第2章 04

とある岩山の中腹で採掘作業をしているブルーのメンバー達。

アッシュは「出て来い出て来い、鉱石くーん!」と言いつつツルハシで岩肌をガンガンと崩しながら「…出て来てお願い鉱石ちゃあーん!…とっとと出て来いオイコラァ…、もぅ…出て来ねー…。」と言って溜息ついて一旦手を止めると「最近この山で散々採ってるからもう採り尽くしたんじゃ。」

すると礼一が探知しつつ「あるよ!もうちょっと奥まで掘ると出て来る。…少しだけど。」

アッシュ「少し…。」

礼一「だって他船もここ狙うから、皆が取ればそりゃ少なくなるし。…でもかなり奥にはまだある!」

アッシュ「この山にはもう少し頑張って頂きたい!」

進一も「もっとイェソド鉱石を産出するのだ、山!」

クリム「山も大変…。」

アッシュはツルハシを構え直すと「仕方がない。山と俺の勝負だ!ALF KUR D15アッシュグレー・レストールの名に懸けて、いざ!」と叫びつつツルハシをガキンと岩肌に振り下ろす。

そこへ礼一がポツリと呟く「イェソド行けたらな…。」

途端にアッシュ達がハッと顔を強張らせ動きを止める。

進一は礼一の方を向き、右手の人差し指を立てて口元に当て、無言で(言っちゃダメだ!)

礼一「…。」黙りつつも不満気な表情を返す。

進一は人差し指を密かに監督の満のほうに向けて、目線で(監督が!)と礼一に伝える。

礼一(でも監督、最近ずーっとヤル気ないよなー。)と思いつつチラリと視線の端で満を見る。

そんなメンバー達に全く気付かず満はツルハシでカンカンと岩肌を削り続ける。

カンカン、カツン、カツン…。

満の作業の手が止まる。ハァと溜息が出てハッと我に返り、慌ててツルハシを握り直してガンガンと岩肌を掘りつつ(…いかん!私とした事が作業中にボケッとするとは!)と内心で叱咤すると(だがどうにもヤル気が出ない…。何とかヤル気を、仕事への気概を!…我々人工種は人間の役に立つ為に創られた存在、だから製造師の為に、そして管理の皆様の為に…、…しかし、…だが、…人工種の人生とは…。)散々悩みながらツルハシを振るう。

アッシュ(何か悩んでるな監督…。どうしたもんか…。)

そこへ突然、礼一が「うげ!」

進一ビックリして「な、なに?」

礼一「ここよりもっと採れるとこ探知してたらシトリンの探知とぶつかって探知妨害がぁ!」

進一「頑張れ礼一!」

礼一は探知エネルギーを上げて「あいつの探知妨害は苦手だ!」と言いつつ更に探知を強めるが、突如また「うげ!」と叫ぶと「レッドの探知まで参戦してきたからやーめた!」と探知をやめる。

