43. 覚悟と約束
43. 覚悟と約束
目の前にいるドラゴンはまた雄叫びをあげる。それは獲物を狩る時の威嚇行動だ。ドラゴンが一歩踏み出すたびに地面が大きく揺れる。その度に心臓の鼓動も高鳴っていく。
「くっ……。こんなところで負けられないんだ!」
ハリーさんは震える足を抑えながら立ち上がるが、その身体はボロボロで今にも倒れそうだ。
「ハリーさん!逃げましょう!オレたちじゃあのドラゴンに勝てません。せめてリリスさんと合流を!」
「マスターくん。言ったじゃないかもしここで立ち止まり諦めて、最悪後悔するなら私は死んだっていいと。それに、あの時、約束したんだ。私が必ず宝石を取り返してプロポーズをすると!だからマスターくん君は逃げてくれ!」
「約束……」
……そうじゃないか。オレは昨日ローラ嬢に『あなたを必ず幸せにしますから』と言ったじゃないか。
あれはギルド『フェアリーテイル』のマスターとしての言葉。この依頼を成功させたいという思い。
なのになんでオレは……まったく、こんなんじゃギルドマスター失格だよな。良かった……一生後悔するところだった。オレはそのまま大きく深呼吸をしてハリーさんに伝える。
「ハリーさん。一緒に戦いましょう」
「……え?」
「この依頼はオレが承諾しました。ギルドマスターとしてオレも最後まで見届ける義務があります。……オレも覚悟を決めたんです」
「マスターくん……。すまない!」
ドラゴンは雄叫びをあげて、オレに向かって突進してくる。そのスピードはかなり速く、一瞬にしてオレの前まで距離を詰めてきた。そしてその鋭利な爪がオレを襲う。
その時だった。ガギンッと音を立てて、その鋭利な爪を受け止める、銀髪美人の女性。そうオレの前に現れたのはリリスさんだった。
「ハリーさん。あなたの『覚悟』見せてもらいました」
そのままリリスさんは刀の一振であの巨体のドラゴンを吹き飛ばす。ドラゴンは勢いよく地面に叩きつけられる。ドラゴンは苦痛の声を上げながら起き上がり、リリスさんの方を睨みつける。
「さあドラゴンさん。私を楽しませてくださいね?久しぶりにワクワクしてます。私の期待に応えてくださいね?」
リリスさんはニヤリと微笑む。
「グオオォオ!!」
ドラゴンは雄叫びを上げて、口から炎の玉を放つ。リリスさんはそれを軽々と避けていく。そしてリリスさんは空を見ると持っていた刀を帯刀する。
「……時間があまりなさそうですね。軽く真っ二つにしても良かったんですけど。……あまり気は乗りませんが仕方ありません」
リリスさんはそのまま一瞬でドラゴンの懐に入り腰を落とす。
「一撃……必殺!」
そしてそのまま強力な正拳突きを放った。その威力に耐えきれずドラゴンはその場に倒れこみ悶絶する。その時、ドラゴンの口からは赤く光る宝石が吐き出される。……サムライ女子はどこ行ったんですかリリスさん?
「あれだ!私が探していた宝石は!」
「それなら王都へ急いで戻りましょう!もう夕刻が近いです!」
「ああ!」
オレとハリーさんが走り出そうとするとリリスさんがそれを止める。
「こらこら。待ってください。何のために正拳突きで倒したと思ってるんですか?ほら。早くしてくださいエミルくん。ハリーさん」
「え?」
◇◇◇
王都の貴族街にある豪華な屋敷。ローラ=セルナードは朝から窓の外の太陽を見つめていた。微かな望みを信じて……。
「お嬢様。そろそろご準備を」
「はい……」
ローラは部屋を出て、鏡の前でドレスに着替える。
「お嬢様。本当によろしいのですか?今日は婚約者を決める大事なパーティーなのですが……」
「……わかっているわ。あの人は間に合わなかったのね。残念だけど諦めるしかないわね。……でもせめて最後に一目だけでも会いたかった……」
ローラは悲しげな表情を浮かべた。すると外が騒がしくなる。
「一体どうしたのかしら……?」
「わかりません。ちょっと見てきま……」
メイドが言い終わる前に突然大きな地響きが鳴る。ローラは慌てて窓から顔を出すと、巨大な白い翼を広げたドラゴンがいた。幼い頃に見た姿とは違うが、間違いなくあの時のドラゴン。
ローラは急いで外に出る。高鳴る心臓を押さえながらドラゴンの方へ向かう。
「はぁ……はぁ……。」
「さて。ドラゴンさん。もう戻っていいですよ?」
ドラゴンはリリスの言う通り、大空を飛び霧の谷の方へと消えていった。そして長い時を経てハリーとローラは対面する。
「初めまして。私はハリー=バーミリオン。ローラ嬢。あなたが探していた宝石はこちらですね?」
ローラは涙を流しながら、ゆっくりと頷く。
「ええ……ありがとうございます。あなたのおかげで私の願いは叶いました。私は今とても幸せです……」
「……ローラ=セルナード嬢。私と結婚してください!お願いします!」
「もちろん喜んで!」
2人の結婚はこうして無事成立した。本当に良かった。そしてオレとリリスさんはハリーさんとローラ嬢に別れを告げ、そのままギルドに戻ることにする。
「初めてテイマーのテイムを使いましたけど案外チョロかったですね。まぁ私にかかれば、ドラゴンを手懐けるなんて余裕でしたね!」
「まさかドラゴンに乗るとは思いませんでしたよ……」
「そのおかげで間に合ったんですから。いいじゃないですか!」
まぁリリスさんの言う通りだな。それにしてもリリスさんは強いな。刀一本……いや正拳突きでドラゴンを倒すんだから……。
「そう言えば少し気になったんですけど、リリスさん戻るの遅くありませんでした?少し心配したんですけど?」
「私は戻ってましたよ結構前に」
「……じゃあオレとハリーさんが死にそうになるギリギリまで様子を見てたんですか?」
「そうなりますかね?言ったじゃないですか『覚悟』を見せてくださいと。ハリーさんが本当にローラ嬢のことを想っていることが伝わって来たので安心しました」
リリスさんはそう言って微笑みながら歩いていく。マジかよ。リリスさんは悪魔なのか?そして立ち止まり振り返るとオレにこう言った。
「……あの時のエミルくん。少しだけ格好良かったですよ?」
「え?なんて……?」
「ふふっ。何でもありません。さぁギルドに戻りましょう!」
こうしてオレとリリスさんの依頼は終わりを迎えた。ギルドへの帰り道。オレとリリスさんを照らす夕陽がいつもより綺麗に見えた気がした。
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