雨を好きになったのはいつからだっただろう。

風に攫われそうになる傘を握り潰さんばかりに持ち避けて

靴の隙間に捩じ込まれる水滴は嫌いだったはずだ。

カーテンを閉め切った部屋の中響く雨音。

それはいつからか私の中を流れるようになった。

鼓膜から入り足の裏から出ていく音楽。

雫は演者。楽器はトタン、瓦、コンクリートにアスファルト。

冷たい音だ。生温かい匂いをさせて私の部屋へ忍びこむ。

生きていたい。

水蒸気が固まり絞り出された体温。

それを感じるとどうしようもなく

世界の生を感じるのだ。

死んでみたい。

私の体が溶けて流れていずれ雨になる。

その現象のなんと幻想的なことか。

のぼりゆく煙に含まれる私の魂はいずれ

どこかの知らない胎内へ入る。

赤子の泣き声とともに涙となって

人間の生を感じるのだ。

鼓膜を叩く水の音。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る