第21話 頼み
「ヤマダさん、一体何をするつもりなんですか?悪い事なら……どうか考え直してください!」
メエラは両拳を握りしめ、悲しそうな顔で俺にそう訴えかけてくる。
貸があるんだから此処は見逃してくれと言っても、絶対通らなさそうな雰囲気だ。
彼女からしたら、俺の悪事を止める事こそ最大の恩返しとか考えてそうだし。
突っ切って巻くのが一番手っ取り早いんだが……
恐らく、とういうか絶対無理だろう。
レッカはそれを容易く赦す様な奴じゃないし、何より、メエラには追跡のスキルがあるからだ。
例えこの場を巻けても、直ぐに見つかってしまうはず。
もしゲヘン殲滅中なんかに乱入されでもしたら、目も当てられない。
最悪、力づくだな……
俺は悪食で、巨蛇から危機察知というスキルを手にいれている。
危機察知は、自分を殺しうる敵が一定範囲に入れば感知するというスキルだ。
だが現状、それは発動していなかった。
つまり、仮に戦闘になっても俺が負ける事はないって事だ。
もちろん、下手を打てば話は変わって来るだろうが。
……いや、まてよ。
本当にそうだろうか?
危機察知は、此方の命を奪う相手が大前提だ。
強い敵意を持っているとか、もしくは遭遇すれば殺し合いになる相手でないと反応しない。
止めに来ただけで、レッカに妹の恩人である俺を殺す気が全くなかったのなら?
もしそうなら、力の強弱関係なく危機察知は反応しない事になる。
レッカの力を考えると、その可能性は十分考えられた。
楽観的に考えて、安直な答えを出すのは余りよろしくないだろう。
「……」
まあこの際勝ち負けは置いとこう。
あくまでも戦うのは最後の手段だ。
まずは避ける方向で努力しないと。
レッカと戦う事になれば、例え勝てても、その後のゲヘンへの襲撃に大きな弊害が出かねないからな。
無駄な戦いは避けた方がいいに決まってる。
だがどうやって?
この状況を丸く抑える嘘――姉妹が納得する様な嘘なんて、ぱっと出て来る訳もない。
事前に分かっていたなら用意できたかもしれないが。
……そうなると、ここは下手な嘘をでっちあげるより素直に話すべきか。
これからやる事は、犯罪組織であるゲヘンの壊滅。
そしてこの街で奴らと手を組み、本人も間違いなく悪人である都市長の始末である。
後々主人公によって断罪される予定の、死んで当然の奴らを殺す。
それは俺の中では正義だ。
しかも弱い子供達を守る為とくれば、正に大正義である。
が――
いくら悪人とは言え、法を無視して人を殺す訳だ。
例え理由があったとしても、その行為を悪ととる者も少なからずいるだろう。
メエラ達がそれをどう判断するか……だな。
「俺は今からゲヘンを壊滅させ。さして、奴らと組んでいた都市長を始末するつもりだ」
「――っ!?」
俺の言葉に、メエラが目を見開いて絶句する。
まあ大量殺人の宣誓だからな。
しょうがない。
「ゲヘンとは懇意にしていた様に見えたけど……裏切るって事?」
そんなメエラに変わって、レッカが口を開いた。
「別に懇意にしてた訳じゃない。奴等から接触して来たのに対応していただけだ。俺が奴らを相手にしなかったら、子供達がどんな目に合わされていたから分からないからな」
「成程……それで?何故それをやめて、急に壊滅させようと思ったの?」
「俺は事情があって、今日明日にはこの街を出て行かないといけないからだ。ゲヘンは俺を取り込もうとしていた。袖にして面子を潰されれば、奴らが俺と関係のあった子供達を狙うのは目に見えている。だから子供達の為にも、なんとしても奴らはこの手で始末しなきゃならない」
「確かに。ゲヘンみたいな組織は、そう言う真似をしかねないわね」
レッカは俺の話を聞いて、納得してくれた様に感じる。
問題はメエラの方だが――
「子供達を守るため悪と戦う。やっぱり……やっぱりヤマダさんは、良い人だったんですね」
――嬉しそうな笑顔。
どうやら、「たとえ悪い人でも、人を殺すなんて駄目です!」とは言いださない様だ。
聖人君子的な、ウザい良い子ちゃんじゃなくて助かる。
「まあ俺が善人かどうかはあれだが……」
一応悪人ではないつもりだ。
が、子供達に近づいた理由が『カルマ値うめぇ!ウィンウィンだ!』だからな。
善人なら絶対、そんな下心丸だしな事は考えないだろう。
「納得して貰えたんなら俺は行かせて貰う。夜が明けるまでには終わらせたいからな」
「ま、待ってください」
俺が二人の横を通り抜けようとすると、メエラに呼び止められてしまう。
まだ何かあるのだろうか?
「ヤマダさんには助けて貰った恩があります。ですから、私とおねぇちゃんも手伝います」
「いや、気持ちは嬉しいんだが……」
悪人とは言え、子供に人殺しを手伝わせるのは流石に気が引ける。
いや、見た目が子供なだけで実際は違うんだろうが。
まあなんにせよ、だ。
必要なら構成員の情報引き抜きに拷問に近い事もするつもりなので、手伝ってもらうという訳にはいかない。
「ゲヘンの壊滅は俺一人でやる。意図がなかったとはいえ、俺の撒いてしまった種だからな」
「ヤマダさん……」
そのまま行こうとしたが、俺は足を止める。
せっかく恩返ししたいと言ってくれているのだ。
ならそのお言葉に甘えさせて貰おうと思ったのだ。
もちろん、ゲヘンの殲滅を手伝って貰うって訳じゃないぞ。
「だが……もし借りを返したいって言うんなら、二つほど頼みごとを聞いて貰えないか?」
「頼み事ですか?なんでしょう?」
「一つは、誰かに頼まれても俺の事を追跡しないでくれ」
主人公レイヤの壁になる予定ではあるが、それを延々続けるつもりはない。
ある程度で区切りを入れて、そこからは見つからない様に生きていくつもりだ。
もちろんカルマ値をプラスにして。
だがいくらカルマ値をプラスにしても、メエラの能力で追跡されたら隠れきれない。
ゲーム的な流れだと、レッカは主人公の仲間になる。
その場合、必然的にメエラもレイヤと知り合う事になるだろう。
そして彼女の力をしれば、彼は俺の追跡にその能力を頼って来る筈だ。
出来ればそれは勘弁願いたい。
「追われる身なんでね」
「わ、わかりました。きっとヤマダさんの指名手配も、何かの間違いにちがいありませんし」
「……」
何とも返事しがたい。
俺がやった事ではないとはいえ、指名手配自体は間違いでも何でもないからな。
ま、細かい事は考えない事にしよう。
「もう一つは……俺がこの街を離れたら、暫く子供達の面倒を見てやってくれないか?壊滅は徹底するが、残党が出ないとも限らないからな。報復から彼らを守って欲しい」
そうならないよう、正体を隠し徹底的に潰す気ではある。
それに身を守る術も子供達には教えてある。
それでも、万一がないとは限らない。
だから彼女達がガードしてくれたなら、俺は後顧の憂いを気にせずに済む。
「わ、わかりました。子供達の事は、私とおねぇちゃんに任せてください」
「ありがとう。感謝する」
俺は二人に頭をさげ、ゲヘンの殲滅へと向かった。
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