第13話 ダンジョン見学



陸斗は、ダンジョンを利用したテーマパークはどうかと提案してきた。

いろいろな種族の人たちとの交流や、本物の魔法を使えることなど、他のテーマパークでは絶対できないことができる場所。


それが、ダンジョンというテーマパーク。


「いいアイディアね、陸斗! これで私も魔法が……?

ちょっと待って、何故テーマパークとして公開するの? 秘匿した方がよくない?」


凛の意見ももっともだ。別に、ダンジョンを世間に公開する必要はないのでは? それに、テーマパークとすると安全性も必要だろ……。

秘匿しておけば、ダンジョンの恩恵はごく限られた人たちだけとなるが……。


「秘匿なんてとんでもない! そんなことしてみろ、いずれ颯太がダンジョンマスターだってことがバレて、大変なことになるぞ!

颯太は、そんなラノベや漫画を見てきただろ? あんな目にあいたいのか?」


あんな目。それは、異世界帰りの主人公が必ずといっていいほど会う災難だ。

力を持った者が故の試練とでもいうのか、必ず大変な目にあっている。

もちろん、その分女性にモテたり仲間を増やしたりしているのだが……。


「……俺は、平穏でいたい」

「だろ? だから、このダンジョンを公開してテーマパークとして認知してもらう。

そうすることで、どこかの権力者の命令とか、どこかの政府の無理難題を聞く必要がなくなるわけだ」


どこかの政府の無理難題か、異世界ではそれで苦労したよな……。

俺が遠い目をしていると、凛は冷静になったのか陸斗に質問する。


「それで、どんなテーマパークにするんだ?」

「ファンタジーダンジョンパークと名付けて、入場料を取り、ダンジョン内でいろいろな種族と交流を持つ。

他にも、魔法を使って魔物と戦うとか、パーティーを組んでの行動やドワーフと飲み比べなどなど、提供できるイベントは多いぞ!」


陸斗は興奮しながら、ダンジョンテーマパークの説明をする。

俺もその説明に、いろいろこういう場面のことかなと、ダンジョン内の出来事を重ねていたら、冷静になっている凛が質問をする。


「陸斗、自分の目で確認しないでダンジョンをテーマパークにするという提案は、ちょっと早いんじゃない?」

「む、凛のくせにまともなことを……。でも、確かに確認が先だな!」


陸斗は凛の提案に同意すると、二人で俺の方を見てくる。

ダンジョンの中へ、連れて行ってくれということなのだろう。


「分かった、それじゃあ二人だけのダンジョンツアーと行きますか!」

「「おおー!」」


凛と陸斗がそろって叫ぶと、突如部屋の扉が開いた。


「ちょっと待ったぁー! そのダンジョンには、私たちも行くわよ!」

「……ごめんね颯太。盗み聞きは、良くないと思ったんだけど……」


部屋の扉を開けて入ってきたのは、俺の母親と妹だった。

母の話では、お盆に乗せたドリンクの入ったグラスが三つ。これを届けようと、俺の部屋の前に来た時、妹の麗奈が制服のままで盗み聞きをしている姿を見つけ、何かあると一緒になって盗み聞きをしたらしい。


その時、ダンジョンだの陸斗の興奮したテーマパークだの話が聞こえてきて、麗奈と顔を見合わせ部屋に乗り込んできたと。


「……麗奈、母さん」

「お兄ちゃん、どうしてこんな面白そうな話をしてくれなかったの?!」

「へ?」


麗奈は、少し中二病を患っていたようで、兄の不安など関係なく興奮している。というより、制服のままで何しているんだよ……。

それと母さんは、家族に最初に相談してほしかったようで、少し怒っていた。


「颯太、こういう大事な話はまず私たち家族にしてほしかったわ。

友達も大事かもしれないけど、家族だって颯太のこと心配しているのよ?」

「……ごめんなさい、母さん」

「分かればいいのよ。さ、ダンジョンとやらに行きましょう!」


……どうやら、母さんも中二病を患っていたらしい。




俺は少し呆れつつ、青い扉の前にみんなを連れて移動する。

そして、ドアノブに手を掛けると右へ回してドアを押し開ける。


「あ、マスター。お帰りなさいませ」

「ただいま。今日は…ぐぇ!」


開いたドアの先の部屋にいたミアが、挨拶してきたのでみんなのことを紹介しようと思ったら陸斗に引っ張られた。


「おい颯太、誰だあの美人は! それにマスターって……」

「……いきなり引っ張るなよ。

彼女はミアといって、俺のパートナーだよ。ダンジョンは、俺一人で動かせているわけじゃないからな」


陸斗たちは、ミアの全身を嘗め回すように凝視する。

ミアの容姿は、赤い瞳で金髪は長め、そして青色のスーツをゆったりさせたような服を着ている。だが、主張するところは主張しているので凛と麗奈が、主張できてない所を自然と隠していた。


