第17話 一難去ってまた非日常
教室に入り自分の席に着いた直後、緊張が解けてどっと疲れが回ってきた。
ここ数年で一番の恐怖体験だった。
意味不明も極まるとエネルギーがごっそりと持っていかれるものだ。
そのうち心労と過労で僕の心臓が止まりはしないか。
「何だ、宇野。随分とお疲れの様子じゃないか」
「逆川~」
いつも通りな逆川の様子に安堵の涙さえ滲んでしまう。
「なんだ、気持ち悪い表情して」
「もう何が何だか、僕にもさっぱりで……」
「いつもクールなお前らしくもない」
「逆川にそう思われてたとは意外だな」
てっきり根暗で卑屈で地味でボッチとか思っているとばかり。
「ま、それよりもまたこの近所で出たんだってな」
「何が?」
「何が……って、宇野。そんなの例の連続通り魔に決まってるだろ」
「な⁉」
連続通り魔⁉
それに聞き間違いじゃなければ、『また』って何だよ。
「その顔じゃニュース見てこなかったのか。昨日の夜もまた大騒ぎになってたぞ」
「……昨日は疲れすぎて晩飯直後に爆睡したからそんなの今ここで初めて聞いた」
「そうなのか、いつもならこういう話題には
逆川が意外そうな顔をする。
「いや、昨日あれだけ走り回ったら当然の結果というか……それよりも、その通り魔の話、もう少し詳しく聞かせてくれないか?」
「いつもなら俺は聞かされる側なんだが寝てたのならしょうがないか」
……逆川の中の僕のイメージは一体どんなことになっているんだ?
「今回のはうちの学区内らしい。
「ああ、なるほど……今朝のあれはそういう事だったのか」
「その様子なら、もう現場は見てきたのか」
「さすがに公園内までは入れなかったけど、警察らしい感じの人が沢山いたよ」
「なるほど……しかし、今回ので十三人目か」
じゅ、十三人⁉
なんだよそれ⁉
そんな大勢が襲われていたなんて話、一度だって聞いたことは無い。
聞いていたのなら絶対に忘れるはずがない。
「例に漏れず今回見つかったのも若い女性だって言うし、やるせないな」
若い女性。
通り魔。
ふと一昨日に見た悪夢の記憶がフラッシュバックした。
そう、あれは……
『夜中に一人で歩いている女性の喉を一突きし、その後に首の後ろを刺した』
右手の指でこめかみを抑えながら思い出した光景をそのまま呟いていた。
「そうだ。やっぱり分かってるじゃないか」
「あ、ああ……」
未だに鮮明に思い出せる反吐の出るような光景。
「宇野、どうした? ひどく顔色が悪いぞ。やっぱりどこか具合が悪いのか?」
「何でもない、気にしないでくれ」
必死に平静である
「正直言え、気分悪いだろ。お前正義感強いからな」
「まあな……」
正義感によるものではないが、確かに気分は最悪だ。
悪夢を見ているからだ。
現実になった悪夢を。
「夜中におちおち出歩けないとは、治安が良いと褒めそやされていた日本はどこにいったんだろうな。これも時代ってやつか」
「そうだな……」
昨日までの平穏な世界が一気に信じられなくなった。
ずっと退屈だと思っていた日常。
だが、決して不満など抱いたことは無かった。
その全てがまるで幻だったように。
僕だけが勘違いの夢を見ていたかのように。
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