第58話 シルザールの街で脱獄の手伝いだ

「ほんと、面倒な奴だな。お前の意見は全部却下だ」


「なんだそれは。そもそも助けに来てくれなんて頼んでない」


「頼まれた記憶もないな。俺が勝手に来たんだ。俺の意志だ。俺に従え」


「横暴な奴だ。確かにコータローに間違いないな」


「納得してくれたか」


「お前がコータローだという事はな。ここから出ることは納得していない。駄目だ。セリス様に迷惑がかかるし二人で逃げてもまた捕まるだけだ。お前は見ていないのだろうが、あの魔法使いは化け物だぞ」


 エル・ドアンに捕まった時のことがトラウマになっている様だ。魔法そのものについては俺の魔法で免疫はあった筈だが。


「そんなに凄いのか」


「凄いというような次元の問題ではないな。神の如く、というやつだ。問題はそれがただの子供の力だということだ。善悪の区別がまだついていない。大人の言いなり、というか、指示されたことに素直に何の疑問も持たずに従っているだけのようだ」


 厄介な子供のようだ。師匠でも太刀打ちできないほどの魔法使いがまだ15歳だというのだ。


「あいつがまた来たら捕まってしまうだけだ。逃げられない」


 ジョシュアは完全に腰が引けている。もっと太々しいやつだったんだがな。


「エル・ドアンから逃げられるかも知れない、と言えばどうだ?」


 ジョシュアの目が少し光った。


「そんな方法があるのか?」


「かも知れない、と言ったろ?可能性がある、という意味だ」


「どういうことだ。話せ」


「嫌だ」


 俺は勿体を付ける。ここで駆け引きだ。


「嫌だ、と言うのはどういう意味だ」


「そのままの意味だ。話すのが嫌だということだ」


「どうして嫌なんだ。話すつもりで言い出したんじゃないのか」


「ただでは話せない、ということだ。俺と一緒に逃げると約束するのなら話す。約束しないのなら話さない」


 我ながら完璧な提案だ。何の齟齬もない。ジョシュアは聞くしかないのだ。


「それは卑怯なやり方だ」


「卑怯でも何でもいい。俺はお前とセリスが幸せになってほしいだけだ」


 実は自分でもあまり信じていないのだが、それは本当の気持ちだった。生前はそんな奴じゃなかったのだ。


「それともセリスがベルドアの第二夫人になって幸せだとか本気で思っているのか?」


「それは」


 ジョシュアは少し考えて結論を出した。


「判った、話を聞こう。それでその話に納得ができたのなら一緒に逃げる」


「駄目だ、話を聞いたら絶対に逃げる、じゃないと話さない」


「判った、判った。お前らしいやり方だ。コータローで間違いない」


「じゃあ話から一緒に逃げるんだぞ」


「判った、一緒に逃げるから話せ」


 それから実はあまり自信がない方法を俺は話出した。話を最後まで聞いたジョシュアは何とも言えない顔をした。


「それは、色々と問題はありそうだな」


「ありそうだな」


「なんだ、騙したのか?」


「いや、何とかなるかも知れない、という思いは本当だ。確実ではない、ということだ」


「判った。俺はいい、問題はセリス様だ」


 ジョシュア気一応俺の案に乗ってくれるようだ。本当はあまり自信が無かったのだが。


「早速行こうか」


「そうだな。俺の処刑は今日らしいから急がないと」


 なんだ、もう処刑が決まっていたのか。それにしては落ち着いている奴だ。なんだかちょっと腹が立ってきた。


「なんだよ、今日に決まっていたのか。達観しているのか?」


「達観?なんだそれは。運命だと受け入れているだけだ。セリス様のご迷惑にだけはなりたくない」


 こいつは本当にセリス様命なんだな。もういいや、ちゃんとしてやろう。


 俺は看守の数人をとりあえず眠らせて牢屋の鍵を奪った。看守たちは後で失態を責められるのだろうが、そんなことを気にしている場合ではない。一応、看守を責めないで、というメモを置いておこう。


「何やってるんだ?」


「いや別に。セリスの部屋は判っている、さっそく行こう」


「なんでお前がセリス様の部屋を知っているんだ?」


「そこはいいだろう。彼女にお前の情報を聞いてたんだよ。部屋に入った時には着替えの真っ最中だったのは態とじゃないぞ」


 ジョシュアは視線で殺す勢いだ。ちょっと揶揄い過ぎか。


「お前なぁ、いつか俺がお前を殺す」


「うんうん、いつか殺してくれ」


 ジョシュアは俺が死なないと知っているので脅しのつもりでもないだろう。


 セリスの部屋の前に着いた。中に誰か居るかもしれないので、ジョシュアを残して俺だけで隠形&壁抜けで部屋に入る。


「セリス」


「あっ、コータロー様」


 部屋にはセリス一人だった。


「ジョシュアを連れてきたぞ、今部屋の前に居る。俺は出て行くから入れてやれ」


 俺はそういうと隠形魔法のままベランダに出た。除く趣味は無いが、まあ年の為だ。部屋の中を見たり聞いたりはしなでおこう。


 セリスは直ぐにジョシュアを部屋に招き入れた。暫らくは二人の世界だ。ジョシュアが上手くセリスを説得できるといいのだが。


「こんなところで何をしている?」


 セリスの部屋のベランダに潜んでいる俺に声を掛ける奴なんてダンテしかいない。







 

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