第19話 女王の威厳
(あれがブランシェード・アイヴォリー女王陛下。なんという気品に満ちた佇まい。お会いする度に思いましたが、凛としていてかっこいいですね)
ロゼリアは、両親の影から女王陛下を見てそう思った。逆行前でも、数度お会いした事があるのだが、本当に厳しい人だったのだ。
この時から既に凛とした顔をしており、さすが国王を支える女傑である。
ロゼリアが感心していたのも束の間。続く光景に驚く。
クリアテス国王陛下とシルヴァノ殿下が続けて入場してきたのだ。まさかの王族勢揃いとは、驚きだった。
というのも、前回は女王陛下のみで、子どももロゼリアとシルヴァノ王子だけ。大人も婦人方だけの本当にただの茶会だったからだ。
今回の規模は明らかに違いすぎる。
次の瞬間、ブランシェード女王陛下の視線がロゼリアに向き、続けてチェリシアにも向けられた。ロゼリアは気付いたが、チェリシアは気付いていない。
そして、ロゼリアが恐れていた事態が起きようとしている。
「皆のもの、本日は我が呼び掛けに応じ、よく集まってくれた」
女王陛下の呼び掛けに、参列者は声を上げて応じる。
ここでこの国の王族について話をしよう。
本来は男性もしくは女性の王が一人立つのだが、この国は夫婦揃って一人の王という考え方を持っている。
昔は国王に対し王妃、女王に対し王配というどこにでもある制度だったのだが、どういうわけか王になった者が早死にする傾向にあった。
そこで悩んだ当時の重鎮たちが、王位継承者夫婦を一人の王として立たせる事に決めたのだ。そして、それ以降は夫婦のどちらかが早死にするという現象は起きなくなり、それ以降、その制度が維持されるようになったのである。
故に、現在のアイヴォリー王国には、国王と女王が同時に存在するのである。
話を戻そう。
場の歓喜の声に、女王は満足げだ。
「我が息子、シルヴァノももう八歳になった。そこで、婚約者の選定に入る事となったのだが、つい先日の一件で二人の候補を決める運びとなった」
この言葉に、ロゼリアの顔から血の気が引いてしまう。
先日の一件と具体的な内容は話されていないのに、ここに集まった面々は察しをつけている。つまり、コーラル領での話は、社交界にはすでに広がっているという事である。
女王陛下が隣に立つシルヴァノ殿下に一度目を向け、再び会場に目を向けると、
「マゼンダ侯爵家ロゼリア」
まずはロゼリアの名前を呼ぶ。
「は、はいっ!」
反射的に返事をするロゼリア。
「コーラル子爵家チェリシア」
「ふえっ、……は、はい!」
次に呼ばれたチェリシアは、浮き足立っていたか返事が一瞬遅れた。
「以上、二名をシルヴァノの婚約者候補として、この場で通達する。不服に思う者もおるだろう。ならば、これまで以上の努力をする事だな。もし、良からぬ事を考えるのなら、反逆行為として問われる事を肝に銘じておけ」
女王陛下は、会場をひと睨みする。整った顔立ちから放たれた睨みは、会場の貴族や商人たちを震え上がらせた。
「国王、こちらの相手はお任せしますわ。子どもたちとその母親は、妾について来なさい」
女王陛下はそう言うと、壇下の大広間へ向かい、そこから横の扉へと移動する。
そこへ、シルヴァノ殿下以外に集められた七人の子どもが母親を伴って集まった。
「妾たちは妾たちで、お茶会を楽しもうではないか」
女王陛下は従者たちに命じて、お茶会の最終準備をさせる。そして、女王陛下一行は、近衛兵と女王付き侍女たちを伴って、移動を始める。
(あー、胃がキリキリ痛むわ。ペシエラさんは当然ですが、お兄様たちからもすごい視線を感じるわ)
ロゼリアはお腹を押さえたくて仕方なかったが、我慢して平静を装って堂々と歩く。その後ろで、チェリシアは手と足が揃ってしまっていたり、ペシエラは相変わらずすごい形相で睨みつけてきたりと、一行の雰囲気はどこか修羅場だった。
だが、女王陛下に連れられてやって来た場所は、殺伐とした雰囲気を一発で吹き飛ばすような場所だった。
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