キズナクロニクル~マナトの物語~

鳴神とむ

 僕の夢は、仲間と一緒に冒険すること。

 勇者になって、モンスターを倒しまくって、最後はお姫様と結婚する。……はずだったのに。



「マナト、うしろ!!」



 背後からなにかが近づいてくる気配を感じ、僕は慌てて振り返った。



「……っ!」



 逆光でよく見えないが、それは黒ヒョウに似たモンスターだった。モンスターが飛びかかり、僕に襲いかかる。

 僕は右手に握っていた剣を振り上げようとしたが間に合わなかった。



 ──ザシュッ!!



 もうダメだと思わず目をつぶったが、全然痛くなかった。



「……あれ?」



 そっと目を開けると、目の前に見知らぬ男が立っていた。

 頑丈そうな鎧と兜、盾と剣を装備していて、いかにも戦士という感じだった。

 足元にはモンスターが死んでいて、一撃で倒したというのが彼の強さを証明していた。



「……えっと……」


「お前、死にたいのか」



 自分よりもはるかに背の高い強そうな男に睨まれて、僕はビビった。



「マナト、大丈夫!?」



 仲間のフウが真っ先に僕の元に駆けつけてくれた。さっき僕に声をかけたのもフウだった。



「ごめん、ボーッとしてた……」


「もうっ、戦闘中にボーッとしないで! マナトまで死んだら、私っ……どうしたらいいの?」


「ごめん」



 フウが回復魔法をかけてくれた。

 体力は元に戻ったけど、心のダメージは元に戻らないままだ。



「あの……助けてくれてありがとうございました」



 フウと僕は、男にお礼を言った。

 すると男は剣についたモンスターの血を振り払うと、鞘におさめた。



「俺はクロサキ。この先の城を拠点にして、モンスター狩りをしている。この辺りは比較的弱いモンスターばかりだが、たまに凶暴なモンスターが出現する。だから気を抜くな」


「はい、すみませんでしたっ……」



 フウは慌てて頭を下げた。

 僕はいきなりの上から目線に不快感を覚えた。



「何か困ったことがあれば町の酒場を尋ねろ。そのままでは全滅するぞ」


「……」



 僕たちに偉そうな説教をすると、クロサキは踵を返して去っていった。



 クロサキに言われたとおり、僕とフウは町の酒場に向かった。あんな強いモンスターが出るなんて知らなかったし、このまま二人で戦うのはやっぱり不安だから仲間を探すことにした。



 勇者の僕と、僧侶のフウ。

 そして本当はもう一人、戦士のシュンがいた。シュンは洞窟のダンジョンで死んでしまった。



 僕、シュン、フウは幼馴染みだ。

 三人ともファンタジーゲームが大好きで、ある時『キズナクロニクル』というアプリを見つけて、同時にインストールした。するとなぜかスマホの画面が光って、気がつけば僕たちはゲームの中へと入っていた。

 最初は戸惑っていたけど、モンスターと戦ううちに楽しくなって。調子に乗った僕たちはダンジョンでモンスターの集団に襲われて、シュンは死んでしまった。

 しかし元の世界に帰れない僕とフウは、そのまま旅を続けるしかなくて、今に至る。



「いらっしゃい、ここはマリコの酒場よ、うふ」



 綺麗なお姉さんがカウンターで僕たちを迎えてくれた。見惚れていると隣にいたフウが咳払いをした。



「仲間をお探しかしら? それとも仲間と別れる? それとも、モンスター討伐依頼の引き受けかしら?」


「仲間を……」


「ねーちゃん、ねーちゃん! いっちゃん強いやつ頼むわ、わいがぶっ倒したるでぇ!」



 関西弁の男が横から割り込んできた。

 僕が睨むと、関西弁の男は「ん?」とこっちに振り向いた。



「なんや、われ。自分もレア狙ってんか? これはわいが倒すんやからな、邪魔すなや!」


「……は? 全然違うし……」


「あん? なにをボソボソと言うてんねん、はっきり喋りや!」



 なんか今日は本当についてない。

 上から目線のクロサキと、勝手にいちゃもんつけてくる関西弁の男から絡まれて最悪だ。



「なにしてんのよワッキー! あんたが順番抜かしするからこの方たちは怒ってんでしょ! 謝りなさいよ!」


「いてっ」



 今度はツインテールの髪型をした女の子が現れ、関西弁の男の頭を背後から叩いた。



「ごめんね、うちらはあとでいいから、どーぞどーぞ!」



 ツインテールの髪型をした女の子は関西弁の男の襟を引っ張ると奥に引っ込んでいった。



「なんなんだ……」



 あんなのとは絶対に仲間になりたくない。

 絶対に……。

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