第8話 選挙演説

 さて、様々な思惑流れる我が校の生徒会長選は真っ二つに割れた。


 体育会系男子を中心に多くのギャル層からも圧倒的支持を得る藤崎ユイと、文科系男子を中心に一般女子から慕われる御坂涼音。


 この二人が正式に立候補した事により、他の対立候補者達が一気に心を折って辞退。


 そして次期生徒会長はこの二人に絞られた。


 さて、二人から推薦人を頼まれていた俺だが、結局どちらにも肩入れしたくないのできっぱり両方共断った。


 藤崎は俺が断ると、「え~、それは残念だけど、阿波が決めた事なら諦める。でも応援してね」と明るく言い、すぐ帰るかと思いきや「ワイロだぞぉ」と絡んで来て、無理矢理街ブラデートに引き回された。お前、ほんとあざといから!


 もう一方の涼音にも断ると、「なんで、なんで、なんで! もう、お兄ちゃんの馬鹿ぁ!」と逆上して薙刀で切りかかって来たが、竹刀でボコボコにしてやると「くすん、でも応援してね」と納得した。可愛いのに色々台無しな奴だ。


 そう言う訳で、贔屓なしの生徒会長選当日、ついに全校生徒を前にした演説が始まった。


《では一人目の候補者、御坂涼音さんの演説です》


 アナウンスが流れ、壇上に涼音が現れたって、おい、稽古着じゃないか!

 すると涼音はいきなり「えいっ!」「やぁ!」と薙刀の型を披露し始め、一気に皆の注目を集めた。


「今回、生徒会長選に立候補致しました御坂涼音です。私が生徒会長になった暁に最も行いたい事は、制服違反者の取り締まり厳罰化です。私は幼少より礼に始まり礼に終わる武道を嗜んでおりました。心身が未成熟な私達は、見た目に強く影響を受けます。一部生徒の制服の乱れは一般生徒に必要以上の畏怖を与え、その学校生活に支障をきたすものです」


 とまあ、こんな内容で、なかなか抜け目がない。捨て票の藤崎支持者達をやり玉にし、自分の票を強く確定させる、それ以降に続いた演説も模範的内容だった。


《では二人目の候補者、藤崎ユイさんの演説です》


 涼音が下がった後、再びアナウンスが流れ、今度は藤崎の出番だった。

 って、藤崎、お前はなんでスクール水着で壇上に現れてんだよ! なんて事してんの! だがマイナスチャームの力か、いきなり全員椅子の上に正座した、っておい!


「二年藤崎ユイです。難しい事は言いません。私が生徒会長になれたら、やりたい事はただ一つ。制服の校則をもっと緩やかにしたいです。だって、みんな顔が違うし性格も違う。だったら制服の着こなしだって変わるはずでしょう? それをルールで取り締まるっておかしくないですか? 私はもっと自由になりたいんです」


 とまあ、こんな事をつらつらと語りやがった。

 内容的に涼音の方が堅苦しくて及第点をクリアしていた。だがマイナスチャームのある藤崎が水着姿で語れば、圧倒的に男子生徒の心に突き刺さっていたのも事実だ。


 ずるくない?

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