第85話

 それに……。

 ミック君はまだしも、キュイちゃんは連れていくことはできません。人ではない……それが知られたら大騒ぎになってしまいます。

 いいえ、それは隠そうと思えば隠せるかもしれませんが……。召喚者の2人目が空気が合わずに亡くなったと言っていました。人ではないキュイちゃんにちって、地球の空気が合わない可能性があります。キュイちゃんの命の危険があるような場所に連れていくことはできません。

 いつか連れて行ってあげるとも、一緒に行こうねとも何も言えなくて、ただ、二人のやり取りを聞いていました。

 せめて、連れて行ってあげられない代わりに、美味しい物を食べさせてあげたいと思います。何より私自身が食べたいのです。

 目の前に広がる玉ねぎプチ畑。

「さぁ、じゃぁ、玉ねぎを収穫しましょう!」

「おう!」

「キュイっ!」

 ミック君がむんずと玉ねぎの葉をつかんで引っこ抜きます。

 キュイちゃんがまねをして葉っぱを小さなおててでつかんで引っ張りますが、抜けません。

 あ、葉っぱがちぎれてキュイちゃんしりもちをつきました。白いワンピースが土まみれ……。

 こ、これは……汚れが目立たない服を買ってあげないといけません。それからワンピースは洗濯です。

「キュイ、大丈夫か?抜けないときは、ちょこっと周りの土を掘るんだ。そうすると抜けやすくなる。兄ちゃんがやってやる」

 ミック君が玉ねぎの周りの土を少し掘りました。玉ねぎが半分くらい見えたところで、キュイちゃんに声をかけています。

「ほら、キュイ、引っ張ってみろ」

 キュイちゃんが口を引き結んで戦いに臨む兵のような顔つきになりました。

 再び玉ねぎの葉を引っ張るキュイちゃん。

 んーと顔を赤くして引っ張ると、すぽぉーんと玉ねぎが抜けました。そして、再びしりもちをつくキュイちゃん。

 あああ、すってんころりした上に、ごろんと背中まで地面についてしまいました。

 目をぱちくりして、それからキュイちゃんは立ち上がり、玉ねぎを大きく掲げました。

「キュィーーーッ!」

 わかります。獲ったどぉー!って言っているんですね。この場合採ったどぉー!でしょうか。

「二人とも上手だね!さっそくこの玉ねぎを使って料理をしましょうね」

 二人が取ってくれた玉ねぎ。大きさとしては、小玉サイズの玉ねぎだ。2つで大玉1つ分くらいだろうか。私たちの分のオニオンスープを作るならば十分な量だよね。

「え?こんなにたくさん料理するのか?」

 ミック君がまだ土に埋まっている玉ねぎを見て声を上げました。

「違うよ、残りは保存するのよ」

「保存?使うときに出せばいいのに?」

 ミック君が首を傾げます。

「ミック君みたいに出したり、すぐに成長させたりできないからね」

「おいら、いつだってリツ兄ちゃんのために出すよっ、それともおいらが一緒に居るのは迷惑なのか?」

 ミックくんがちょっぴり寂しそうな顔をしました。

「ああ、違う違うよ。ミック君がいてくれて嬉しいよ。えーっと、私の住んでた国では普通なの。魔石で出したりもできないし、緑の手のような魔法もないからね。食べ物はたくさん作って保存しておくの。玉ねぎも、収穫してすぐのものを新玉ねぎって言うんだけど、この新玉ねぎと保存できるように干しておいた玉ねぎとではちょっと味が違うんだよ」

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