「あの、マスター?」

「すまないミア、こっちは俺の母親と妹の麗奈。それと、友達の凛と陸斗だ。

これからのダンジョンをどうするかと相談をしていて、ダンジョン見学をしたいといっていたからな……」


ミアは、俺の後ろにいる凛たちを見渡すと、笑顔で対応してくれた。


「そうでしたか、初めまして。ホムンクルスのミアと申します。

マスターとは、末永く一緒にいるつもりですのでよろしくお願いします」

「こちらこそ、初めまして。颯太の母の今日子と……末永く?

ちょっと颯太? 末永くってどういうことなの?」


今度は、母さんが俺を引っ張り質問する。

さらにそこへ、妹の麗奈と凛も加わり陸斗にいたっては、俺を睨みつけていた。というより、引っかかる所はそこじゃないだろう……。


「ミ、ミアは大事なパートナーなんだ。ダンジョンを管理するには秘書みたいな人が必要だったんだよ」

「そ、それなら、ミアって人には手を出してないんだよね?」

「手を出すって、何をだよ凛。

その言い方だと、ミアと俺が関係を持っているみたいじゃないか?」

「違うの? お兄ちゃん」


麗奈まで、俺とミアの関係を疑っている。だがこの十年間、ミアと関係を持ったことはなかった。悲しいかな、それだけ忙しかったからなのだが……。

でも、ミアたちと関係を持つのもいいかもしれないな。


陸斗がずっと俺を睨んでいるが、そのうち血の涙を流しそうな感じだ……。


「と、とにかく、ダンジョンを見学に来たんだろ?

ミア、いつのようにダンジョン内の映像を頼む」

「はい、分かりました」


笑顔で了承すると、すぐに俺たちの周りに、ダンジョン内を映した映像が流れ始めた。

俺は、その中の一つの映像をみんなが見える位置に誘導する。


「おお、颯太の手の動きに反応した……」

「すごいわね」


陸斗と麗奈が感心してくれるが、映像を見てほしいね。

流れている映像には、いろいろな種族が買い物をしたり商売をしたりしていた。


「ミア、これは最初の町の市場の映像?」

「はい、この時間は夕食の買い物で賑わう頃ですから、ダンジョンの生活を見るにはよろしいかと思いまして」


確かに、ダンジョンに住んでいる人たちを見せるなら市場とかがおすすめか。

凛や母さんは、買い物をする人たちから目が離せないでいる。陸斗や麗奈も同じのようだ……。


「ネコ耳……エルフ耳……狼耳……はふぅ~」


陸斗だけ違った、こいつ耳フェチか?!

とんでもない奴に、とんでもない映像を見せた気分だ。


「あ、あの子たち親子かな?」

「たぶんそうよ、耳と尻尾が一緒だもの……」

「いいな~」


麗奈と母さんが見ていたのは、手を繋いで買い物をする猫獣人の親子だ。

笑顔で話をしながら、買い物をしていた。麗奈は、羨ましそうに見ている。

今度、母さんと買い物にでも行けばいいんじゃないか?


「……ねえ颯太、これってダンジョンの中にある町なの?」

「そうだよ凛。この町は『最初の町』といわれていて、ダンジョンの入り口の側にあるんだよ。

外の世界との貿易の、玄関口になる町だよ」


もしテーマパークとして公開したら、ここが地球人と異世界の人との最初に出会う場所となる。

初めて出会った人たちが、どんな行動をするのか……。


「そうか、だからテーマパークなのか……」


俺はその時、陸斗の目的とは別の意味を考えていた。

テーマパークとして公開することで、いきなりの出会いではなく、テーマパークというクッションを設けた上の出会いならば……。






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