第315話 天使と悪魔の戦い



Side ???


クリスマスまで五日を切ったこの日、クリスマス島上空で、乱気流による警告が発せられ、この辺りを航行する飛行機は進路を変更していた。

また、海上でも同じように船の航路も変更させられている。


なぜ、こんなところで乱気流が発生したのか?

それは……。



『こちら、クリスマス島上空高度二万メートル。

望遠カメラによる映像を、そちらに出します』


高度二万メートルを飛行している航空機からの映像が、ホワイトハウスにある大統領の執務室のテレビに映し出された。


その映像には、それぞれ羽が四枚生えた女性が飛びながら、近づいたり離れたりしていた。

また、二人が近づくといくつもの火花が光っているのが確認された。


『大統領、これは一体……』

『天使と悪魔による戦いだ。

先ほど、クリスマス島の住人から我が国の軍に報告があった。

それで調べてみれば……』

『そ、それでは、この映像は、本物なのですか?!』

『ああ、本物だよ……』

『……天使と悪魔の戦いが、この地球上で?』

『まったく、どちらを応援したらいいのか……』


初老の大統領と、大統領の部下と思われる男が二人で話していると、ソファに座って映像を見ていた背広の男が立ちあがって大統領に懇願する。


『大統領! 応援するなら天使に決まっているではありませんか!』

『国務長官……。

君の考えは分かるが、私たちはまだこの戦いの意味を知らないのだよ?』

『何を言うのです!

我々の味方は天使に決まっています!

来たのですよ……』

『何がだね?』

『天使が現れたのです。

来たのですよ、終末が……』

『国務長官……』

『君は疲れているのだ。

少し休みたまえ……』

『ついに……。

ついに、終末が来たのだ……』

『『……』』


大統領は、表情がおかしくなっている国務長官を見て、ドン引きしていた。

国の中枢に、終末思想の人間がいるとはな……。




▽    ▽    ▽




Side ???


白い布を纏っただけの四枚羽の天使は、白い槍を振り回しながら戦っていた。

聖なる力を全身に纏って、力強く羽ばたき、目の前の上位悪魔に白い槍を突き出す!


だが、黒い四枚羽の悪魔は、天使の攻撃をひらりひらりとよけながら、両手に持つ二本の黒い日本刀を構える。

闇の力を全身に纏い、力強く羽ばたきながら空中に制止する。


『アハハハ! ミニラエル!!

上位天使のくせに、弱すぎないか?!

人間を魅了して、下僕にしたのだろうが!』

『上位悪魔のくせに、二刀流とは生意気ですよ!

ロベルスク! あなたこそ、召喚者を殺して自身の糧としたのでしょう!

その禍々しい力、私が浄化してあげます!』

『できるものなら、なっ!!』

『浄化しますっ!!』


再び、両者近づき戦いを再開する。

聖なる力を宿した上位天使の槍が、縦横無尽に上位悪魔に襲いかかるものの、召喚者を自身の糧とし、力を増した相手にはすべて避けられ、逆に黒い禍々しい力を纏った刀が上位天使の胸に突き刺さった!


『グハッ?!』

『遅いんだよっ!!』


突き刺した刀を抜き、上位天使から離れる上位悪魔。

白目をむいた上位天使は、聖なる力が無くなり地面に落ちようとする。

それを見て、上位悪魔がニヤリと笑う。


だが、すぐに聖なる力を取り戻し四枚羽を力強く羽ばたかせた。

そして、元の位置へと戻ってくる。


『……クッ!』

『……ほう、魅了した人間を犠牲にして復活したか』

『おかげで、大事な命を一人失いましたよ……』



上位天使が復活したと同時期、どこかの国のどこかの町中で、一人の男が青い炎に包まれて灰となった。

町中で起きた現象に、世間は騒然となるが、原因は全く分からなかった……。



黒い四枚羽を羽ばたかせ、空中で二本の刀を構えた上位悪魔は、上位天使を叱りつける。


『何が、大事な命だ!

貴様ら天使は、魅了した者たちの命を犠牲にして復活しているくせにっ!!』

『貴様こそ、召喚者の命を自身の力の糧にしているだろうが!!』

『美しい私の一部になるのだ! これ以上のご褒美はないだろうが!』

『何がご褒美か!? 上位悪魔が美しいなど、美しさの基準が狂っている証拠だぞ!

本来の美しさとは、我々上位天使の白き美しさだ!!』

『何が白き、だ!

純潔など、守ろうともしない淫乱天使どもがっ!!』

『貴様らこそ!

すぐに相手を殺して、自身の糧にしてしまうからいまだに純潔なのですよ!!』

『殺すっ!!!』

『貴様をなっ!!』


そして再び、上位天使と上位悪魔は戦いを再開する。

聖なる力に焼かれながらも、上位天使に傷を負わせていく上位悪魔のロベルスク。

禍々しい闇の力と二本の刀に苦戦して、劣勢の戦いを続ける上位天使のミニラエル。


その二柱の戦いのおかげで、ちょっとした嵐が巻き起こっていた。

そのため、飛行機も船も航路を変更していたのだ……。




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


コアルームで、俺は呆れながら上位天使と上位悪魔の戦いを見学していた。

俺の側には、同じように天を仰ぎながらミアとエレノアが呆れている。


「この二体は……」

「天使と悪魔って、相性が悪いのか?」

「ど、どうなんでしょうね……。

エレノア、他に召喚された天使と悪魔の様子はどうなの?」

「ああ、今はおとなしくしているわよ。

もちろん、出会えば今のように小競り合いをしているようだけど……」


これで、小競り合いか。

天使と悪魔の戦いとは、とんでもないのかもしれないな……。


でも、今の天使と悪魔の言い合いを聞いていると、悪魔より天使の方が淫乱ってどうなの?

普通は、逆じゃないの?


……まあ、男としては嫌いじゃないけど……。







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