首の瘡蓋
首と顎の境目についたロープの跡が瘡蓋になって、つつくとポロポロと剥がれ落ちた。
これは僕の勇気の証であり、失敗の証であり、生きるためのたった少しの燃料である。
僕がロープを結んでいるとき誰かは花束を結び、僕がロープをかけているとき誰かは恋人のコートをかけていた。
僕が輪を首に通したとき誰かはお気に入りのネックレスを着け、僕が体重をかけるとき誰かはふかふかのベッドに身を任せた。
僕がこの思いを抱いたとき誰かが産声を上げ、僕が決意したとき誰かは婚姻届に印を捺した。
僕が諦めて首からロープを外したとき誰かはタートルネックを脱いで、僕がむしゃくしゃして刃物を持ち出したとき誰かは肉を細切れにしていた。
僕が生きるには何もかもが足りない気がして、僕はあれからひとつずつ数えているのだけど、どうもそれは気の所為のようで、他の人と同じくらいで生きているらしい。
僕が生きるには多分他の人が生きる上で気づかないようなものが必要で、それは多分手に入れるには思考し続けなければならなくて。
僕は瘡蓋が消えるまで首を触り続けていた。
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