捕縛任務
あれから一カ月が経った。
チェンヴィラムとセプラテラとの戦いは終わり。
セプラテラが川の防衛に成功したという報告が入る。
戦争というのは国を疲弊させる。
崩壊させるなら今しかない。
「誰も居ないな」
僕とサムは今、セプラテラの農村を偵察している。
ほぼ無人の理由はなんとなく差しが付く、ここで働いていた者も大半は玉砕させられたのだろう。
ここでは、山から流れる川から水を汲みリンゴ、ブドウ、レモンなど様々な果物を作っているみたいだ。
そして、形の悪い物はジュースとして売り出し、無駄をなくしている。
羊、豚、馬などの動物も飼育していて、少し獣の匂いがする。
僕たちの目的はセプラテラに潜入し、戦いが始まるより先に敵の転生者を倒す事だ。
二日前、ノーズウェルとセプラテラの通貨を両替し、敵の転生者の一人が居るという農村までやってきた。
国がかなり疲弊しているせいか物価はかなり安く、宿も良いところ、食事もうまい物、馬車はファーストクラス。
しかし、銅貨を袋いっぱいに入れる事となった。
ただ、セプタテラが崩壊する前に、ノーズウェルの通貨に戻せるかわからない。
そうなってしまうと、今持っているお金の価値は無くなり損をしてしまう。
だから、貨幣の一部を塩と交換しておいた。
古代ローマでは兵士に給料として塩を渡しているほど貴重なものだった。
この世界でも、塩は貴重で、物々交換や交渉などの取引ではよく使われるみたいだ。
話を戻すと、女王様が捕虜となった転生者から敵の転生者の能力を尋問した。
その転生者の魔道具の能力は『時間停止』らしい。
一見、恐ろしい能力だが弱点がある。
それは本人に力がない場合、閉じ込められたり、縛られたりしても対応が出来ないという事だ。
僕たちの目的は、敵の転生者を無力化させることであって殺すことではない。
だから、サムが選ばれた。
その魔道具の能力は、糸、ロープ状の物を操る能力。
彼の魔道具を使い奇襲を行えば、時間停止能力者を容易に捕まえることが出来る。
「居たぞ」
サムが指をさした先に、一人の男が立っていた。
「アレは持ってきてるな」
「おう」
僕が聞くとサムは縄を取り出した。
縄はぬるりと蛇のように地面を這いながら進む。
時間停止能力を相手にする場合、絶対に隙を与えてはいけない。
僕とサムは息をする事を忘れ、その縄を凝視する。
縄が男の背後に迫り、あと4メートル程の所まで来た。
この時間がどれだけ、長く感じるのだろうか。
汗が頬を伝って、顎からサラリと落ちる。
あと1メートル。
男が振り向きそうになったとたん、蛇のように男の身体に巻きつく。
そして、男が時間を止めるよりも先に身体を縛り上げた。
「捕えた!!」
サムが叫ぶ。
このように縛ってしまえば、いくら時間を止めようが関係ない。
『時間停止』と言う一見最強そうな能力だが、あっけなさすぎる……
僕とサムが男を見ていると。
男は背を向けたまま、僕たちの方へ顔を向け、にらみつけてきた。
「あの男、首を180度曲げてるぞ」
サムが僕の服を引っ張った。
こういう時は、決まって嫌な事が起きる。
男の吸い込まれそうな目。
身体全ての毛が逆立つのを感じた。
「俺は、縄で強く縛りあげていた。 しかし、ここまでじゃない……」
サムは震えた声をだす。
縄が男の身体を、まるでロールケーキのように切断した。
しかし、男の表情は変わらず、背を向けたままこちらをにらみつけている。
「ありえない、ありえない」
サムが両手で頭に触れる。
その奇妙な光景。
胃から食道を強く握られるような戦慄感。
魔道具一つに付き、能力は一つのはずだ。
男は身体をこちらに向かって走り出した。
「サム、あいつの能力は『時間停止』なんかじゃない!!」
「王女様が尋問に失敗するわけがない!!」
「ちがう。 捕まる事まで考慮して、捕虜にも嘘の情報を吹き込んでたんだ!!」
「そんな……」
サムの両手から力が抜ける。
そんな事をしている間にも敵は迫ってくる。
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