▼side Another act1:「……そういうことか」


 本当はこのside Anotherはここまでで1ページとしたかったです……。



 ●  ●  ●  ●  ●



 自らの息子の見解に腕を組み炎帝は唸った。

 同僚の水帝が頻りにサースを天才だと言っていたのに対し、フォルティスがサースのことを何故か守ろうとするような発言を時々していたため、その評価がハッキリしていなかったのだ。


 しかし今回、総帝と水帝以外からの評価も聞きその実力が本物であるという結論に到った。だから彼は唸った。じゃあ総帝の執拗なまでのサース・ハザードが弱者だという考えは何故生まれたのかと。



 「貴方から見た彼がそうだと言うのはわかるわ。私も似たような評価だから。


 だから今回貴方が経験したサース・ハザードが決断を下せなかったことについて話してくれないかしら」



 次の言葉をどう言おうか考えていた炎帝の代わりに水帝が口を開く。彼女が気になったのはウォイムの言う決断を下せないという部分だった。

 これまでの水帝の中でのサースへの認識は、魔力が他人より少ない筈なのに見る度に強くなる得体の知れない天才という認識だった。魔力さえ有れば、それこそ自分の今の地位に就いてるのは彼だったと本気で思うほどに。

 そんな彼の欠点とも言うべき話は彼女にとって物凄く惹かれる話題だった。

 だから思わず口を開いた。


 問い掛けられたウォイムは彼女の問いに最初に苦笑で答えたあと、あの岩場で行われた話をした。


 そして話が終わると同時、今度は水帝が唸った。

 彼の思想がわからなくなったからだ。


 彼女の中で形成されていた天才で怨讐の獣というイメージは、ウォイムの説明により周りより少し物が出来るだけの年相応の少年という物に変わった。余計に彼が掴み所の無い人間に見えるのだろう。


 そんな彼女を見かねたのか、はたまた自身の中で整理がついたのか、今度は炎帝が問い掛けた。



 「実際お前はどう思ったんだウォイム。現場に居たお前の話が聞きたい。お前は人の言葉をその時聞いたのか?」



 この問いにウォイムは言葉を詰まらせた。

 何か喋ろうとしても言葉が出てこないのだ。

 それでも何か言わねばと思考を廻らせ整理をつけたあと口を開いた。



 「結果論ですが、実際聞こえてはいたのだと思います。私がそれを聞き取れたかは別にして」


 「は?どういう意味だ?」


 「先日に蛇の獣人族だと思われる男が例の村で暴れて半壊させた事件を覚えていますか?」


 「あぁ、何故彼がそれほど怒り狂い暴れたのかは定かではなかったが、頻りに喚いていたらしいな。殺してやる。妻と子を奪ったキサマ等全員を殺してやると」


 「これは私の憶測に過ぎませんが、恐らく彼の妻と子を殺したのは私達です」


 「……そういうことか」



 身を乗り出し息子の話を聞いていた炎帝は座るソファーの背もたれに体を預けた。息子の言いたいことがわかったことと事実に気付いたためだ。

 そして息子の評したサース・ハザードが『良くも悪くも庶民から生まれた天才』と言われたのを正しく認識した。


 それ故に、思わず溜め息が漏れた。



 「切り捨てる。排除する。簡単だし大衆を見れば少数を切り捨てるのはいつの時代もそうだ。


 聞くまでも無いが、一応確認だ。

 親の種族と子供の種族はなんだった」


 「親はゴリラの獣人族。子供はスネークコングでした。そして、近くの村を半壊させたのは蛇の獣人族の男です」


 「…………。慣れんな。何年経っても慣れん。炎帝の地位に就いてそろそろ10年だ。しかしこの手の話は本当に慣れん。慣れたくもない。こういう話を聞く度に俺は炎帝という地位を棄てたくなる。それこそ魔物ひしめく大地を開墾してそこに村でも作って、そこで自分のルールで過ごしたくなる。


 そうか……。本当に、嫌になるな……」



 背もたれに体を預けた状態で顔を手で覆う。

 起きた悲劇を見てられないと言わんばかりに。


 しかし隣で話を聞いていた水帝は、そんな親子の会話に不思議そうなカオをした。まるで何を言っているのかわからないと言うかのように。


 実際彼女からすれば訳がわからなかったのだろう、口にしてしまう。



 「何をそんなに気にしているのよ。たかが魔族でしょ。なんでそんなことを気にする必要が有るの?」



 その言葉に炎帝の体から膨大な魔力が一瞬漏れる。しかしそれはすぐに成りを潜め、体を起こして前傾姿勢になり、そして頭を垂れた。


 ウォイムもウォイムで、あの岩場でのウィンターの言葉とここに来る前にウィンターとグリーランとした会話を思い出していた。


 彼は彼で悩んでいた。必要であれば彼等のように切り捨てたり処断するのは炎帝の息子でそういう教育を受けているから出来るだろう。しかし自分の友人達のように即決してそれを実行出来るかと問われれば、否と答えざるを得なかった。


 ギルド長室へと訪れる前、ウォイムはウィンターとグリーランの2人に魔族を始めとした自分達以外の種族について聞いてみた。

 そこで彼の2人の友人はこう言ったのだ。


 「国に属していない者は等しく魔族だ。例外は無い。そこに細かい種族なんて関係無い。というより、竜人族は本当に存在しているのかわからないし、天族も見たことが無い。本当に居るのかもわからない。なら我々エルフ族とグリーラン達獣人族、それにウォイム達人族以外の者やソイツ等に与する者達は等しく魔族だろう」


 「俺もウィンターとほぼ同意見だ。俺が実際そうやって育てられてきたというのも有るが、何より奴等は不気味だ。我々とは違う何かだと見える。ならば戦士長の息子として、俺は民の安全を護る為に必要であればいくらでも魔物も魔族も殺そう。」


 そう告げられて、その次に言われた「お前はどうなんだウォイム」という言葉に、ウォイム・エンラジーは答えることが出来なかった。

 世間一般的な意見としては2人の友人の言う通りだった。なんならこの前の事件まではこんな疑問を覚えることすら無かっただろう。


 しかし自分は名も知らない男の慟哭を知ってしまった。

 そして考えてしまった。

 だから即答することは難しかった。


 だからその時は、答えるのに少し時間を要したが、話を合わせる為に適当に「俺も2人と同意見だよ」と答えて誤魔化した。



 ウォイム・エンラジーの目の前には2人の人間が居る。

 恐らく自分と同じような考えを持つであろう父である炎帝と、自分の友人達と同じような考えを持つであろう水帝。


 だからこそ自分の1つ下だと言うのに恐らく父と同じ視点を持つであろう後輩であるサース・ハザードの異質さが際立った。


 何故彼が、どうやって彼が自分より早く父と同じ視点を得るのに到ったのか、水帝とは違う意味でサース・ハザードのことがウォイム・エンラジーは気になりだした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る