第74話
「ずいぶん柔らかい……。これならば、ワシの弱った歯でも十分食べられる。それに塩だけじゃなくてパイナップルの味がしみ込んでなんとも不思議じゃが、深みがある味になっておる」
ワーシュさんがにこにこと笑ってもう一切れお肉を口に入れました。
「うむ、噛まなくてもいいくらい柔らかい……リツ君、2切れでよいと言ったのを撤回してもよいじゃろうか?」
「はい。もちろんです。ワーシュさんが歯が悪くて肉が思うように食べられないと言ったので思い出して作ったものですから」
ワーシュさんが首を傾げた。
「何?ワシのために作ったじゃと?」
ワーシュさんの眉根がよりました。
ちょっとおせっかいしすぎたでしょうか。恩を売ろうと思ったわけではありませんが押しつけがましかったかもしれません……。
「あの男の出した肉が、柔らかい肉だったんじゃなく、リツ君が肉を柔らかくしたとでもいうのか?」
ああ、説明がまだでしたね。
「はい。パイナップルの酵素がたんぱく質を分解して肉を柔らかくするというのを利用したんです」
ワーシュさんが身を乗り出した。
「こう……そ?たん……ぱくし……つ?初めて聞く言葉じゃ……いったい何をどうすれば肉がこんなに柔らかくなると言うんじゃ?」
「簡単ですよ。昨日マーリーさんにもらったパイナップルの芯を細かくして肉を漬けておくんです。ある程度時間をおいて、つけておいた肉を焼くだけで柔らかくなりますよ」
ワーシュさんがお肉を何切れか立て続けに口に入れて食べました。
「柔らかい。柔らかい。歯が悪くなってからは食べたくともたくさん食べることができなかったが……これならばいくらでも食べられる。柔らかくはなっておるが、ちゃんと肉じゃ。肉の味がする。肉を食べている実感がある……」
実に嬉しそうに食べるワーシュさんを見て幸せな気持ちになります。
「ありがとう、ワシのために……いや、しかし、料理の方法を教えてしまってもよかったのかね?」
「いえ、方法というほどでもないですし……」
ワーシュさんが首を大きく横に振った。
「何を言うか。大したもんじゃ。いいや、大したもん過ぎるぞ。ワシのように歯の弱った老人がどれほど多いかわかっとらんの。だいたい地位と名誉と金を持っとるのは老人じゃ。その老人がこぞって食べたがるじゃろう。それがどういうことか……」
そういうことか……というと、お肉を食べると長生きできるというので、皆さん長生きしてくれるといいです。
ワーシュさんが長生きしてくれたら嬉しいです。
「金を払おう」
ワーシュさんがお金を取り出そうとするのを止めます。
「いえ、あの、約束通り牛乳をください。えっと、この中に入れてもらっていいですか?」
フライパンをテーブルの上に置きました。
小さめのフライパンとはいえ、カップにすれば5杯分は牛乳が入るでしょう。
「牛乳などいくらでも出してやるぞ。これっぽっちじゃ礼にならんわい」
ワーシュさんがフライパンになみなみと牛乳を出してくれました。
「ありがとうございますワーシュさん。十分ですよ。牛乳が飲めるなんてすごくうれしいですっ!」
水と粉ジュースしか飲めなかったので、嬉しすぎます。
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牛乳ゲットだぜー!
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