第48話 ロングウッドの森でルナと話し込んだ

「ルナさんも結構若返ったんですか?」


 俺は不用意にもそう聞いてしまった。女性に年齢を聞くなど失礼なことを。


「私は、そうね、それ聞く?」


「ごめんなさい、つい」


「いいわ、特別に教えてあげます。あなたもこれから若返るんですから。私は今の年齢は16歳くらいかな。それで元々は、えっと今は若返って五年たってるから、当時は492歳だったかしら」


「ヴァルドア師匠と幼馴染って言うのは」


「そう、本当の事よ。あの時はあなたが若返りの魔法を掛けてもらうとは思っていなかったから、あんな嘘を吐いてごめんなさいね」


「それはいいんですが、とすると師匠は」


「ヴァルドアは普通に歳を取っていたら私の三歳上だからちょうど五百歳ね」


 師匠は本当に五百歳だったのか。


「とするとクマさんは?」


「クマさん?」


「ああ、ナーザレスさんのことをクマさんと言っているんです。本人も承諾済みです」


「そうなんですね。確かにクマはクマですから。でも本人はクマとは認識していないでしょ?」


「確かに」


「ナーザレスに気に入られた、ということでしょう。ナーザレスはヴァルドアとは1歳違いですから五百一歳ですね」


 クマさんの話は全部本当だったのだ。ということは若返りの魔法も本当ということと、今目の前にいる16歳に見える女性は497歳ということか。


「ではクマさんも若返りの魔法を?」


「いいえ、彼は若返りの魔法を掛けられてはいないわ。あの魔法は彼にしか出来ないから」


「では若返りもせずに五百年も生きていると?」


「五百一年ね。若返りの魔法は掛けられていないけれど、彼は自分に時を止める魔法を掛けているのよ」


「時を止める?」


「そう。彼の身体はずっと成長も老化もせずに止まっているのよ」


「そんなことが可能なんですか?」


「今は失われた古代魔法の一種ね。だから若返りの魔法も含めてナーザレスやヴァルドア以外にはほとんど使える魔法使いは居ないわ。あと私ね」


 伝説級は本当に伝説級魔法使いのようだ。少し気になったのが「ほとんど」の言葉。


「ルナさんと師匠とクマさん以外にもそんな魔法が使える魔法使いが居るんですか?」


「ああ、ほとんど居ない、ってことは少しは居る、って思ったのね。確かに少しは要るけど多分現在の人間とは接触しないから居ないのと一緒かな。深い山や地下深くに居て出てこないから」


 居ることは居るんだ。まあ、こちらから積極的に関わらなければ問題ないってことか。


「その魔法は俺も出来るようになりますか?」


 伝説的魔法を使いたい、という切実な思いではなく、ただの興味だった。


「そうね、ちょっと難しいかな。あなたはマナの量は申し分ないけど経験が足りなさすぎる。あと百年ほど修行を積めば可能かもね」


「百年ですか。若返りの魔法を何回も掛けてもらわないと無理そうですね」


「ナーザレスなら熟練の魔法使いなので十分可能だとおもうけど、そんなに長生きしてどうするの?」


 五百年近くも生きているルナに言われるとは思わなかった。


「いや、特に長生きしてやりたいことが有ると言う訳ではないんですが」


 それから俺はルナに今自分が置かれている状況というか寿命でしか死なないことを説明した。


「なるほどね、飛んでもないマナの量の理由はそんなことだったのね」


「そうなんです。それで寿命と若返り魔法の関係がよく判らないので、その実験です」


 実年齢の寿命年齢なのか若返った肉体年齢での寿命年齢なのか。それによっては若返っても数年後には死んでしまうかも知れない。


 もし肉体年齢が若返れば寿命も延びるかも知れない。一種の賭けだった。寿命は教えてもらえないので正解が判った時には死んでいるのだが。


「実験ねぇ。若返っても直ぐに本来の寿命で死んでしまうかも知れない、ってことでしょ?若返る意味があるの?」


「回避できる可能性がある、ということですよ。一度間違いで死んでるんで、なんとか抗えないかと足掻きたいんです」


 それは本音だった。確かに冴えない人生で定年間際だったとはいえ、不本意に死を迎えたのだから、ちゃんと意味のある死を迎えたいと思っていたのだ。


「でもナーザレスも準備が大変なのよ。まず自分と相手のマナを融合させないといけないし、それには大量の特殊な薬草と木の実が必要なの。彼は多分今それを集めに行っている筈だわ」


「クマさんはそんな大変なことをしていたんですね。でも何故出会ったばかりの俺に、そんなことをしてくれるんだろう?」


「それは簡単よ。ナーザレスのマナとあなたのマナを足せば十分若返りの魔法に足りるから、という利用だと思うわ。普通の魔法使いでは王都の特級魔法士でも足りないかも知れないから」


 王都の特級魔法士のマナでも足りない?というか、俺のマナの量は特級魔法士を超えているのか。ちょと自慢してもいいかも。


「あなたのマナの量は反則だけどね」


 心を読まない約束だったが、多分読まなくても判るのだろう。俺は少し恥ずかしかった。


「確かに死ぬ思いはしてるけど死なないから反則だな」


 自覚はちゃんとしているんだ。特に最近はそう思う。凄い魔法士に出会う度に自分の未熟さを痛感するが、マナの量だけで対等に話してくれるのが心苦しい。


「何だ、ルナジェール、来ていたのか」


 そこに突然死クマさんの声がした。戻って来たのだ。俺はともかくルナにすら気づかれないのは流石だった。













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