アッシュ達「えー!」と非難の声。

進一「やめるのか!」

礼一「だって2対1じゃ勝てないし!…あの2隻、絶対、俺の事を潰そうとしてるよな。」

アッシュ「そうなの?」

礼一「だって今、レッドは別のとこ向かってんのに何でこっちの妨害すんだよ、シトリンに加勢しやがってー!いつも2対1になって俺が潰される!」

アッシュ「…シトリンとレッドって仲良しなのかな…。」

礼一「知らねー!とにかく別のとこ探知する!」

アッシュ「じゃあ俺はその間にこの山と戦おう。…鉱石を絞り出すのだ、山ぁ!」と叫んでツルハシを岩肌に振り下ろす。



正午近く。

採掘作業を切り上げて、ダラダラと撤収作業をしている一同。

貨物室ではクリムと進一が空っぽのコンテナを片付けている。

進一「頑張った割にはあんまり採れなかったなー。次の現場に期待しよ。昼飯食ったら現場到着までゲーム時間だからレベ上げと武器強化しとかないと。」

クリム「どの位で着くかなぁ。それによって何のゲームするか決まる。時間かかるなら皆でオンラインするし。」

進一、溜息交じりに「でもさぁ最近ゲームもなんか、飽きたよなー。前は凄いやりまくってたけど。」

クリム「今より全然時間無かったのに凄いゲームしまくってたよね。」

進一「時間有り余るとむしろ飽きるのかな。なんかヤル気が。」

クリム「とりあえず適当に何かのレベ上げしよ。」

進一「んー」と唸ると溜息をついて「…なーんかもっと面白い事ないかなー…。」と言うと「前みたいに監督が怒鳴ってくれるとかさ…。」

クリム「えー…。」と言って「それきっつ…。」と辟易顔。

進一「でもさー。…監督に怒鳴られつつゲームするのもなかなかスリリングで。」

クリム「確かに、どうやって監督の怒声を食らわないようにゲームをするかって、色々考えたね。」

進一「皆で知恵絞って監督の攻略法考えてさぁ。かなりハードなギミックだったけど、無くなるとつまんない…。」

クリム「とりあえず監督がションボリしてるとこっちも何か…。」と言ってから「せめて元気になってくれないかな。完全復活されてもちょっと困るけど。」

進一「やっぱラスボスにはラスボスで居て欲しいよなー…。」


一方、ブリッジでは礼一が操縦席の隣で必死に採掘場所を探知していた。眉間に皺をよせ、はぁ…と深い溜息をつく。

見かねた明日香が礼一に「大丈夫?」と声を掛ける。

礼一「…何でこう他船と被る…。さっき見つけたとこ、シトリンに取られるし!」

明日香「まーゆっくり探知すればいーのよ。ねっ、船長?」と船長席の方を見る。

武藤、ふぁぁと欠伸をして「どうせ皆、ゲームしてるしなー。時間があればある程…」

礼一「俺だけゲーム出来なくてレベ上げ進まないし武器取れないし!」

武藤「しゃーない。しかしなー。そもそも俺らがそんなに頑張らなくても、全体の総採掘量は結構ある筈なんだがなー。だって黒船とアンバーがイェソドっつー所で鉱石ガンガン採って来る上、カルセドニーまでイェソドで鉱石採って来るから」

明日香「でも足りないんでしょ?」

武藤「管理様はそう言う。んで何だか知らんがシトリンとレッドの2隻が頑張っとるからウチの船が最下位に。…ええい全ての元凶は駿河匠っつー逃亡者だ!」

明日香「何で?」

武藤「あいつが黒船から出て行って好き放題しとるから管理様がお怒りで、イェソドに行けない3隻の行動範囲を狭くしたんで。」

そこへ礼一が「元はと言えば、黒船とアンバーが『外』に出たのがさ…。」

途端にブリッジ入り口付近に立つ銅像のような満のこめかみがピクッと反応する。

武藤「言うな…。その黒船を『外』に出しちまったのは誰か!」

礼一「だって当時、黒船の船長だった駿河さんが」と言い掛けた所で

満が突然「いいや違う!」と怒鳴ると「その駿河の黒船を止められなかったのは我が船だ!…管理の皆様に黒船を止めろと言われたのに出来なかった…。」と悔しそうに右手を握り締めると「アンバーが…。我が弟達がぁ!」と叫んで天を仰いで「長兄として最大の失態を犯してしまった…!」

武藤、そんな満を冷静に眺めながら(…地雷を踏んでしまった…。)

礼一「…で、でも。そもそも1隻だけであの2隻を止めろって、無理では…。」

明日香、喜々として「それにさー結果としてウチの江藤一族の総司が黒船船長になっちゃったから万歳三唱!」

途端に礼一の顔が強張る。

満は明日香をビシと指差し「貴様ら江藤の一族は良いかもしれんが十六夜の一族は…!」

明日香、ニコニコしながら「総司は昔から頭良いもんねっ!」と礼一を見る。

礼一「…うん。」と言いつつ暗い顔で(…一族の中で、あいつだけ別格だよな…。それに比べて俺は…。)と密かに目線を落とす。

満は悔しそうに「あの周防のカルロスが…奴が護と出会わなければ…。…いや、そもそも護がアンバーに行ってしまったのが!」

武藤、辟易顔で「とにかく全部まとめて熨斗つけて駿河のせいだ!戻って来い駿河ぁぁ!」




その日の深夜23時近く。

採掘船本部から少し離れた街中の、人気の無い狭い路地を、総司がスーツケースを引きつつトボトボと歩いている。

総司(…やっと家に帰れると思ったら管理と出くわしてそこから説教…。あいつら偶然あそこに居たのかそれとも待ち伏せしてたのか?…ヒマ人め…。採掘量を上げても下げても何だかんだ言って来るし。…大丈夫だと言ってんのに『君のせいで心労が絶えない』とか言われるし…。誰も心配しろとは一言も言ってねぇよ!)と思ってから「はぁ」と小さな溜息をつくと(…そういえば、なんか突然アンバーから連絡あったが俺の一存で勝手に断ってしまった…。皆には申し訳ないが、俺が無理なんだ、心に余裕が無くて…許してほしい…。)

路地の角を曲がると広い通りに出る。すぐ横にマンションの建物。その敷地内に入りかけた総司はエントランスホール内に人影を見つけて思わず立ち止まる。

総司(…礼一…。今、会いたくねぇのに…。)と苦い顔をする。(同じ建物に住んでるからなぁ…。)

