クソッ


 しかし、せめて本当に人間が居て、しかも生きてる可能性が有るから助けれるなら助けたいと言って、俺は無味無臭の睡眠導入の香を焚きたいと進言した。


 これを焚いて出た煙をあの家のような場所に流し入れ、十分な時間を置いてから入れば寝ているだろうから危険は少なくなると言えば俺の案が採用された。

 その直後「こんなのが有るなら早めに言っておいてくれ」なんて言われたが、「風通しの良い場所では意味が無いから言わなかった」と言って肩を竦めた。



 そこからは、正直あまり気分の良いものではなかった。


 中には人間は居なかった。正確には俺達のよく知る人族やエルフ族や獣人族といった国の有る種族の姿は無かった。

 代わりにいたのはスネークコングによく似た小さい赤子のような奴と、その赤子のような奴に重なるようにして眠るゴリラだった。


 俺からすれば、先程の声の正体が彼等で、恐らく分類としては獣人族か魔族なのだとわかった。しかしそう思ったのは俺だけだったらしく、チャーラル達は直ぐ様各々の得物を抜いた。



 「ちょっと待てよ!もしかしたらコイツ等は獣人族や魔族なのかもしれないだろ!それを話し合いを試みないで一方的に」



 そこまで言って、そこで黙らざるを得なくなった。

 チャーラルの杖が俺の方を向いたからだ。



 「ここに来るまでのお前はどうしたハザード。何を訳のわからない世迷い言を吐く。仮にお前の言が事実だったとして、それを確かめる方法が何処に有る。


 何より、獣人族?魔族?馬鹿を言うのも大概にしろ。こんな場所に隠れている時点で疚しいことが有るのは明白だ。

 それに例え獣人族であろうと、何より魔族など論外だ。


 良いことを教えてやるハザード。隠れて住むような奴は大抵異端の者だ。異端の者は毒だ。劇毒だ。この劇毒はありとあらゆる人間を蝕む。それを防ぐにはこうするのが1番なんだ」



 そう言い杖から風の刃を発生させ、上に乗る親の方ではなく子供の方の首へとその刃を突き下ろした。


 密室で仄暗かったのと、香のおかげで風の刃がよく見えた。

 その刃が小さな体に突き刺さっていき、そこから血が溢れ出るのもよく見えた。


 それに続いてイリコスが爪を出し、親ゴリラの人族で言ううなじ部分に爪を振り下ろし、その神経を断ったあと、ギコギコと小楯の刃で摩り切るように骨を削りながら親ゴリラの首を落とした。



 「急に何を思ったのか知らないが、覚えとけサース・ハザード。

 依頼で出会う依頼内容と酷似した容姿の者は全て敵だ。倒すべき対象だ。それが我々と同じ人間かそうじゃないかなんて関係は無い。等しく敵だ。


 ……ハザード、敵は倒さなきゃ殺られるのはむしろこちらだ。それにほら、部屋の隅を見てみろ」



 言われてチャーラルの言葉通り部屋の隅を見る。

 そこには人間の頭蓋骨だと思われるものや何かの骨や、明らかな肋骨のような物が散乱していた。



 「少なくとも人間かそれに近いものをコイツ等は食べていた。なら、これ以上の被害を出さないためにも、コイツ等はここで殺すしか選択は無いんだ。


 もう1度言うぞハザード。依頼で出会う依頼内容と酷似した容姿を持つ奴は種族に関係無く敵だ。人里から離れて隠れ住むような奴は大抵異端の者だ。異端の者は敵だ。討伐せねばならない。


 その事を強く胸に刻んで覚えておけ」



 返答することは、とても難しかった。

 だから俺は、「クソッ」とだけ吐いて、先に外に出た。


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