第15話 失意のノーム
大騒ぎした翌朝はいつも辛い。これは楽しい酒だからと言っても逃れられるものではない。今朝ももちろんひどい頭痛で目が覚めた。
しかし今のミーヤにはこれがある。と、ポケットから酒追いの粉を取り出した。ジスコの宿屋から持って来たままのコップへ水を入れ、スプーンの先につけた粉をかき回せると出来上がりだ。酔い醒ましを一気に飲み干してふと見ると、すぐ近くでチカマが膝を抱えていた。
「チカマ? どうかしたの?
元気ないけど、具合でも悪いのかしら」
「ううん、ミーヤさま寝坊すぎ。
もう昼すぎてるからね」
「ええっ!? もうそんな時間なの!?
もしかしてチカマ、朝ごはんなかったから怒ってる?」
「ボクそんなことで怒らないよ!
でもお腹空いたから…… 水飴無くなっちゃった」
昨日買ってあげたばかりなのに、全部食べてしまったのか。でもちゃんと起きなかったミーヤが悪いんだし、大人しく待っていたチカマに悪いところなんてあるわけがない。
当然のようにまだ寝ているレナージュとイライザはほっといて、朝ご飯を食べに行こう。レブンにはもう食事いらないって言ってあるか何の用意もないだろう。それに豆商人のところへも行きたいのだ。
「あれ? ナウィンは出掛けたの?」
「朝はいた。でもさっき出掛けたよ」
もしかしたらまた大池へパンを貰いに行ったのかもしれない。でもミーヤはパンが食べたいわけでも無いし、行くのは止めておこう。でもナウィンとは連絡先を交換してないから困った。
仕方ないので粘土板へ書置きを残しておくことにした。マーケットへ行ってくるので、帰ってきたらレナージュ達へ言って連絡を取ってもらうように、と書いてから宿を出てマーケットへ向かった。
トコストにもジスコと似たような野外食堂はあったが、特に目新しいものはない。あえて言うならトウモロコシ料理があるくらいか。ミーヤはドライフルーツ入りのシリアルにヤギの乳をかけたもの、チカマはジスコと同じベーコンフルーツサンドを食べてお腹を満たした。
豆商人の店はすぐに見つかり、連絡先を交換して今後いつでも取引してもらえると確約を貰えたので一安心だ。ついでに乾燥豆を大袋で購入しておいたが、さすがにこれは多かったかもしれない。
チカマには砂糖をまぶした炒り豆を買ったのだが、その味にとても満足している様子だ。目の前で食べて喜んでいたので、豆商人からも好印象だったに違いない。
「あとはチカマの武器が必要よね。
えっと地図で見るとあっちか、行ってみよう」
「はーい、ボクの武器取り替えるの?」
「修理できればそれでもいいけど、そんなにいいものでもないから買いなおした方がいいんじゃない?
武器を買うお金くらいちゃんとあるから、チカマは気にしないで好きなの選んでいいわよ」
嬉しそうに飛び跳ねているチカマを見ているとこっちまで楽しくなる。そう言えば防具も買ってあげたほうがいいだろう。今は胸当てしかつけていないから腰巻が欲しいところだ。
武具屋まで間もなくと言うところでレナージュからメッセージが届いた。どうやらナウィンが戻ってきたようで、やっぱりパンを貰いに行ってたらしい。それならこれから合流しようかと返信したら、やることがあるからまたあとで、それとナウィンも連れていく、と不思議なことを言われてしまう。
「やることってなんだろうね。
この間の後処理とかならナウィン連れて行くはずないけどなあ」
「ミーヤさま、いいから早くいこ。
みんな一緒なら問題ないでしょ?」
「まあそうなんだけど気になったのよ。
でもまずは武器を見に行っちゃいましょ」
武具屋へ入って色々と物色するが、チカマが気に入っているような二本セットの短剣は無いようだ。しかしセットではないが同じデザインの剣が二本あったのでそれにするか考え込むことになった。
こういうときはやっぱりレナージュが頼りになる。ミーヤには知識もないが決断力もない。もちろんそれはチカマも一緒だし、このままでは一向に決まりそうにない。
「嬢ちゃん、今使ってる剣を見せてみなよ。
長さをあわせりゃ同じところに収められるだろ?
