第190話 試練の料理
Side 五十嵐颯太
「さて、そろそろよいか?
お主たちに、テイムにおける試練について話そう」
「は、はい!」
「よろしくお願いします!」
ヤマトタケルノミコトが、テイムするための試練の話に移ると佐々原たちの意識が戻った。
確りと返事をして、聞き逃さないという気合を感じる。
どうやら、本気でおいぬ様とテイム契約を結びたいようだ。
「お主たちに課す試練は……」
「試練は……」
「ゴクリ」
「おいぬ様の食事じゃ」
「……へ?」
「分からぬか? おいぬ様の食事を、お主たちに作ってもらう。
これが、お主たちに課す試練じゃ」
「食事、ですか」
「そうじゃ。
おいぬ様も、聖獣とはいえ生き物。
食事は大事な行為じゃ。
そこで、お主たちにおいぬ様の食べる食事を作ってもらう。
じゃが、何でもいいというわけではない。
おいぬ様が、美味しいと判断できるものを作るように」
「「「「……」」」」
なるほど、食事を作るか……。
だが、これは料理を苦手としている者からすればかなりの試練だ。
四人の中に、料理が苦手なものはいるのか?
「では、本殿の隣の社務所を使うといい。
そこのキッチンにある食材を使って、おいぬ様が美味しいという料理を作ってまいれ」
「わ、分かりました……」
「は、はい」
「凛ちゃん、大丈夫?」
「た、たぶん大丈夫……」
まさか、凛が料理苦手なのか?
とりあえず、苦手でも食べられるものを作ってほしいな……。
佐々原たち四人は、本殿の横にある社務所へ移動していった。
「お主はいいのか?」
「俺は、付き添いですから」
「そうか。
ならば、料理ができるまで話し相手になってもらおうかの」
「俺でよければ……」
「そうか!」
嬉しそうに、ヤマトタケルノミコトが話しかけてくる。
どうやら、この神社を訪れる人がいなくて退屈していたらしい。
「この神社は、人里離れた場所にあるようでな。
訪れる者がいなくて、ずっと退屈しておったじゃ。
この象徴をおいて、どこかに移動するわけにもいかんしな~」
「なるほど。
このおいぬ様は、ずっと寝ている状態なのですか?」
「いや、起きている時もあるが、ほとんど寝ておる。
じゃから退屈でのう。
誰ぞ訪ねてくれば、退屈もまぎれるのじゃが……」
なるほど、それで最初の時のテンションになったというわけか。
初めて訪ねてきた人だったので、喜びすぎたんだな……。
「ところで、あの女子たちは、お主のコレか?」
「いいえ、違います。
一人は、付き合っていますけど」
「ほう、どんな出会いだったのだ?」
「中学の頃からの友達で、付き合いだしたのは最近になってからですね……」
「仲良くしておるか?」
「もちろんです」
「うむうむ、仲良きことは良きことよ。
お、良い香りがしてきたのう……」
「そうですね……」
本殿の縁側に座り、ヤマトタケルノミコトと話していると、社務所からいい匂いがしてきた。
そして、ヤマトタケルノミコトが膝を叩く。
「しもうた! 四人それぞれで食事を作るように言うのを忘れておった!」
「……今からは、変更はできませんよ?」
「う~む、今回は仕方あるまい。
言い忘れとった、我が悪かったんじゃからな……」
ラッキー! これで、四人全員にチャンスが巡ってきた。
後は、美味しい食事を作り、おいぬ様が食べてくれるのを期待するだけだ。
お、社務所から出てきた。
大きなトレイに、布巾がかかっている。
どうやら、あの布巾の下に料理が隠れているというわけか。
「おいぬ様に、料理をお持ちしました」
「お皿が四枚、用意されていたので盛り付けて持ってきました」
「うむ、ではお主ら出ておいで~」
ヤマトタケルノミコトが、寝ている大きなおいぬ様に向けて言うと、大きなおいぬ様の尻尾の中から小さな白い小狼が出てきた。
トコトコと、足早にヤマトタケルノミコトの側に近寄っていく。
『ヒャン、ヒャン』
『ヒャン』
『キャウン』
『ヒャン、ヒャン』
「「「「かわいい~~」」」」
その光景に、佐々原たち四人は表情を蕩けさせて見ている。
モフモフのフワフワな白い毛をした、小狼が戯れているのだ。
これは、顔の筋肉が緩む。
「ほれ、蕩けておる場合ではないぞ?
この子たちの前に、料理を出さぬか」
「ハッ! そうでした!」
「さあ、おいで~」
「美味しい食事だよ~」
「美味しいよ~」
手招きをしながら、佐々原たち四人が白い狼の子供たちを呼んでいる。
それに気づいた一匹が、トコトコと佐々原の用意した皿に近づく。
「美味しいよ~」
『ヒャン』
そう一鳴きして、お皿の中の料理を食べ始めた。
それを見ていた佐々原は嬉しそうで、ヤマトタケルノミコトは納得したように頷く。
どうやら、この白い狼の子供は佐々原とテイム契約するようだ。
そして、その様子を見ていた後の三人が、子供の狼たちを呼ぶ。
自分の前にある、皿の料理を食べてもらうために……。
「こっちの料理もおいしいよ~」
「さ、食べていいんだよ~」
「こっちおいで~」
それぞれの元に、白い狼の子供たちはトコトコと足早に移動していった。
その光景だけでも、ホントに尊い。
一心不乱に食べる小狼たちを、眺めているヤマトタケルノミコトが言った。
「うむ、四人とも合格じゃ!
お主らの前におる、小狼たちを抱えるが良い」
「こ、こうですか?」
お皿の料理を食べ終えた小狼たちを、佐々原たち四人はそれぞれ手で抱え上げて胸に抱いた。
「うむ、ではテイム契約を結ぼうぞ!」
そう叫ぶと、佐々原たち四人と四匹の小狼たちが光に包まれ、佐々原たちの左手の小指に赤い糸が結ばれ、その糸が小狼たちの首に巻き付いた。
そして、その赤い糸はそのまま首輪に変化する。
「……これで、お主たちはテイム契約で結ばれた。
名前を付けて、大切に育ててやってくれよ?」
「「「「は、はい!」」」」
「うむ、良い返事じゃ」
こうして、佐々原たちのテイム契約は無事、終了した。
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