エントランスから礼一が出て来ると、総司を見て思わず目を見開いて立ち止まる。

総司「どこへ。」

礼一「…ちょっと買い物。」

総司「そうか。」と言って礼一の横を通り過ぎようとした途端、ガッと腕を掴まれる。驚いて立ち止まる総司。

礼一は総司に背を向けたまま「総司は凄いな。江藤一族の中で一番凄い、昔から。頭良いもんな、お前。」

総司、内心イラッとして(…またかよ。)

礼一「まさか黒船船長になるなんて。それに比べて俺はブルーの役立たずだし。俺とお前、ほぼ同い年なのに」

総司「…何かあったのか。」

礼一「何も無いけどさ。ただ…。」と言うと、少し総司の方を向いて「…前の方が、まだ良かったなって。」

総司「前と言うと」

礼一「前はさ、満さんは煩かったけど、それなりに楽しかったんだ。でも今はなんか…。」と言って暫し黙ると「…だってどう頑張ってもブルーは絶対最下位だから。」

総司「…。」

礼一「黒船とアンバーはイェソドに行ける勝ち組で、残り3隻は外地にすら出られない負け組。」

総司「なんだそれは。」

礼一「管理の中ではそうなってんだよ。中でもブルーは一番ダメな船。なぜなら探知の俺がダメダメだから。」

総司、呆れて「お前…。」

礼一「なんか他船の奴に探知妨害されて、…そもそも頑張った所で別にさー…。」と言うと「まぁブルーを一番下にしとけばレッドとシトリンは管理に怒られなくて済むよなー、あの船よりはマシって思えるしな!」

総司「…意味が分からん。」

礼一、溜息をついて「お前はいいよな。自分の望みが叶えられて。」

総司「俺だって、昔は…。」

礼一「努力家だもんな、総司は。」

総司「…というより…。」と言うとガッと礼一の肩を掴んで自分に正面を向かせると、礼一の目を真っ直ぐ見て「お前の望みは何なんだ。お前は一体、どうしたいんだ!」

礼一「…せめて成果が出せれば」

総司「成果や地位が得られたからって幸せな訳じゃない!自分が本当に心から望む事が出来なければ」

礼一「だって俺は探知なんだ、探知人工種として創られたからそれをやるしかないんだよ!総司はそういうのが無いから自由に職を選べた訳で!」

総司「…でも」

礼一「もし総司に探知とか怪力とか特殊スキルがあったなら、それでもお前は操縦士になったのか?」

総司「知らん。でもお前だって探知が嫌なら別の職をやればいい。」

礼一「そんなの管理が」

総司「管理が何を言おうがどれだけ責められようが、本当にやりたいならそれを貫ける筈だ!」

礼一「…っ!」思わず目を見開き、悔し気に総司を見る。

総司「…そうじゃなかったら俺は、人工種なのに黒船の船長なんて、やっていられない。…でも俺も昔は自分が船長になるなんて絶対に無理だと思っていた。だから礼一もいつか、自分の本当の心に気づく時が来るのかもしれない。」

礼一は、何か言いたそうな顔で暫し総司を見つめていたが、やがて諦めたように大きく溜息をつくと「そーいえば買い物行くんだった。じゃあな!」と言い、総司を突き放すようにして歩き出す。

総司「…、…礼一。」と小さく呟いて、少しの間、去って行くその後姿を見ていたが、若干寂し気な顔になって静かな溜息をつくと、トボトボとエントランスホールに向かい、建物内に入ってエレベーターの前に行き、ボタンを押す。

総司(…人の事を言えたもんでも無いな…。俺も昔、あの人に壮絶に嫉妬した…。)と駿河の事を思い浮かべる。

エレベーターが来て扉が開く。中に乗って自分の部屋の階を押す。上がり始めるエレベーター。

総司(人工種の苦しみも知らずに『人工種の役に立ちたい』とかふざけんなと思ったし、人間というだけで大した成果もなく黒船の船長になりやがって、俺はどう足掻いて頑張っても無理なのに…とあいつを憎んだ時期もある。だけどあの人は、俺を信じてくれた。あの人は、本当の黒船船長だった…。)

エレベーターが止まって扉が開く。廊下を歩いて自分の部屋の前に来ると、鍵を開けてドアを開け玄関の中に入り、明かりを点けて、玄関ドアを閉め鍵を掛ける。そこで立ったまま、はぁっ…と長い溜息をつくと、疲れた顔でポツリと呟く。

「でもな…。人間の黒船船長よりも、人工種の黒船船長の方が、相当大変なような気がするんだな。…疲れた…。」

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