第199話 厄介事は知らない所で増えていく



Side ???


「クラナ様、大丈夫ですか?」

「私は心配いりません。それより、妹のユリナのことを心配してください」

「ですが……」

「セル、ユリナは私の大事な妹です。

たとえ平民の母親との間の子供でも、私にとっては大事な妹です」

「……分かりました」


渋々、執事のセルは一礼して妹のユリナの元へ向かった。

盗賊に襲われ、護衛の騎士たちに犠牲は出たもののなんとか撃退した。

だが、その時馬車が横倒しになり、中に乗っていた私と妹のユリナが取り残された。


盗賊を撃退した後、私は真っ先に救出されたがユリナを誰も助けようとしない。

我が家において、ユリナは疎まれていた存在だからか……。


私の父が、平民の女性との間にできたユリナ。

その女性が去年亡くなり、父が引き取ってきて私に妹として紹介した。

私はうれしかったが、母をはじめ家のものは喜んではいなかった……。


疎まれているのは知っている。だからこそ、私がユリナを守らなくては……。


「お姉様……」

「ユリナ、ケガはありませんか? 大丈夫でしたか?」

「は、はい、私は心配いりません。

少しぶつけたぐらいでしたから……」

「それは良かった。

ユリナ、何かあれば私を頼ってくださいね?」

「あ、ありがとうございます。

それで、これからどこへ向かうのですか?」

「ダンジョンのある町を目指しています。

そこならば、私達でも安全に暮らしていけるでしょうから」

「ダンジョンのある町……」


私たちの父が、王国の政変に巻き込まれ投獄された。

それに伴い、私たちにも投獄の危機が迫っていた。

そこを救ってくれたのが、父の友人の貴族だ。


私たちは王都から逃がされ、浮遊帆船に乗せられて逃げてきた。

降ろされた町で、父の友人の貴族の使いという人がダンジョンのある町への案内をしてくれている。


「お嬢様方、ここから町まですぐですので歩きましょう。

馬車が、使い物にならなくなってしまいましたので……」

「分かりました。

ユリナ、歩きますよ? 大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですお姉様」

「では、行きましょう」

「はい、ご案内いたします」


こうして、ダンジョンのある町まで歩くことになった。

案内の男によれば、この街道はできたばかりだそうで、盗賊に利用されやすいらしい。

おそらく、できたばかりで巡回をする兵士や騎士がそろっていないのだろう。


街道ができたばかりの時は、盗賊などに襲われやすいと家庭教師が言っていた記憶がある。

都市経営には必要な知識だとかで……。




▽    ▽    ▽




Side セーラ


「この区画も問題なし……っと」


今日、私はテイムギルドのある町での、区画状況を調べていた。

この情報が、今後の町の経営に役に立つとかでダンジョン企画からお願いされていたのだ。


今、マスターたちは知り合いの女性が二人たいへんなことになっているとかで、情報収集に忙しい。

私も、マスターの助けになれればいいのだけど、テイムフィールドでの問題がないように頼むと言われて、町を巡回していてダンジョン企画の人に出会った。


そして、この仕事を頼まれたのだ。

何でも、人手不足だそうで大変なんだとか。


巡回のついでにできればいいかと、軽い気持ちで引き受けたのがダメだったのかも。

こんなに大変だとは、思わなかった。

町の状況を調べるといっても、実際その場へ行って目で確認しなければならなかった。


「お嬢さん、一人? 食事でもいかない?」

「……」

「無視はよくないぜ? どう? 奢るからさ~」

「……」

「もしかして、言葉通じない? 外国の人かな?」

「……」


いい加減諦めてくれないかな?

私は食事するつもりはないし、マスター以外の男に興味もない。

すると、声を掛けてきた男は、言語を変えて話しかけてくる。


『あなたの髪は太陽のように輝いている。

その美しい瞳で、俺を見てくれないかな?』

『……』

『金色の髪、青い瞳は、美の女神のようだ。

どうか、俺にチャンスをくれませんか?』

『……』

『……どうやら、チャンスはくれないようですね。

分かりました、今回は諦めます。ですが、次は振り向かせて見せますよ』


そう言って、私から離れていった。

ようやく、諦めてくれたらしい。


ハァ、言語を変えようとも、興味のない男からの言葉は気持ち悪いだけです。

ピクリとも、心が動かなかった。

やはり、マスターの言葉が一番心を動かされますね……。


「はっ、仕事を続けないと……」


最近は、変な人が増えました。

おそらく、リアルな女性よりファンタジーな女性をものにしようということなのでしょうか?

どちらも女性には変わりないのに、何を期待しているのでしょうか?




▽    ▽    ▽




Side 五十嵐颯太


異世界のことに気を取られていたため、ダンジョンパークの状況がおざなりになっていた。

だが、異世界のことがある程度解決できたため、再びダンジョンパークに力を入れることにした。


「……なあ、ミア。

九州ダンジョンパークでの犯罪って、こんなに多いのか?」

「そこに書かれている数字は、解決したものだけです。

起こったものを入れると、倍以上あると思ってください」

「マジかよ……」


そんなに、人って愚かなのか?

それとも、ダンジョンという空間が人を愚かにするのか……。

いや、もしかしたら、はしゃぎ過ぎただけかもしれないな。


いつもと違う空間で、いつもと違う人たちを見かけて、悪戯したくなったとか?







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