第69話
ナンのような膨らんでいないパンと手の平の半分くらいの大きさの肉と1センチくらいの輪っかを4等分くらいにした一切れのパイナップルがワンプレートに載っています。コップには果実水。
「お代わりは自分で魔石で出してもいいし、魔石を皿にのせて呼んでくれれば好きなものを出すわよ。宿泊客だけのサービス。あ、ワーシュさんはいつものどうぞ」
マーリーさんは空の器を一つワーシュさんの前において接客に戻っていきました。
「ああ、ありがとう」
ワーシュさんは空の器に親指の爪サイズの魔石……推定200円の魔石を入れると、呪文を唱えました。
「ミルク」
にゃ!
にゃにゃにゃ!
ミルク?
そ、それはもしや……!
ホカホカと湯気を上げているそれは、ホットミルク……温かい牛乳なのでは?いえ、山羊ミルクとか別のかもしれませんが、乳白色のそれは間違いなく、ミルク!
「ではいただこうかね」
ワーシュさんがパンをちぎってミルクに浸して口に運んでいます。
ああ、ナンっぽいパンなので特別固いと言うわけではありませんが、ホットミルクに浸すと柔らかくなっておかゆっぽいですよね。パンがゆ?
いいなぁミルク。
と、あまりにもうらやましそうに見ていたせいでしょうか。
ワーシュさんが私の顔を見ました。
「これが気になるかい?ミルク……実はね、牛の乳なんだよ。動物の乳を飲むなんて野蛮だろう?」
いえ、何をおっしゃっているのやら!
「この国では誰も飲まないから大きな声では言えないんじゃが我が国では一般的なんじゃよ」
ということは、チーズやヨーグルトやバターや生クリームも一般的でしょうか?ワーシュさんは出すことができるのでしょうか?
「知らないかもしれないが、鑑定しても有毒とは出ないんじゃがな、旅の途中でこの国の人間に分けてやったことがあるんじゃが、お腹を壊したんじゃ。それから人には勧めないようにしているんじゃよ……」
あ、それは……。なんか聞いたことのある話です。
アメリカ大陸を発見したときに原住民から牛乳を勧められお腹を壊して毒を盛られたと勘違いしたとかいう話でしたでしょうか。
牛乳は日本人にもお腹が緩くなるタイプの人がいますよね。乳糖を分解する機能が弱い人が下痢になったりするっていう話ですよね。確か温めた牛乳は大丈夫だったはずです。
……というか、冷たい牛乳は雑菌が入っている可能性もあるので別の理由でお腹を壊してしまったのかも。日本で飲んでる牛乳は低温殺菌だとか殺菌はしてあるものですし……。
いいなぁ。欲しいなぁ。親指の爪サイズの魔石を用意したら出してもらえるかなぁ。ほぼ初対面に近いのに図々しいでしょうか。
まだあと何日かは顔を合わせるはずなので、次かその次に顔を合わせた時に頼んでみましょうか。
牛乳で何を作りましょう。そのまま飲むのもいいですが、せっかくなのでミルクティーとか何か最大限に活用したいです。
と、想像を膨らませながら取る食事は、いつもの味気ないパンと物足りない塩味の肉だけでもちょっと楽しく食べられます。
肉は塩がきつめですが、臭みはそれほどなかったのでよかったです。
ワーシュさんは、自前のナイフを取り出して肉を小さく切っています。
せっかく細かく切ったのに、半分くらい食べたところで手を止めました。
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