第40話 シルザールの街でダンテの御供だ

「少なくともヴァルドアが犯人ではないと確定するまで拘束させてもらわざるを得ないな、おい、ダンテ」


 言われる前にダンテは既に俺をどこからが出した縄で拘束していた。俺が気づく間もなく、だ。


「おいおい、師匠の疑いは晴れたんじゃないのか?」


「僕はヴァルドアが犯人だとは思っていない、というだけだよ。ご領主様にちゃんと納得していただかないと。それまではお前は拘束だ。ダンテ、絶対に解くなよ」


 そこで俺は拘束されてしまった。ダンテにそのまま地下の牢屋みたいな場所に連れて行かれる。


「おい、ダンテさん、俺はこのままどうなるんだ?」


「私が知る訳ないだろう。ただマシュー様はあのようなお方だだか聡明な方でもある。ヴァルドア様が犯人ではないとお考えなのは確かだ。いずれお前も釈放されるだろう」


「いずれっていつだよ」


「私に判るはずがないだろう。マシュー様がられないお忘れにならなければな」


 忘れたまま、なんてこともあるのか。牢屋は何かしらの結界魔法がかけられているようで壁抜けができない。


 ん?するとおかしくないか?『赤い太陽の雫』が保管されている部屋が此処と同じように結界魔法を張ってあったとしたら壁抜けでは入れない筈だ。


 若しくは張ってある結界魔法を上回る解除魔法か。なんてことを考えているとダンテが戻って来た。


「おい、お前はオメガ・サトリームと一緒に来たのだったな」


「そうだが、どうかしたか?」


「オメガ・サトリームが城内で消えた」


「消えた?」


「そうだ。マロン・シシドス様の部屋を辞した後、城外へ出た形跡がない。お前たちが乗って来た馬車も残されたままだ」


 どうも城外に出た形跡がないので探して回ったらしいが見つかってないらしい。


「誰の探知魔法にも引っかからない、という訳か」


「そうだ。マシュー様の探知魔法にもな。となると城内にオメガ・サトリームを探知できる魔法使いは居ない」


 マシュー・エンロールが一番探知魔法に長けている、というのは間違いないのだろう。それを上回る隠形魔法の使い手、という訳だ。となると姿を消したことを考えるとオメガ・サトリームが犯人であることは確定のように見える。


「それで俺の、というか師匠の容疑が晴れた、ということでいいのか?」


 それ以外にダンテが俺の元を訪れる理由がない。


「まあそういうことになるな。マシュー様がお前もオメガ・サトリームを探す手伝いをさせろ、というご命令だ」


「なんで俺がマシューに使われなければならないんだ?」


「では、このままここに居ればいい」


「おいおい、それはないって。判ったよ、手伝う、手伝わせてください。すごく手伝いたい」


「最初からそう言えばいい。では出ろ」


 俺の拘束は既に解かれていた。


「ところで、お前のそのマナの量はなんだ?」


「なんだ、と言われても。修行の成果?」


「それにしては魔道が拙い。洗練されていない。駆け出しの初級魔法士にしか見えない。それにしてはマナの量はとんでもなく多い。そんな奴は見たことが無い」


「まあ頑張った、ってことで」


 死なない、ということはあまり知られないようしないといけない、と思っていた。死なないのならそれに対応した対処法が考えられてしまうからだ。まお、俺も本来の寿命がいつなのか知らないので突然寿命で死んでしまう可能性も十分あるのだが。


「そんな程度のものではないだろうに。まあいい、今のところは味方、とうことで協力するとしよう」


 ダンテは切り替えが早い。天才肌のマシューの元で有能な処理方というやつだ。


 俺とダンテは城内を二人で色々と回ってオメガを探す。探知魔法を使いながらなのだが、俺の探知魔法はあまり大したことが無い。ダンテはそこそこ使えるようなのでダンテ任せになってしまう。俺はもしオメガが見つかった時の拘束要員だ。


「マシューはマシューで探しているのか?」


「マシュー様は単独で行動しておられる。その方がお好きなのだ」


 部下を引き連れて扱き使いながら、というイメージだったのだが、そうでもないらしい。手柄を独り占めしたい、ということでもなさそうだ。ダンテと一緒に見つけてもマシューの手柄になることは間違いない筈だから。とすると本当に単独行動が好きなだけか。


「他の魔法士たちも探しているんだろう?」


 それにしては他に誰も見かけない。騒然としているのではないかと思っていたが、整然としている。窃盗犯をみんなで捜索している、と言う感じではない。


「まさかな」


「なんだ、何か言ったか?」


「いや、何でもない」


 俺は言葉を濁した。ふとしたことが頭を過ったのだ。


 それは、マシューが単独でオメガを捕まえたとして、それを報告せずに『赤い太陽の雫』を手に入れてしまう、という妄想だった。あくまで『赤い太陽の雫』は盗まれたまま、とう訳だ。ただの妄想だ。ただの妄想だったらいいな。


 城内のどこを探してもオメガは見つからない。俺たちが乗って来た馬車は確かに降りた場所にそのまま置いてあった。


「師匠を呼んでみるかい?」


「ヴァルドア・サンザール様をか。マシュー様に聞いてみないと判らないが、それは一考の余地はあるな。マシュー様とご領主様にも了解を得ないと無理だ」


 それはそうだろう。ベルドア・シルザール公爵は師匠を犯人だと今でも思っている筈だ。その疑いを晴らさない内に師匠を城に呼び寄せたとしたら、お咎めを受けるのはマシューになるだろう。


「一度ボワール伯爵家に戻ってもいいか?」


 犯人と目されるオメガが使えているワリス・ボワール伯爵も何らかの咎に問われる可能性はある。特に伯爵は元からの貴族ではなく金で爵位を買った類だ。


「それはやはり無理だな。ボワール家にも捜索の手が回ることになるだろう。ワリス・ボワール伯爵その人が今回の件に関係しているとも思えないが、やはり使用人の不始末の責任は免れないだろう」


 本当にオメガが犯人だとすると爵位剥奪などの重い処罰が降る可能性もあるだろう。そのあたりの機微はよく判らないが。


「では師匠に連絡を取る方法がないぞ」


「そうだな。では順番としてマシュー様にご領主様を説得していただき、ヴァルドア・サンザール様の御力をお借りするためにボワール伯爵家を訪ねる、ということにしようか。その際にはボワール伯爵様に蟄居の通達は少なくともお伝えしなければならないだろう。うちの誰かを見張りとして残しておく、というようなことになるかも知れない」


 その辺りが無難なところか。折角お世話になったボワール家に降りかかった災難だが、今のところ逃れられる可能性は低そうだつた。



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