37. 役割を知る

37. 役割を知る




 ギルド『フェアリーテイル』ではリリスとジェシカがいつものように受付業務や書類精査などの事務仕事をしていた。


「あっ。ジェシカちゃん。ここ間違ってますよ?」


「え?あっごめん。すぐ直すね」


「……レイアちゃんが心配ですか?」


「そりゃ……心配だよ。昨日少しキツく言っちゃったし、昨日から一言もしゃべってないから」


 そう言ってペンを走らせる手を早めるジェシカ。その様子を見てクスリとするリリス。


「なら昨日味方してあげれば良かったと思いますよ?そしたら完膚なきまでに論破してあげたのに。」


「性格悪いよリリスさん。……あの時、レイアは私が助けてくれると思ってたと思う。それじゃあの子のためにならない。私もそう思ったから。」


「レイアちゃんなら大丈夫ですよ。エドガーさんやアンナちゃんがきっと気づかせてくれます。冒険者には冒険者しか分からないこともありますから。エミルくんはおまけですけどね」


「そうだといいんだけど……」



 ◇◇◇



 オレたちは目的のハイリザードを討伐するため初級冒険者ダンジョンを進む。ダンジョン内は洞窟型で薄暗く、道は広く歩きやすい。そして現れる魔物はゴブリンやスライムなどの雑魚ばかりだ。


「よし!魔物が来たぞやつらの攻撃はオレが防ぐ『ガードアップ』!」


 盾騎士のエドガーさんが前に出て、防御スキルで防御力を高める。


「レイア。エミルをお願い。アタシの魔法でやっつけてやるんだから!」


「あっうん。マスターさん。私の後ろに」


「ああ」


「いくわよ!燃え盛る炎よ敵を撃て『ファイアボール』!」


 アンナの炎魔法が炸裂し魔物を焼き尽くす。


「やったわ!見てみなさいエミル!アタシの魔法の威力は凄いでしょ?やっぱり天才よね!」


「あっあぁすごいな……」


「おいアンナ!まだいるぞ!よそ見をするな!」


「分かってるわよ!うるさいわね!アタシに指図しないで!」


 エドガーさんに注意されるアンナ。まぁいつも通りだな。それからもダンジョン内を進み、出てくる魔物を倒していく。そして2階層の広い場所に出たので一度休憩をとることにした。


「ふぅ。さすがに疲れるな。しかしダンジョンも長いこと潜っているが、いまだに慣れんな」


「これだからエドガーは。ダンジョンなんて余裕じゃない!」


「またお前は……」


「……すごいなぁアンナちゃんは。私より年下なのに魔物と戦えて。私なんか怖くて何も出来ないのに……」


 レイアはうつむきながらそう呟く。オレが声をかけようとするとエドガーさんがオレの肩を掴んで止める。その時アンナがレイアの頬っぺたを引っ張った。


「ふえ!?痛いよアンナちゃん!?」


「まったく調子に乗らないでよねレイア!魔物を倒すのは天才魔法少女のアタシの役目よ!それともなに?天才魔法少女であるアタシには才能がないとでもいうわけ?」


「そっそんなんじゃなくて……」


 いきなり膨れるアンナ。そんな様子を見てエドガーさんがフォローに入ってくれる。


「レイア。アンナが言いたいのは冒険者パーティーとしての役割の話だ。オレは盾騎士だから魔物の攻撃を防ぐ、アンナは魔法で倒す。そんなオレたちを支援や回復するのがお前の仕事」


「私の仕事……」


「つまりだ、レイアお前は魔物が怖くて何も出来ないんじゃない。パーティーメンバーの役割を理解してないから、自分の役割が全うできないだけだ。1人だけ目的を見失っているんだよ。それじゃ冒険者は務まらんし、最大限の力を発揮できない」


「最大限の力を発揮……あ。」


 その言葉は昨日のリリスさんと同じ。レイアは何かに気付いたみたいだな。


「あと今日見ていたが、お前は自分の意見を言わなすぎだ。パーティーを組んでいる以上意志疎通を図らないとダメだぞ?その点はワガママ放題のアンナを少しは見習うといい」


「アタシのどこがワガママなのよ!やりたいことはやりたい!やりたくないことはやりたくないのよ!」


「ふふ。エドガーさんありがとうございます!アンナちゃんも!」


「別に構わん。オレは冒険者歴はリリスよりも長い。困った事があればなんでも聞いてくれ」


「アタシは別に何もしてないわよ?まぁ感謝するのはいいことよね!」


 レイアはやる気を取り戻したようだな。そして休憩を終えて再びダンジョン攻略を再開し目的のハイリザードを討伐することができた。戦闘中はどこか吹っ切れたのかレイアはクレリックとして、防御魔法や回復魔法で援護をしていた。結果的にエドガーさんとアンナと共に依頼をやって良かったのかもしれない。


 もしかしたらリリスさんは初めからこうしようとしていたのかもしれない。そう考えたら、やっぱりあの人はなんでも分かっていて本当に敵わないと心の底からそう思うのだった。

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