ボス戦に向けて特訓

 ボス攻略要員になるのが決まり、これからどうしようかと思ってぼうっとしていたカラーの肩をぽんとククルが叩いた。

「じゃ、カラーさん、このままレベル上げしよっか」

「え」

 ククルは肩に置いた手でそのままカラーを掴んで逃がさないようにする。

 カラーは空を見上げる。そこではまだ〔エンヴォイ〕とモンスターとプレイヤーの〔魔術〕が入り乱れている。あそこに入って行くなんてカラーじゃなくても気後れしてしまう。

[構図が完全に廃人ゲーマーに目を付けられた初心者で草]

[ククルの目がガチやん]

[こわいわ]

 こうやって初心者に長時間プレイや効率的なプレイを求め過ぎてゲーム離れを引き起こしてしまうのだな。

 カラーもククルの目力に戸惑っている。

「大丈夫、カラーさんのレベル上げ手段はもう考えてあるから。ここでやっていこ。目標は金曜日までに〔召喚詩人SummonSinger〕が20とサブが10ね。いっそ〔召喚詩人〕重ねるのがいいんじゃないかなって私は思ってるけど」

「え、今日だけじゃなくて今週の予定が決まっちゃうんですか」

 カラーが攻略に入るのはククルの中で決定事項のようで圧が強い。【遊花ゆうか駅街えきがい】に比べて攻略が遅れていると言ってスケジュールがガチガチ過ぎるんじゃなかろうか。

「だって、カラーさんこうでもしないと、レベルなんか二つか三つしか上げないまま参加するでしょ。下手すると当日までRPOプレイしなさそうだし」

「まー、それはー。そのー」

 実際、今でもカラーは実況配信でしかRPOをプレイしてないし、そのプレイ日も間を空けるしな。

 本人も攻略組として最前線で戦うつもりがないから、それでなんの問題もなかった。

「安心して。カラーさんはお菓子出してくれるだけでいいから」

「え、それだけでいいんですか?」

「いいよ。それで敵を攻撃するメンバーがお菓子拾えばカラーさんにも貢献度入って経験値入るから。あと、経験値入る金平糖も出るんでしょ。それも使ってくよ」

 ククルはしっかりとカラーの配信を見ていたらしくプレイスタイルを把握している。そこから効率的な立ち振る舞いを考え出す辺り、やはりゲーム慣れしている。

[やっぱりママはサポートキャラ]

[MP回復だけでもかなりありがたいしな]

[経験値入る金平糖は実際チート]

[こうして見ると、草白さんもちゃんとプレイ出来る性能を身に付けたんだな]

 初めの頃は〔テディベア〕相手にもぽかぽか殴られて反撃も出来なかったのにな。

 ともあれ、歌えばいいだけならカラーも気後れする必要はない。

〈Sweety Tasty Candy

 Dreamy Yummy Candy〉

 カラーの歌声に呼ばれてまたシーツを被ったようなおばけが出現した。

 そのおばけは出て来るなりククルに纏わりついて目隠しをする。

「ちょ、なにすんの、前が見えないっ」

[trick or treat]

[お菓子持ってんのなんかカラーさんだけだよ]

[ざんねん。ママも持ってたお菓子全部子供にあげちゃったから今はないよ]

 ククルが体を捻っておばけを振り払うけれども、今度は足に掴み掛ってくる。

「もう! いたずらするんなら、あっちにしなさいよ!」

 ククルは空を指差して叫ぶが、おばけはちらっとそちらを見た後にぎゅっとククルの太股にしがみ付いて離さない。

 その間もカラーはくすくす笑いながら歌を続けている。

「カラーさん、ストップ! 歌、ストップ!」

 カラーはぴたりと歌を止めて不思議そうにククルを見詰める。まだ三十秒が経過していないからお菓子が出てきてない。

「カラーさん、今のは意趣返し?」

「いえ?」

「くっ……この天然さんめ」

[まあ、ママはそんなことで仕返しなんかせんよ]

[子どもがじゃれてるの見て楽しんでただけ]

[むしろククルンも楽しんでたと思ってと思われ]

 カラーは子供が子供らしくしているのを見ると誰でも幸せになれると思っているからな。

「カラーさん、〔召喚歌〕を切って歌ってくれない?」

「え、切れるんですか?」

 ククルは何にも分かっていないカラーに向けて神妙な顔して頷いた。

「宣言なしのアクションで起動しちゃうタイプの〔スキル〕は思考操作で使用不使用がその都度選べるけど、たぶんカラーさんには難しいでしょ。その代わりでシステムメニューで〔スキル〕のオート設定をオフれるのよ」

 ククルはカラーにシステムメニューを出させて、指差しで操作を教えていく。

 それだけ丁寧に教えればカラーでも問題なく操作を完了出来る。

「出来ましたー」

「今ので出来なかったからさすがにおこですよ」

 全くだ。普通のプレイヤーならヘルプを開いて自分で調べるような内容を手取り足取り教えてもらって実施出来たからといって褒めてほしそうに報告してこなくていい。

「カラーさん、ちょっとこのゲームの基本テクについて勉強しよっか?」

「……なんだか、大変そうな気がしますねー」

 ククルは基本テクニックと言っているがトッププレイヤーでは当たり前だけどかなりのプレイヤースキルを要求するようなものではなかろうか。

 それから一時間、ククルの特訓を受けるカラーの情けない悲鳴が配信されるのだった。

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