第34話 グレイル視点

グレイル視点3話目です

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 リツが小さな魔石を取り出して手の平に乗せた。

 あの小さな魔石はスライムから取れるやつか?

パンすら出すことができずに見向きもされずその辺にいくらでも落ちているやつだ。

 それを拾ったのか?……あんな小さな魔石をいくら集めても何も出せないだろう……?

 いや、腐った豆ならもしかしたら出てくるのか?

 ダメだ、ダメだ。これ以上腐った豆など食べさせられない。魔石が足りないのか?もしかしたら落としたり誰かに取られたり……。

 いや。リツは優しい性格をしている。困っている人に渡してしまったという可能性もあるな。

 どちらにしても、クズ魔石を拾って何とかしようとしてるなんて……。なんてけなげなんだろう。

「塩」

 クズ魔石に向かて呪文をリツが唱えると、ちょろっと、本当に少しの塩が出た。

 俺が持ってきた一つまみの塩と同じくらいの量だ。

「出ました!出ました、塩が、出ました!」

 にこりととてもまぶしい笑顔で俺の顔を見た。

 うっく。相変わらずかわいい。

 いや、いや、かわいいとか失礼な単語しか頭に浮かばない。だってだ、本当にかわいいんだ。うぐぐ。ボキャブラリーが足りないとかじゃなくて、リツが何故だかかわいくて仕方がない。悪意がないからだろうか?俺に対して過度な期待をしているわけでも、下心があるわけでも、恐れを抱いているわけでもない。

「あ……うん、そうだな。確かに、塩だ」

 売ったとしても……パン魔石1つになるかならないか……クズ魔石10個くらい集めて出した塩ならパン魔石1個くらいにはなるか?

 という量だとういのに、リツはめちゃくちゃ喜んでいる。

 塩を出せることになったことで、これで金持ちになれるという発想は無いのかな。単純に使える分の塩が出せて喜んでいるように見える。

 ……いや、だけど、その方がいいのか?

 下手に塩が出せると知られてしまえば、悪い奴らにつかまって奴隷さながらに働かされる可能性もある……。

 お、おう、しまった!俺としたことが、そこまで考えていなかった。そうだよ、庇護者のいない子供が大金を産むと分かれば、すぐに餌食になる……のに。俺は、考えが浅すぎる。

 ……はちみつは渡さない方がよさそうだ。……流石に自分の行いが少年に危険を招くのはたまらない。

 これ以上少年に辛い思いをさせるわけにはいかない。

 落ち込んで表情が暗くなりかけるが、こんな顔を見せてせっかく喜んでいる少年に不安な思いをさせるわけにはいかない。

 話を変えよう。

「あー、せっかくだ。使ってみるか」

 ポケットから肉魔石を取り出してフライパンのふたの上に置く。

「肉」

 あんな小さな干からびた肉のかけらしか食べられないなんて、かわいそうに。お腹いっぱい肉を食べさせてやるぞ。

 しっかり焼いた肉だが、ちょっと温度が低い。フライパンの上で温め直せばよりおいしく食べられるだろう。

 リツは、出てきた肉をじーっとただ眺めている。

 塩が出てきたときのように笑顔を見せるわけでもなく、ちょっと首を傾げつつ見ている。

「肉に塩を振るとうまいぞ」

 塩を使ってみるかと言ったが、肉と塩の関係が分からないのかと、リツに声をかける。

「すでに火がしっかり通っているから、もういいだろう。ほら、食え」

 ずいぶんと肉をじっくり見ている。

 ……まさか、こんな大きな肉を食べたことがないから、食べ方も分からないとか?

 それとも食べずに小さく切って何日食べられるかとか考えているわけじゃないよな?

 それとも、遠慮してるのか?

 ボロボロな短剣が目にはいる。肉を一口サイズに……リツは俺よりも一口が小さそうだから、俺の一口の半分くらいのサイズに切って、木の棒で救い上げてリツの口元に持って行く。

「ありがとうございます。いただきます」

 あ。リツが笑った。

 胸がポカポカとちょっと温かくなる。喜んでもらえるのって嬉しいもんだな。……そういえば、俺の周りの人間は何かを俺にしてもらうと恐縮してしまうようで、表情が固まることはあっても、こんな笑顔を見せてくれることはないんだよな。

「……う」

 う?

 うまいのう?

 いや、ちょっと待て、なんかよくかまずに飲み込んだぞ?

「ほら、そんなに慌てなくても肉はなくならないぞ。もっと落ち着いて食え」

 めったに食べれない肉だからか?

 いくらだって俺が出してやる。いくらだって、リツ、お前に食べさせてやるから、慌てなくたっていいんだ。

 また笑顔が見たくて肉を棒に刺してリツに差し出す。

 今度はリツに笑顔はなく、黙って肉を食べた。

「あの、もう、食べられないで……す」

 え?まだ、2切れしか食べてないだろう?

「ああ、そういえば何か食べた後だったな。お腹がいっぱいか?」

 ……ろくなものを食べていないから食が細いのかもしれないな。

 ちょっと苦しそうな表情は、食べたいのに食べられないことを悲しんで残念に思っているんだろうか……。

 複雑な表情でリツが首を縦に振っている。

「そうか……もっと食わないと大きくなれないぞ……まぁ、俺は食っても細いままだがな……」

「あの、一つ質問したいことがあるのですが……」

「なんだ?」

「肉は、この世界の人は普通に食べているんですか?その、下層階級の人たちは何を食べて生きているのですか?」

 ん?ああ。リツはこの世界のことは知らないんだったな。自分がこんな贅沢をしてもいいのかとでも思っているのか?

「ん?ああ、確かに、下層階級の者たちは本物として食べたことがあるものは祝福で与えられるのはパンと肉になる。が、実際はパンはこのサイズの魔石で出せるが、肉はこのサイズの魔石が必要になるからな……。年に何度かしか肉が食べられない者も多い」

「あの、ほぼパンだけですか?それで大丈夫なのですか?」

「大丈夫とは?」

 何が言いたいんだ?まさか、肉が食べられない生活が?貧しい人たちの生活を心配しているのか?

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