第42話 シルザールの街で再会した

 マシューの声が既に遠くで聞こえている。なんとかマシューの部屋からは抜けられたが、さてこれからどうしたものか。


 ボワール家に戻るわけには行かない。それよりもまず城を無事抜け出さないといけない。


 とりあえず中庭に出て元来た馬車があった場所まではたどり着けた。今のところ見つかってはいないようだ。マシューが自身の失態を報告して総動員で探し回られたら拙い。それまでに城を出ないと。


「おい」


 突然誰も居ない場所から声がした。俺の姿も見えないは筈なんだが。


「誰だ?」


 と問い直したが相手が誰かは判っていた。俺の隠形魔法を見破れて、逆に俺には気づかれない魔法士。そんな魔法士はここには一人しかいない。


「オメガさん、どうしました?」


「どうしたもこうしたもないだろう。お前、俺が犯人だと知ったな?」


「そんな滅相もない。というか、あなたが犯人なのですか?」


「白々しいな。私は君たちの会話を聞いていたんだ、今更隠す必要は無い」


 なんと、オメガはマロンの部屋を出た後、マシューの部屋に来ていたのか。俺もマシューもダンテも全く気がついていなかった。オメガは隠形魔法については超一流だ。


「それで、どうなんです?今も持っていたりしますか?」


「当然。だから何だ?」


「元に戻りしたりは?」


「する訳ないだろう」


「でしょうね。それで、なんで城に俺を連れて来たりしたんですか?」


「現状、どこまで掴んでいるのかを調べるためだ。知っているか『赤い太陽の雫』はただ持っているだけでは全く探知魔法に引っかからない」


「そうなんですね。だから持っていても問題ないと。使い方があるんですかね」


「そこだ。使用方法が判らんのだ」


 なるほど、そこか。無限にマナを供給出来る『赤い太陽の雫』だが使い方が判らないと宝の持ち腐れだ。それを探るためにオメガは城に来たのか。


「探しいたけど判らなかったと?」


「そうだ。城の中を色々と探してみたが、この短期間では見つからなかった。そこでお前だ」


 どこで俺なんだ?


「お前と言うか、お前の師匠だが」


 なるほど師匠に使い方を教えてもらおうということか。あの師匠が素直に教えるとは思えないが。


「それで、俺ですか」


「そうだ。今から屋敷に戻るから付いて来い」


「それは拙いんでは?」


「どうしてだ」


「今頃マシュー・エンロール配下のダンテという上級魔法士が師匠を屋敷に迎えに行っているところですから」


 その辺りの話の時にはオメガは既に部屋に居なかったようだ。


「なんでヴァルドア様を」


「あなたを探すためですよ。あなたの隠形魔法が手に負えないと判断された結果です」


 そう言われてオメガは少し嬉しそうに見える。


「それではここで待っていればヴァルドア様が来られるというのだな」


「そんな訳には行かないでしょう。あなたを捕まえに来るんですから」


 なぜオメガは焦っていないのか。それは多分自らの隠形魔法に絶対的な自信があるからだろう。誰が来ても逃げ果せると思っているのだ。


「まあいい。ここには居ない方かいいのだとすると、お前はどうする?」


「俺も一緒に出ますよ。どうも俺は別の件でご領主様から追われているみたいなんで」


「なんだ、そうなのか。何をやらかしたんだ?」


「とりあえず話は後で」


 俺とオメガは隠形魔法を使ったまま城を出ようとしたが正門は閉まっている。裏門を探そうとした時、ちょうど門番が門を開けてくれた。ダンテが帰って来たのだ。


 それをマシューが出迎えている。


「ダンテ、あいつに逃げられた」


「そうなんですね。でもヴァルドア様をお連れできましたから、もう大丈夫です」


 師匠の隠形魔法や探知魔法はお世辞にも超一流とは言えない。攻撃魔法は王国一かも知れないが。でも師匠はなんでダンテに付いてきたのだろうか。


「これはヴァルドア・サンザール様、ようこそいらっしゃいました。僕はベルドア・シルザール公爵様にお仕えしておりますマシュー・エンロールと申します」


「ヴァルドアじゃ。それでマシューとやら、儂が何の役に立つというのじゃな?」


 当然ダンテから内容は聞いているはずだがマシューに再度確認している。多分ただの嫌がらせだ。


「ヴァルドア様に嫌疑がかけられていました『赤い太陽の雫』を盗んだ犯人かボワール伯爵様お抱えの魔法士オメガ・サトリームと判りました。そのオメガが城内で消えてしまったので出来ればご一緒に探していただけませんでしょうか?」


 マシューは切れそうになりながらも説明する。


「儂に嫌疑が掛かっていたと?」


「だから、それは晴れました」


「勝手に嫌疑を掛けて勝手に晴れましたとは、どういった都合のことじゃろうな。それにしてもオメガのことは儂に関係があるのか?」


「拙い僕たちの魔法ではオメガを捕らえられませんので、是非ともヴァルドア様にお力をお貸しいただきたいのです」


 マシューは根気よく師匠に付き合っている。そんなに気が長いようには見えなかったが、案外いい奴なのかも知れない。


 いずれにしても、少し離れた場所に居る俺やオメガには誰も気が付いてはいないようだ。


「まあ手伝ってやらぬこともない」


「ではとりあえず中へ」


 マシューと師匠は建物の中へ入って行った。ダンテが一人馬車を誘導するためなのか残っている。こちらへ向かって来るダンテを少し見ていた。すると明らかにダンテは俺の目を見た。拙い、見つかった。


「逃げないでいいですよ。そのまま隠形魔法は使ったままにしておいてください。マナの消費はあなたなら大丈夫ですよね」


 ダンテは俺に話しかけている。だがオメガには気が付いていないようだ。


「判った。でもどうして俺に気が付いていたらマシューに報告しないんだ?」


 俺は姿を隠したまま応えた。

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