第5話 俺帰る。

 ようやく車を手に入れたわけだが俺は生まれてこのかた教習所に通ったことも無ければ免許も無いが運転なら頭文字Dのアーケードゲームで覚えた。たぶん大丈夫だろう。移動の点で言えば俺は飛行出来るが人目につくと面倒である。車があれば中で寝ることも出来るし空調も効く。食事はドライブスルーを利用すれば良い。ここんとこマクドナルドばっかり食ってるが。


 そんな中ある日だ。路地裏に車を停めて休んでいたところいきなり若い黒人の男に拳銃を突きつけられる。


「Give me that bag!」


 これがいわゆる強盗ってやつか。そういえば助手席に置いたバッグのジッパーが開いていて中の金が見えちまってる。


「You want to get killed?」


 黒人が叫ぶ。英語はわからないが言ってることは何となく想像出来る。俺は自ら奴の持ってる銃口に額をピタッとつけてやった。


「Ah! What the hell are you doing?」


 俺は英語はわからないがこのジェスチャーだけは知っていた。奴に向かって拳を掲げ真ん中の指を立ててみせる。


「Motherfucker!!」


 奴は引き金を引く。銃弾は俺の額で潰れていた。銃弾をつまんで見る。へえ銃弾ってこんな感じなんだ。クソデカい鼻くそみてーだな。


「You are monster!」


 黒人は青ざめた顔で一目散に逃げていった。


 そんな気楽なアメリカ生活にもやがて終焉が訪れる。ある日の昼のことだ。車を走らせていると背後からサイレン音が鳴り響く。クソ、パトカーだ。しかし俺が何がしたか?わかったぞ。ガキが運転してると通報が入ったんだ。確かに俺はもう18歳になるが小柄だ。しかもアメリカ基準からしたら完全にガキにしか見えないだろう。ただカーチェイスで警察から逃げ切るのはGTAで何度も経験済みだ。きっと何とかなるだろう。

 

 と思った俺がバカだった。ちっとも何ともなんかなっていやしねえ!いつしか俺は後方に気を取られ前方の大型トラックに派手に衝突しまった。クソ、このポンコツ車エアバッグすら装備してねえのか。ボンネットからは煙が上がってやがる。たちまち後方からパトカーがやって来て停まる。中から出て来たのはサングラスをかけた白人と黒人の警官のコンビだった。奴らは俺に拳銃を向けてこう叫ぶ。


「Put your hands in the air!」

「Surrender now!」


 やれやれ。面倒なことになったぜ。俺は奴らに向かって両手を上げて見せる。俺を拘束しようと白人の警官が近づいてくる。次の瞬間、俺は空高く飛翔した。地上がどんどん遠ざかっていく。警官らが口を大きく開け何やら叫んでいるのが見える。もうこの国にはウンザリだ。マンガもアニメも無い。やたらと油っこい食事にも飽き飽きだ。第一に言葉が通じねえ!当たり前だ!そんなことくらい来る前に気づけよ!この馬鹿な俺!もうウンザリだ!日出ずる国に帰るぜ!


 そうして俺の短い渡米生活は終わりを迎えた。今、俺は夜の空港の滑走路付近にいる。ちょうど離陸する飛行機が見える。おそらくアレか。俺は飛翔して飛行機付近まで近付いて耳を凝らしてみる。「やっと日本に帰れるー」「つかれたー」中から日本人の乗客の声が聞こえる。この飛行機は日本行きで間違いなさそうだ。これについていけば日本に帰れる。ちなみに渡米の際もこの手法でアメリカ行きの飛行機のあとを飛んできたのだった。


 夜も昼を俺は飛び続けた。気づくと俺は飛んだまま眠ってしまっていた。さっきまで前方に飛んでいた日本行きの飛行機の姿がない。どうやら寝入ってる間に見失ってしまったようだ。だがもう随分と日本に近付いたはずでは?どこだ?ここは?と思った矢先、俺は今まで感じたことも無い衝撃を受け弾き飛ばされたのだった。

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