第62話 カレーの匂いに負ける



凛との買い物デートならぬ、買い出しデートを終えてキャンプ場にバスで帰ると、班のみんなが三つのテントを張っていた。


「結構大きなテント何だな、陸斗」

「その分、張るの大変だったんだぜ?

みんなで協力して、一つ一つ張っていったんだからな」

「それは、ご苦労さん」


テントを見ながら、ドヤ顔で陸斗が自慢するように話す。

みんなも、テント張りに疲れたのか椅子に座って休んでいた。


「それで颯太、今日の夕食は何を作るんだ?

やっぱり、キャンプと言えば定番のカレーか?」

「俺もそう思ったんだけど、凛は違うみたいだぞ。

いろいろと材料を買っていたからな。全部で五千円近くかかったし」

「それって、豪華になりそうなのか?」


「いやいや、今日の夕食と、明日の朝食に昼食で三千円まで。

さらに自腹で、三千円追加できるってルールだった」

「……てことは、うちの班は自腹で追加したのか?

凛~、大丈夫なのか~?」


陸斗は、買ってきた材料を整理している凛の方を向き心配する。

だが、凛は笑顔で大丈夫だと言っている。


「陸斗、凛に任せておけって。たぶん大丈夫だよ」

「颯太……」



使わないと思われる材料を、凛の足元にあるクーラーボックスにしまうと調理を始めるのかと思ったが、肝心な物がまだなかった。


「颯太、調理道具と調味料をもらってこないといけないから付いてきて」

「了解。陸斗たちはどうする?」

「俺たちは、寝袋とかを取りに行かないと」


そう言って、椅子から立ち上がり移動するみんなを見る。

それなら、俺と凛の分もお願いして俺たちは調理道具や調味料をもらいに移動する。


「じゃあ、またあとでな」

「おう!」


そう言って、お互い移動していった。

俺と凛が向かったのは、キャンプ場の管理室のある建物だ。

そこで、調理器具や調味料が配布される。



「お、五十嵐と大内か。

調理器具は、ここに並べてあるもので必要なものを取って行ってくれ。

調味料は、そこにある班ごとの籠に入っている奴だ。

それを持っていって、夕食が終わったら調味料は籠に入れたままここに持ってきてくれ

もちろん、食器は洗って返すように」


「分かりました」

「了解です」


そう返事をして、凛が必要な調理器具を選び俺が食器を用意する。

学校の用意した段ボール箱に食器と調理器具を入れて、班ごとに分けてある調味料を持っていく。


「それで、お前たちの班は何を作るんだ?」

「私たちは、インスタントラーメンを使ったカルボナーラと玉ねぎを半分使ったスープです。後は、パンかな……」


「ほう、カルボナーラとはおいしそうだな」

「キャンプ飯のバリエーションは、多いですからね」

「確かに、定番にこだわっていたら美味しい物なんて食べれないな」


すごい笑顔で担任の先生は答えてくれた。

どうやら授業の一環としても、キャンプ飯はありだったようだ。




「キャンプ飯でもいいようだな」

「ん? さっきの先生の反応?」


自分たちの班のテントへの帰り、調理器具や食器の入った段ボールを持ち、調味料の籠を持つ凛に話しかける。


「もしかしてと思ってな、ちょっと聞いてみたんだ」

「颯太、配られた小冊子にキャンプ飯はありだって書かれていたよ?

それも、キャンプ飯の例を載せて書かれていたのに、読んでなかったの?」

「え? マジで?」


な、何だよ。キャンプ飯ありなのかよ~。

心配して損した。

でも、キャンプの食事で定番に固持していたのは俺自身だったか。


「も~、ちゃんと隅から隅まで読まないと、大事なことを見逃すよ?

颯太、しっかりしないと」

「うう、面目ない」


俺と凛は笑いながら、自分たちのテントまで帰っていった。




▽    ▽    ▽




「それじゃあ、作るよ!」


そう気合を入れると、凛は調理を始めた。

俺は凛の手伝いをしながら、雑用をこなしていく。


「颯太、これ千切りで」

「了解~、凛、お湯湧いたよ」

「じゃあ、このインスタントの麺を入れてほぐして」

「はいはい」


凛の指示に従い、いろいろと手伝っていく。

七人前を、いっぺんには作れないので三人前と四人前に分けて作っていく。


パパッと調味料を振り、ササッとオリーブオイルを掛ける。

味付けに、盛り付けと手際よくやるとすぐに完成した!


料理が出来上がると、俺はテーブルと椅子を用意する。

本当は、生徒全員が集まって食事をする場所があるのだが、今日はそれぞれの班で別々に食事をするように言われていた。


「おお~、おいしそう~」

「カルボナーラって、キャンプでも食べられるんだな」

「ねぇ凛、料理上手だよね~」


寝袋などを取りに行ってきたみんなが帰ってきて、手を洗わせて食事のテーブルに着かせる。

そして、皿にのせられた夕食を見て、それぞれいろんな感想を凛に言っている。


「それじゃあ、いただきます!」

「「「「「「いただきます!」」」」」」


席に着いた全員で、食事の挨拶をするとそれぞれの皿にフォークを刺しカルボナーラを食す。


「ん~、美味い!」

「本当に美味い! インスタント麺とは思えない!」

「こっちの玉ねぎスープも、濃厚で上手いな」

「低予算で、よくここまで作れるな……」


みんな、喜んでくれていた。

俺も、美味しい料理に笑顔になる。

ふと、どこからかカレーの匂いが漂ってきた。

どこかの班が、カレーを作っているのだろうか?


今まで美味しい美味しいと言いながら食べていたみんなが、キョロキョロと周りを見て何かを探している。

たぶん、どこの班がカレーを作っているのか気になるんだろう。


そんなみんなに、凛が一つ咳払いをした。


「オホン! ……カレーは明日の昼食に出す予定よ」

「い、いや、やっぱりカレーの匂いって気になるでしょ?」

「そうそう、何故か知らないけどカレーの匂いってすぐに分かるよな~」


まあ、言いたいことは分かるが今言うことじゃないよな。


ちゃんと、買ってきた物の中にカレーのルーはあったから。

大丈夫だよ。







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