第7話 出動

しばらくすると、その少年が戻ってきた。

「あの、もしかして、あなたが王子様ですか?」

「うむ。余がトランスじゃ」

白い顔のお化けは堂々と王子を名乗る。

「し、失礼ですが、なぜそんな恰好しているんですか?」

ボクはおそるおそる聞いてみる。王子の着ている服は紫色の派手なもので、ぴったりと体に密着していた。どうみても王子が着る服じゃない。

ボクは股間のもっこりが目に入りそうになり、あわてて目を背けた。

「これはレオタードというものじゃ。動きやすくて重宝しておる」

王子は悦に入った様子で踊る。お尻丸出しで平気で街をあるくハンケツ仮面といい、この国の貴族って変態しかいないのかな。

「その方の姿、なかなかカッコよいのう。セクシーじゃ。スタイルもなかなかよいのぅ」

「そ、そうですか?」

ボクはちょっと照れる。ボクのくのいち装束って似合っているのかな?

「うむ。その黒いミニスカートと黒網タイツがたまらん」

女忍者の正装をエッチな目で見るな!

「気に入ったぞ。くるしゅうない。ついてくるがよい」

ボクはなし崩しに、王子のいたずらに協力することになってしまった。

「ほら、そっちに行ったぞ。今じゃ」

「えいっ」

王子の合図でひもをひっぱると、ヒラテ将軍の頭に木の桶がおちてくる。

「ぐわっ!」

桶にあたったヒラテ将軍は、頭を押さえてしゃがみこんでしまった。

「ぎゃははははは」

王子は笑いながら逃げていく。

「まちなさい王子、逃がしませんよ」

憤怒の顔でおいかけてくるエリス騎士に、王子は廊下の端に追い詰められてしまう。

「さあ、来てください。今日は拷問室でたっぷりお説教です」

Sっ気たっぷりの笑顔を浮かべて近づいてくるエリス騎士に、王子は恐怖の表情を浮かべて壁に張り付く。

「今だ」

「はいっ!」

ボクが隠し通路の裏から壁を押すと、壁がクルリと回転して王子の姿は廊下から消えた。

「王子!どこに行ったのですか!出てきなさい」

壁の向こうでエリス騎士が悔しそうにどんどんと叩いているが、ボクと王子はニヤリと笑顔を交わしてハイタッチする。

「へっへっへ。うまくいったのぅ」

なんかちょっと面白いかも?こんなに人をからかって遊んだのは小さい頃以来だし。

それにこの城の仕掛けも面白い。忍者屋敷にも応用できそうなものがいっぱいあって興味ぶかい。

「よし、次の仕掛けにいくぞ」

「はい」

いつのまにか、王子に従って城中を走り回りまわり、さんざんいたずらを仕掛けて楽しむのだった。


深夜になって、王子に送られて隠し通路から城外に出る。

「トランス王子、今日はありがとうございます」

「うむ。また遊びにくるがよいぞ」

王子は白い顔に笑顔を浮かべて見送ってくれる。

今日は本当に有意義な一日だった。一日王子に引き回されたせいで、城内の人間関係から隠し通路まで全部把握することができた。これでボクの任務達成ね。

「ええ。また遊びましょうね。チュッ」

お礼にほっぺたにキスしてあげると、王子は満面の笑みを浮かべた。

「たりらりらーん。うれしいなぁ!照れるなぁ!」

王子は両手両足を振り回して妙なダンスを踊り、全身で喜びを表現している。ちょっと可愛いかも。

「それじゃまた」

「うんうん」

ボクは王子と別れ、帝都に戻っていった。

「あれがトランス王子かぁ。噂以上のバカだけど、悪い人じゃないみたい」

確かに王子はバカだけど、侵入者であるボクを捕まえもせずに一緒に遊んでくれた。ああいう人と一緒になれたら、姫様も楽しいんじゃないだろうか。

王子の人柄を知れたのは、大きな収穫だった。あれなら、少なくとも姫をいじめたりはしないかも。

「しかし、あの王子と姫が結婚するのか……あれ?」

なぜか胸の奥にかすかな痛みが走る。

「あれ?なんだろうこの気持ち。あのバカ王子に姫を取られちゃうのが嫌ってことなのかな……?」

自分でもこの気持ちがよくわからない。

ボクは首をかしげながら、報告のためにジパングに戻っていくのだった。


私はエリス。モンストル帝国の騎士で、騎士団長ヒラテ将軍の孫娘である。

そんな私は、祖父からある任務を告げられていた。

「魔物の討伐ですか?」

「うむ。帝都の東、聖なる森ケンシーに異常な数の魔物が集まっておる」

祖父は資料を基に説明してきた。

「ケンシー森は帝国守護獣、金竜マザードラゴンの神殿がある場所。本来なら魔物が近寄るはずもない。何かが起こっているのじゃろう」

「では、兵士を連れて……」

私の提案に、祖父はゆっくりと首を振る。

「残念だが、ある事情で兵士は動かせぬ」

「その事情とは」

私の質問に祖父は困った顔をしたが、しぶしぶその理由を話した。

「実は、この作戦では名目上の大将として、トランス王子が参加なされる」

「なぜ王子が」

私が嫌そうな顔になると、祖父は真剣な顔になった。

「一部廷臣たちから声が上がっておる。トランス王子もそろそろ武勲をあげる機会を設けるべきだとな。彼らの根回しにより、兵士の出動が見送られたのだ」

「武勲ですか?しかし、今の王子では……」

私が言いたいことを察したのだろう。祖父はだまって首を振った。

「……わかっておる。役にたたないというのだろう。だが、いつ王子が正気に戻られるかわからぬ。それを警戒した廷臣たちが、この機会に王子を抹殺するつもりなのだろう」

それを聞いて、私の顔にも緊張が走る。

「では、どうすれば……」

困惑する私に、祖父は優しく告げた。

「心配するな。すでにギルドを通じて冒険者を雇って居る。彼らを指揮して、見事討伐してくるのじゃ」

「ですが、冒険者など頼りになるのでしょうか。奴らは町のゴロツキのようなもの。仮にも騎士たる私が指揮すべきものたちではありません」

冒険者への不信をあらわにする私に、祖父は苦笑した。

「そうバカにしたものではないぞ。世界を救い帝国の基礎を築いた伝説の勇者シムケンも冒険者だったというではないか」

「そ、それはあくまで伝説でございます。今の時代、勇者シムケンのような高潔な冒険者がいるとは……」

しぶる私に、祖父は厳しい顔になって命令した。

「これは命令じゃ。冒険者すら使いこなせずに任務を果たせないものが、どうして立派な騎士になれようか」

「わ、わかりました。ご命令、謹んでお受けいたします」

私はしぶしぶ命令書を受け取り、冒険者ギルドに向かった。

「頼んだぞ、王子の身を守ってくれ」

そう告げる祖父の顔には、トランス王子に対する心配が浮かんでいた。



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