終戦、帰ってきた酔っ払い

 今朝、アトラクから人を笑わせる魔道具を持った少年の尋問が終わったと報告を受けた。

 攻撃予定のセプタテラの転生者は、これで最後らしい。

 そして、昼頃、伝令から「チェンヴィラムからセプタテラに攻撃が始まった」と知らせが入った。

 セプタテラの兵士たちにも、その知らせは届いたらしい。

 本国を守るために一気に引いて行く。

「追撃した方がよろしいでしょうか? 」

 兵士は僕に聞いてくる。

 腕を震わせるのは亡くなった仲間の事を考えているからだろうか……

 兵士に申し訳なく僕は答えた。

「いや、追撃はしない」

「……わかり……ました」

 兵士は僕から離れた後に、兜をそのまま地面に叩きつけた。

 亡くなった仲間の復讐を果たしたかったのだろう。

 しかし、チェンヴィラムとセプタテラの戦いはセプタテラに勝ってもらう必要がある。

 これから、セプタテラを崩壊させる予定だ。

 その際、領土はノーズウェルが頂くか、新たな国として体制を立て直すことになるが、どちらにしろ川は必要となってくる。

 チェンヴィラムは、これからも別の国から購入で購入すればいいが、セプタテラとノーズウェルにはこれが出来ない。

 だからこそ、セプラテラには川の防衛に成功してもらう必要がある。


「チェンヴィラムとセプラテラの情報をある程度の状況を聞いてきたぞ」

 アトラクが僕に声をかけてきた。

「兵の数は? 」

「セプラテラ2万に対してチェンヴィラムが5万だそうだ。 さっきまでここに居た軍が増援に入ればセプラテラは4万になる」

「場所は?」

「山で戦ってるらしい、セプラテラが上、チェンヴィラムが下だ」

 僕はほっと一息つく。

 セプラテラの陣地だ、補給に対しても心配はない。

 川は山から流れるため、水路を絶たれることもない。

 よっぽどのことがない限りは、セプラテラが勝つだろう。

 数日間の疲れが一気にキタ。

 僕は安心して、倒れそうになった。

「大丈夫? 」

 紫炎が僕の身体を支えてくれた。

 近くで見ると、やはり顔が良い。

 頼りになりそうなキリッとした瞳。

 優しい表情をした眉。

 執事の格好も良く似合っている。

「黙ってたらなぁ……」

「はい? 」

 紫炎は首をかしげる。

「いいや、大分疲れているようだ、今日と明日で休みを取ったら帰ろう」

「わかった」

 紫炎は左腕で僕の肩を支えて、右腕を脚の方へ回す。

 そして、無重力になったような浮遊感にドキッとする。

「ちょっと、普通に肩を支えてくれればいいから」

「いいのいいの、遠慮しないで!!」

 お姫様抱っこされ、そのままテントに運ばれた。


 どれだけの時間眠ったのだろうか……

 外の騒がしさで目が覚める。

 テントから出ると、空はすっかりと暗くなっていた。

 大きなテントから騒ぎが聞こえる。

 まさか、他の転生者の攻撃?

 僕は慌てて大きなテントの入口を開けた。

 サムと数名の兵士が倒れていた。


 完全に油断した。

 早くなる鼓動がハッキリと聞こえた。

 セプタテラは、まだここを狙っていたというのか?

 僕には戦闘能力なんてものはない。

 油断すれば殺される。

 僕はにじみ出る手汗をズボンで拭き、兵士の腰にある剣に手を伸ばす。

「マコトちゃ~ん」

 背後からした、鼻がよじれるほどの酒の匂いを感じる。

 僕が恐る恐る振り向くと、そこには顔を真っ赤にした紫炎がフラフラとしていた。


 倒れたサム達と、酔っぱらった紫炎の様子で全てを理解した。

 紫炎はかなり酒癖が悪い。

 おそらく、倒れているメンバーは紫炎から投げ飛ばされたのだろう。


 兵士たちが起き上がる。

「マコト様だ、助かった」

「紫炎様を止めれるのはマコト様だけだ!!」

 兵士たちは抱き合い喜ぶ。

 何が起きてるかわからないが、凄く嫌な予感がする。

「本当に君は……かわいいねぇ」

 紫炎が目をトロンとさせながら、僕の肩をがっしりと掴む。

 逃げようとしても逃げられない。

 これは、捕食される恐怖。

 蛇に追い込まれた蛙はこんな気持ちになるのだろう。


 紫炎は一瞬で僕を担ぎ上げた。

「逃がさないよ~!! あっちのテントで御着替えしよっか!!」

 紫炎は楽しそうに声を弾ませる。

 紫炎の肩の上で頭だけ上げて周りを見るとサムと目が合った。

 僕の「助けてほしい」と語る目に気付いたのか、サムは能力で糸を紡ぎ始めた。

 これは、もしかして助かるかもしれない。


「ホンマごめん、メイド服」


 サムは僕の期待を裏切り、クイズ番組で仲間に負荷をかけた時のような謝り方をした。

 紡がれた糸はメイド服になって、紫炎の手元に届く。

 サムは僕に向かってサムズアップし、僕はサムに向かってサムズダウンする。


「放せぇえええええええええええ!!!!!!!!!!!」

 僕は紫炎に小さいテントに連れていかれた。

 力任せに着せ替えさせられ。

 ひたすら抱きつかれ、頭を撫でられる。

 そして、翌朝になると案の定、紫炎は二日酔いの頭痛に悩まされるのであった。

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