第35話 シルザールの街で相談してみた

 そこへヴァルドアが戻って来た。


「なんだ、二人して朝食か。儂の分はないのか?」


 師匠は突然部屋の中に現れた。ワリスの屋敷はオメガが結界を張っているので他の魔法使いの魔法での侵入は許さないのだがヴァルドアは魔法を使っていても通れるようになっているらしい。それでいきなり部屋に現れたりできるのだ。


「で、何か掴めましたか?」


「そうだな、『赤い太陽の雫』が保管してあった部屋と宝物入れを見てきた。魔法の痕跡は巧妙に隠されていたから、そこから辿るのは儂でも至難の業じゃな」


「えっ、城に行ってきたんですか?」


 シルザールには銀翼城と呼ばれる、実際には城ではないベルドア=シルザールの居所がある。城と呼んでも可笑しくない、というバカげた大きさではある。


「なんだ、行くと拙いことでもあるのか?」


「いや、師匠は今領主様から追われている身なんですよ?捕まったらどうするんですか」


「捕まらんのだからいいだろう」


「ヴァルドア、彼は君を心配しているだけだ。それで痕跡からは辿れなかったとしても、他には何もつかめなかったのか?」


 ワリスは容赦ない。師匠もなんだか無能呼ばわりだ。


「アレを欲しがって、盗む能力がある者、など限られてくるのだがな。儂が施した封印魔法を解除しているだけでも相当なものだ」


 それはそうだろう。特級魔法士のオメガに伝説の魔法使いと言わしめたヴァルドアが封印したのだ、そうそう破れる筈がない。


「だからこそ師匠が疑われているんじゃないですか」


「そうはそうじゃがな。ワリス、今このシルザールには上級以上の魔法士はどのくらい居ると思う?」


「そうですね、うちにも上級と特級合わせて四人いますから、まあ少なく見積もっても4~50人は居るんじゃないですか?」


「そんなにいるのか。では特級だけでならどうだ?」


「うちのオメガと領主様のところに確か4人は居たと思いますよ」


「では全部で5人か。あとは旅の途中で立ち寄った魔法士が居るかも知れんが、そやつらはベルドアの屋敷の内情には詳しくなかろう。結局その5人が怪しい、ということになるな」


 確かにヴァルドアの結界を破るとなると特級でも極少数の者に限られるはずだ。


「そうですね。領主様のところの4人は私はあまり詳しくないので、うちのオメガに聞いてみましょう」


 そう言うとワリスはオメガ・サトリームを呼びに行かせた。オメガは直ぐにやって来た。部屋に入るなりオメガは俺に目配せをする。例の件はどうなった?という意味だろう。俺はただ首を横に振った。これは駄目だったという意味ではなく、まだ伝えられていないという意味なのだが伝わったかどうかは判らない。


「お呼びですか、ワリス様」


「朝から悪いね、オメガ。実は領主様のところの特級魔法士について知っていることがあれば教えて欲しいのだが」


「それは構いませんが、どうかされましたか?」


「実は領主様の御屋敷から『赤い太陽の雫』が盗まれてしまったのだよ。しかし宝物入れにはヴァルドアが封印魔法を指南してかけていた。それを破れるほどの魔法士の仕業ではないと、ということなんだ。それに領主様の御屋敷にいる魔法士なら簡単に宝物庫に入れるだろうし、他には考えられないんだよ」


「なんと、あの『赤い太陽の雫』が盗まれたのですか。あれがあれば無限にマナを供給してくるという伝説の魔道具が」


「そうなんだ。それで今はヴァルドアが疑われているんだ。真犯人を探さないと疑いも晴れないし、そもそもシルザール家の家宝を取り戻さないといけないからね」


「判りました、私もそれほど詳しい訳ではありませんが、中には一人私と同じ歳で同門のものも居りますので、判る範囲で順番にお話ししましょう」


 それからオメガ・サトリームはベルドア・シルザールに仕える特級魔法士について話し始めた。


「まず最初にスネル・エンタオという魔法士が居ます。多分歳は60歳を超えているでしょう。元々アステアールの魔法学校で教鞭を執っていたものを領主様が引き抜いてこられたと聞いています。得意な魔法は攻撃系ですね。火系や水系、風系も得意と聞いています。」


 エンタオという名前からすると、どうもこの辺りの人間ではなさそうだ。俺も詳しくはないが何となくその辺りが判るようになってきた。


「次にハーメル・チェルリという特級魔法士かいます。この人は多分50歳くらいにで治癒系や回復系に長けているそうです。防御系もかなり使えると聞きました」


 特級魔法士と言っても得手不得手があるのだな。俺の得意な魔法は何だろう?自分でもよく判らない。


「そしてマロン・シシドス、45歳。これは私と同門で同じアステアールの魔法学校で学びました。特級になったのは彼の方が一年早かったので私ではなく彼が領主様に召し抱えられたのだす。領主様とも同じ年齢になります。領主様の信用も厚く、いつも話し相手を務めているようです」


 オメガの口調には嫉妬と怨嗟が鏤められていた。余程対抗意識が強いのだろう。


「最後に一番若い、多分25歳くらいだと思いますが、マシュ―・エンロールという特級魔法士が居ます。25歳で特級なのですから、彼は正しく天才です。攻撃、防御、移動、治癒、全ての魔法に通じていて、そのすべてが上位魔法を使いこなせるようです」


「そんな天才がどうしてシルザールに?」


 当然の疑問だ。それほどの天才なら本来は王都の王属魔法士団に所属している筈だ。それが大きいとはいえ地方の領主の屋敷に居るのは違和感がある。


「どうも王都で何かやらかして逃げてきた、という噂です。真実はわかりませんが」


 天才児は問題児でもあったという訳か。


「スネル・エンタオにはベルドアの屋敷で会ったことがあるな。東方の出身だと言っておった筈じゃ。あやつが儂の封印を破れるとは思えん」


 やはり得手不得手があるという意味か。


「他の三人は知らんな。同じ聞いたことが無い魔法士であれば、その一番若い奴が怪しいのかも知れん」


 天才なら師匠を超えることも可能かも?


「では、その一番若い奴を連れて来るとしようか」


「えっ、連れて来るってここへですか?」


 突然師匠は何をいいだすのか。ここに連れてきたら自分が匿われている場所を公言するようなものだ。


「拙いか」


「とても拙いです。それに連れて来るってどうするんですか?言っても来てはくれないでしょうに」


「うむ、攫ってくる気でいたが、それも」


「拙いですね」


「面倒なものじゃな」


 師匠はワリスに迷惑を掛けることなど意に介していないようだ。しかし師匠以外は全員反対だった。


「ではどうすればよいのじゃ」


「私がマロンを訪ねてお屋敷を訪れましょう。そこで何か掴めるかも知れません」


 オメガが提案する。ヴァルドアにいいところを見せて弟子にしてもらう、というようなことを考えているのかも知れない。同門のオメガが訪ねてきたらとしたらマロンも無碍な対応は出来ないだろう。ただ二人の仲は決していいとも思えなかった。

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