背中へ固定するやつは珍しいから同じ物はなかなか手に入らないぜ」
「でもこんな短い剣、全然見当たらないわよ?
この場で短くしたりできないでしょ?」
「うわっはっは、そりゃ無理ってもんだぜ。
でも革の鞘って言うのは少しは調整できるもんだからな。
それくらいは俺でもできるさ」
そう言われたのでチカマの剣を固定ベルトごと渡して見てもらうことにした。
「うーん、やっぱりこの鞘が特殊なつくりみたいだな。
剣を逆さにしても落ちてこないだろ?
だからピッタリ合うやつが良いだろうなあ」
「修理は出来ると思う?
どこか鍛冶屋へ持ち込んでって意味だけど」
「かなり刃こぼれしてるけどできなくはないだろうなあ。
ヨカンドまで行けば、だがよ」
このあとヨカンドまで行くなんて考えてもいない。とりあえず今をしのげる武器だけでも買っておくべきだろうか。
「逆に短いのならあるんだけどどうだい?
物は悪くないが、投げナイフにもなるやつで五本セットだからなかなか売れねえんだわ。
もし買ってくれるなら安くしとくぜ」
「じゃあひとまずこれにしておきましょうか。
それとも他へ見に行こうかしら」
すると店主は慌てた様子で引きとめに掛かり、結局かなりの値引きを勝ち取ったのだった。これでひとまず今日の用事は終わった。と言うわけで宿屋へ戻るとレナージュへ連絡を入れてから帰ることにした。
帰り際にマーケットへ寄ると鶏肉があったので購入し、その他にも色々と買いこんでしまった。やっぱりこのまま料理人になるのも悪くないなんて思ったりもする。
カナイ村へ戻ったら料理担当にしてもらえば、いつもマールと一緒に居られる。でもチカマは狩り担当だろうし、きっとヤキモチ焼いてしまうことだろう。
しばらくするとレナージュ達三人が帰ってきた。でもなにか様子が変である。ナウィンはぐったりしながらイライザに手を引かれ、ほとんど引きずられているようだ。
「一体何があったの?
ナウィン大丈夫?」
「いやな、おチビがあまりにもスキル低いんで特訓してたんだよ。
でも確かにこれじゃパーティー追放されちまうわ。
レベル3だからそこそこやるのかと思ったら、細工彫金だけがエキスパートだもんなあ」
「まあそれはそれですごいことだけどね。
この年で生産系エキスパートはそういないわよ」
イライザに打ちのめされたナウィンをレナージュがフォローしていたが、それでも戦闘に向かないのは間違いなさそうだ。
「本当に冒険者になって大丈夫なのかしらねえ。
気持ちはわかるけどやっぱり無理があるんじゃないかしら」
「でも、えっと、あの……
二十歳までに冒険者にならないと、ジョイポンへ養子に出されてしまうんです」
「別にそれでもいいじゃない。
養子をとるくらいだから裕福なお宅なんでしょ?」
「いえ、えっと、あの……
そうではなくて、閉じ込められて一生こき使われると言うことです。
奴隷ではなくあくまで養子なので……」
まさかそんな事情があるなんて驚いた。この世界では奴隷は禁止されていて、破ると極刑だと聞いている。それを回避するために養子にして、自分の子供としてこき使うと言うの? それでも倫理的には大問題だろうが、家庭内虐待のようなDVについての法制度は無いらしい。
「じゃあ逃げちまえばいいじゃないか。
別にヨカンドだけが住む場所でもないし、現に今はトコストにいるだろ?
だったらそのまま帰らなけりゃいいだけさ」
イライザは気楽なことを言っているが、ナウィンはうつむいて返事もできないでいる。
「そもそもなんで養子に行かなければならないの?
親が決めたからとかそんな理由かしら?」
ナウィンはうなずいてからポツリポツリと話しはじめた。
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