が流れ始めた。
『地下水脈に働きかけて、この場所に湧き出るようにしたんだ。これでこの辺りは、見る見るうちに緑に覆われると思うよ』
レイニは白い歯をのぞかせながら笑う。
ロゼリアたちが呆気に取られる中、しばらくの間、湧き水が轟音を響かせているのだった。
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