第153話 地上ダンジョン



Side 五十嵐颯太


「奴隷解放で、相手を混乱させるのもいいけど攻めてくるのは変わらないのよね?」

「そうね、エレノアの言う通り攻めてくるのは変わらないわ」

「なら、開放された奴隷とかは進軍の邪魔でしかないから、討伐対象になるだけじゃないかしら?」

「奴隷を、排除しながら進軍するということか……。

ありえるだけに、酷いな……」


ブリーンガル王国の進軍目的が、ダンジョン討伐ならダンジョンに到着する前に邪魔になるような連中は排除対象となるだけか……。

やっぱり、ダンジョンに到着する前に何とか諦めさせればいいんだけど……。


「相手の目的は、ダンジョン討伐です。

こちらのダンジョンのことを考えれば、ダンジョンに到着された時点で負けということになりますね」

「となると、たどり着くまでに何とかしないといけないのか……」

「ねぇ、マスター。

地上をダンジョン化するってこと、できないかしら?」

「地上をダンジョン化か?」

「ええ、確か森がダンジョン化したという話をどこかで聞いたことがあったと思うんだけど……」

「エレノア、そんな森が存在するの?」

「みたいよ、ミア。

確かダンジョン化した森は、迷宮化しているみたいで森の中心へはその周りをまわっていくような構造になっていたはず……」

「直接、森の中心へ進んだ場合は?」

「元に、場所に戻させるらしいわ」

「それって、強制転移させられるってことかしら?」

「たぶん、そうみたいね、ミア」


地上をダンジョン化、か。

待てよ? 確か、DPで交換できるものの中にそんなものがあったような……。

俺は、確認するためにDP交換リストの画面を出し、検索欄から『ダンジョン化 地上』と打ち込む。

すると、検索結果が表示されリストが出てきた。


「あったぞ、DP交換リストに載っていた。

これを使えば、地上をダンジョン化することが可能だ」

「どんなものなのですか?」

「エレノアが言っていた、例の森のダンジョンと同じように決めた中心から、範囲でダンジョン化するようだな。

中心になる場所に置く中心コアと、どこまでを範囲にするか決める範囲コアの二つセットで交換リストに載っていた。

それと、さらに範囲を広げるための追加範囲コアは、単品で交換可能だ」

「範囲コア、一つではダメなのですか?」

「範囲コアには、距離の制限があるみたいだ。

え~と、範囲コア一つで、中心コアから半径一キロが限界のようだな」

「半径一キロ! 結構な距離だと思いますけど……」

「ダンジョン化するなら、一キロでは足りないってことなんだろうな……」


通常のダンジョンなら、塔型なら上に、洞窟型なら地下に階層を積めばいいだけだけど、地上をダンジョン化するとなると広さが必要になるということか。

出現させる魔物の大きさで、広大な広さを有することがあるみたいだしな。


「交換レートは、どのくらいです?」

「ん~、中心コアと範囲コアのセットが、DP二千三百万だな。

追加の範囲コアが、一つDP三千となっている」


追加範囲コアの方が、セットより高いってどういうこと?

まあ、俺にとっては微々たるものなんだが……。


「エレノア、東にある砦までの距離は分かるか?」

「え~と、確かここら辺に……。

あ、あった。砦までは、距離にして約三十キロです」

「……結構あるな」

「……そういえば、砦と町の間に川があったわよね?」

「ああ、あの大きいだけの川ね。

上流で大雨が降らない限り、あの川幅すべてが水で覆われることのないあの川。

確か、町から東に向かって五キロの所にあるわ。

川幅が、約七百メートルあるわね」

「マスター、その川を使って、敵を引き返させることってできませんか?」


川が激流に変わっていて、進軍ができなくさせることができるな。

後は、こちらで丈夫な橋を川の中ほどまでかけておいて、最後はつり橋にして進軍を阻むやり方もできる。

他にも、地上をダンジョン化できるなら城壁や砦を造ることも可能だ。

DPを消費して、ガーディアンを配置するのもいいかもな。


どうやら、ダンジョン化することで幅が広がるみたいだな……。


「少し考えたが、できるかもしれないな。

すぐに、地上をダンジョン化してみよう。

それで、いろいろ造れないか実験だな」

「はい、すぐに設置しましょう」


ということで、俺はその場でDP交換を行い、中心コアと範囲コアのセットと追加範囲コアを十個交換した。


「町にある、ダンジョンの入り口の近くにある建物を購入していただろ?

その建物の中に、この中心コアを設置してくれ。

で、この範囲コアは地面へ打ち込むようになっているから、中心コアから半径一キロ以内に打ち込むこと」

「分かりました、マスター」

「そして、この追加範囲コアだけど、中心コアと打ち込んだ範囲コアの延長線上に打ち込むこと。

それ以外、つまり延長線上から離れるにしたがってダンジョンとしての力を失うから気をつけて」


つまり、この追加範囲コアを使用するには、正確な地図が必要になってくる。

正確な延長線上を知るには、だ。

結構、意地悪な仕様になっている……。


「難しいですね……。

エレノア、地図はできていますか?」

「ダンジョンの町から、次の町への範囲であればできているわよ。

だから、問題ないわ」

「では、マスター。まずは設置してきます。

その後で、どう防御するかを話しましょう」

「ああ、よろしく頼む」

「では、エレノア。行きましょう」

「了解、ミア。では行ってきます、マスター」

「ああ、気をつけてな」


ミアとエレノアが、コアルームから出ていく。

それにしても、ダンジョンがあるというだけで、進軍を決めてくるとか……。

教会の教えというやつは、この時代になっても変わらないとはな。


誰か、疑問に思う者はいなかったのかな……。




▽    ▽    ▽




Side ???


ゴゴゴ…、というお腹に響く低い音を出しながらゆっくりと扉が開いていく。

そして、人が出入りすることができるだけ開くと門兵の男が出てきた。


「あんた、旅人かい?」

「は、はい、そうです。

この町は、通り抜けられますか?」

「ああ、それは可能だよ。

通り抜けるかい?」

「はい、お願いします!」

「それじゃあ、身分証を提示してくれ」


そう言われ、私は冒険者ギルドのカードを取り出して見せた。

すると、門兵の男は不思議な物を見たという表情をする。


「これは?」

「冒険者ギルドで発行されている、ギルドカードですよ?」

「ほぉ~、今のギルドカードはこうなっているのか……」

「今の?」

「ああ、いや、何でもない。

それじゃあ、確認したから通ってもいいぞ。

この門は、開けきることができなくて申し訳ないが、ココから通ってくれ」

「では、失礼します」


私は一礼して、門を通って町の中へ入った……。







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