第12話 ハルが来た

———地下、オレ帝国にて——


オレはアーマーの修理をしていた。


ジャイアントイノシシを討伐した後、密かにギルドへ行ってアイシャさんに完了報告をした。


アイシャさんは驚いていた。まさか本当に討伐するとは思わなかったらしい。ひどいことを言うな…。

報酬は金貨10枚、円換算で約200万くらいだ。なかなかの高額の報酬だった。


アルト村はジャイアントイノシシに襲われて建物は崩壊したが、怪我人や死者はなし。


ハルさんの冒険者パーティーは怪我も回復して仕事をしてるらしい。

まあ、とりあえずひと段落ついた。


オレはアーマーの修理している時ふと思った。


金はある、店を開こうと思えばできるが何をすれば良いんだ?


錬成ならば武器を造るのは容易なことだ。

魔道具は魔石があれば問題ない、そこでオレは武器屋を開こうと考えているが……。


「……どうすればいいんだ?」


「何が?」


「うおっ!?……って、女神かよ」


考えてるときに急に話しかけられるからびっくりしてしまった。


「……というか、なんでここにいるんだ!帰ったんじゃないのか?」


「だって、暇なんだもーん!」


女神は駄々こねる子どもみたいなことを言う。


…コイツ、女神としてどうなんだ?


「それで、何をどうすればいいって?」


「……聞いてたのか?」


「まあね〜!」


女神はどうやら盗聴癖があるみたいだ。


「武器屋を開くにはどうしたらいいんだって、考えてた。女神は何か知らないのか?」


「んー、知らない!」


…ああ、コイツに聞いたオレがバカだった。


女神はあっさり知らないと断言したので少し落胆した。

なので自分で考えることにした。


「トビくーん、コーヒー入ったよー!」


そう言いながらオレの作業場に入ってきたのは、ハルさんだった。


なぜハルさんがここにいるかと言うと、魔力供給をしてもらうため、最初オレは悪いから

やめてくれても構わないと言ったがハルさんは力強い目をして


「ボクにできることなら喜んでやるよ!」


となんとも嬉しいことを言ってくれた。

なのでその好意に甘えることにした。

それにアーマーを見られたので口止めをするため。



ちなみにハルさんのほうが年上だった。

……29才、その可愛いさで!

オレはアーマーの腕を修理して装着する。


「何してるの?」


ハルさんが不思議そうに見る。


「ああ、ちょっとね、アーマーの修正をしてたんだ…」


そう言いながら腕に埋め込んだ魔石に魔力を集める、オレは手のひらを前に出して構える。


「よし、行くぞ、発射!」


すると手の平から炎の弾が発射されると同時にオレもその反動で後ろに吹っ飛んで行く。


ガッシャーンと音を立てて武具などを置いてるところにダイビング。


「……だい、じょうぶ?」


ハルさんが心配して見にきてくれる。


「ああ、失敗したけど……」


オレは苦笑するしかなかった。





  —地下作業場で休憩中—




「……武器屋を開きたい?」


「ああ、そのやり方を教えてほしいんだけど」


オレは作業場でコーヒーを飲みながらハルさんに武器屋の開業についてのアドバイスをもらっていた。


「そうだね、トビくんの能力なら開けるかもしれないね……」


「そう!だからどうやったら武器屋を開くことができるのか」


「うーん、開くとしたら王都で開く方がいいと思うよ」


ハルさんはオレの話を親身になって聞いてくれた。


…どっかの傲慢女神とは大違いだ。


オレは作業場の近くの長椅子でスヤスヤと寝息をたてる女神を横目でみる。


「………王都か、遠いなぁ」


「ここからじゃ、7日はかかるもんね…」


オレはため息をつく。

王都まで行くの面倒くさいなぁ、やはりここで装備直すだけの仕事だけで充分かな…。


ハルさんもいるし、別に無理して王都まで行って開くこともないしな。


「まあ、この話はゆっくり考えるか……」


「うん!じっくり考えて答え出せばいいから

ボクはトビくんの意見を尊重するよ」


ハルさんはニッコリと天使のように微笑んでくれた。


…ああ、ホントにハルさんは天使だ。

…だが、男だ。…というかホントに男なのか。


…いくらなんでも美少女すぎる!女の子と性別を偽っても絶対に疑わないレベルだ。


華奢で低身長の身体、透明感で綺麗な肌、整った目鼻立ち、そしてなんと言ってもルビーのような深紅の瞳、たまにでる肩まで伸びた銀髪の髪を耳にかける仕草、どう見ても女の子だ。


……それを世間では男の娘と呼ぶ!


オレは男の娘に恋してる、おかしいのかな。


オレが熱くハルさんの魅力を心の中で語っていると感知センサーが反応した。


「あ!誰か来たね、ボクがでるよ!」


ハルさんは急いで地下の階段を登って行った。


…ああ、もう、誰だよこんなときに。


オレも急いで地下から出る。

部屋に出て、家の玄関に行くとハルさんが応対している途中だった。


「あ、トビくん!お客さんだよ!」


ハルさんは振り返りニッコリと微笑む。


…ああ、癒される。


「…はい、装備の修理ですか?」


「いいや、それよりも聞きたいことがある」


オレが尋ねると、女騎士が凛々しく答える。


……あれ、このひと、確か……。


オレは記憶を張り巡らせる。さて、一体どこで出会ったのだろうか。


そこでとある記憶に辿り着いた。

それはジャイアントイノシシでの出来事、この女騎士はジャイアントイノシシに突進される寸前でオレが助けた女騎士のひとだ。


女騎士は凛々しく力強い眼差しをしていて、金色のしなやかな髪を後ろで一つに束ねて、

身長は170センチくらいの美女だった。


オレは毎回思うことがある、この世界はハルさんといい、この女騎士といい、美男美女が多すぎる。


どうなってんだ、ここは?


「何ですか?聞きたいことって……」


「うむ、先日ジャイアントイノシシを我々が

討伐をしていたんだが、私が襲われそうになったときに助けてくれた黄金の鎧を着た者を見なかったかと思って、ここにきた」


…えっ?…それ、オレのことだな。


「いいえ、見てませね。その方を見つけてどうするんですか?」


「王都から指名手配されている!」


女騎士はそれはそれは力強い視線をオレたちに向けて答えた。


だがオレは今、その言葉を疑った。


…この女騎士はなんて言ったんだ?…連行すると言わなかったか?


連行、イコール、逮捕、そして処刑!


オレはただいま人生で一番危機感を感じた。

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