ギルドマスターに相談
この魔大陸にも、ある程度の勢力図がある。
人間、3人集まれば派閥ができると言われているように、1万人以上も人が集まればそれ相応にコミュニティが形成されるものだ。
まず、それぞれの種族としてのコミュニティがある。
サキュバス、ヴァンパイアはもちろん、人類の中でも人間、獣人、ドワーフ、エルフ、亜人と言った集まりが出来上がっており、これといって対立はしていないもののやはりそういう人々同士で集まることが多い。
身体的特徴や悩みが似ているのだ。相談先としてどうしてもそこに言ってしまうのは無理もない。
そして、思想や宗教的な観点からも集まりが異なる。
さらに細かい派閥まであげればキリがない。
冒険者組に研究者組、海の男たちに、農業や鍛冶屋と言った各分野のスペシャリスト達。
こうして様々な小さな勢力が集まって、今の拠点は存在している。
では、現在最も大きな勢力と言えば何になるのか。
それは間違いなくサメちゃん教だろう。
始めはリネーブ教が最も大きい勢力であったが、2年という月日があれば人の思想は変わるもの。
しかも、リネーブ教の聖女様が“サメちゃん可愛いやったー!!”と言って、率先してしてサメちゃんを可愛がっているため、その最大勢力を巻き込んでサメちゃん教は大きくなりすぎてしまった。
リネーブ教とサメちゃん教が対立していないのは、サメちゃん教の教えが“サメちゃんは可愛い”って事だけだから。
そしてら他人に強要はせず、なおかつ、聖女様のお墨付きがあるからである。
後は、俺の存在も大きいだろうな。
自分で言うのもなんだか、俺とエレノアはこの拠点における中核的存在。
そんな俺達が可愛がっているというのもあるし、拠点の有力者たちが全員サメちゃん教の信者なのだから、他の人々もそれに倣う。
結果として、サメちゃん教の浸透率は脅威の99%以上。
サキュバス達やあの堅苦しいヴァンパイアのご老人たちですら、サメちゃんには甘いのだ。
と言うか、多分1番サメちゃんを好きなのはヴァンパイアのご老人達である。
やっぱりね、自分に懐いてくれる可愛い動物とかは好きになっちゃうんだよ。老人は特に。
ご老人ヴァンパイア達は天魔くんちゃん達ともかなり仲が良く、よく孫のように天魔くんちゃんを可愛がる光景を目にする。
そりゃ、素直に頭を撫でられて喜ぶ天魔くんちゃんたちが可愛くないわけが無いのだ。
ご老人達からの人気はうなぎのぼり。
完全に孫である。
なんやかんや俺も可愛がられるからな。
フェンリルを倒した化け物みたいな目で最初は見られていたが、話してみたら割と普通だったみたいな。
俺、お爺さんお婆さん世代の人達に撫でられるのとかは好きだから、普通に嬉しかったりする。
大人になると、頭を撫でられて褒められることなんて滅多にないのだ。
こういう面では、成長しない子供の見た目は得していると思う。
エレノアもよく俺の頭を撫でたりするが、あればまた別物だからね。
少し話はそれだが、この拠点の最大勢力はサメちゃん教。
俺とエレノアが結婚式をする際にどこかの宗教に合わせたやり方をすると角が立つ可能性があるので、サメちゃん教の流儀でやってしまうのがいちばん丸い。
そんな結論が出たのはいい。
いいのだが、そもそもサメちゃん教にそんな結婚式でのしきたりとかルールなんてない。
どうしたらいいんだよって事で、こういうのに詳しそうなギルドマスターに助力を求めに来たのである。
「という訳で、助けてギルドマスター」
「あの、急に来て“という訳で”と言われても困ります。私が助けて欲しいぐらいなんですけど」
「私達、最近結婚したじゃない」
「そうですね。結婚する前から既に熟年夫婦みたいだと皆さん仰ってましたが」
「で、ジークのご両親や私を育ててくれた人達に感謝もあるから式を上げたいのだけれど、どこかの風習に従うと角が立ちそうじゃない?」
「そうですか?あまり気にしないと思いますが」
多分気にしない人の方が多いとは思うが、それでも俺達は気遣わなければならないのだ。
それでも内部分裂して戦争が起きましたとか困るからね。
「私達の立場もあるのよ。気をつけた方がいいわ」
「........まぁ、そうですね。となると、サメちゃん教辺りを使うのが無難ですか?この拠点でサメちゃんを崇めていない人は存在しません。存在していたら、異端として洗脳します」
「そんな怖い事しないでねギルドマスター。可愛いは強要するものじゃないから」
サラッととんでもねぇ事を言い出すギルドマスター。
この人の場合、ガチでやりかねない。
何せ、子飼の部下はそうやって洗脳しているのである。
あのギルドマスターと対立している神父様、マジで綱渡りなんだよなぁ。
何時行方不明になってもおかしくない。
俺個人としては、魔王討伐時になんやかんや仲良くなったから死なないで欲しいね。
「あぁ、つまり、サメちゃん教での式なんてものは無く、どうしたらいいのか分からないために私に相談をという事ですか?」
「話が早いねギルドマスター。そういう事だよ」
「リネーブ教では、結婚式ってどうしているのかしら?」
「どうって言われても、神の前で永遠の愛を誓って、それで終わりですよ。神父やシスターはそれの立会人となるだけです。過去に1度、始まりの聖女と呼ばれた人物だけは、本当に神を降臨させてその前で愛を誓ったそうですが」
あー、それ知ってる。
リネーブ教の中ではかなり有名な話であり、初代聖女が役目を終え、パートナーを見つけて結婚する際に、神が祝福をしに来たという話である。
事実かどうかは知らないが、神が存在していると多くの人が信じているのは、それが原因なんだとか。
俺もエレノアも神は信じちゃいないが、存在は本当にしているのかもな。
「サメちゃん教なら、サメちゃんの前で愛を誓うことになるのかな?」
「ふふっ、そうなるわね。だってサメちゃん教の神はサメちゃんだし、この宗教、神父もシスターもいないわよ」
サメちゃんの前で永遠の愛を誓うって、クッソシュールだな。
いや、俺もエレノアも可愛いサメちゃんが見られるのでそれでいいのだが、見栄えは超シュールである。
「それでいいんじゃないですかね?どうせそのあとは宴となりますから。みんなで楽しくご飯を食べて、当たらな人生を歩む2人の未来に乾杯するだけですよ。そりゃ王族ともなれば多少なりとも様式美なんてものもありますが、お二人は面倒でしょうしやらないでしょう?」
「「やらないね(わね)」」
「ならそれでいいんじゃないですかね?好き勝手にやってこその、アトラリオン級冒険者です」
うーん。日本での結婚式にも何度が参列したことはあったが、確かに披露宴でご飯食べて祝って終わりだったな。
新郎新婦がその人の場所に出向いて、軽く挨拶回りするぐらいで特にこれと言って特別な事も無かった気がする。
「エレノア、何かやりたい事とかある?あるなら準備するけど」
「そうね、ジークを花嫁姿にはしたいわね。絶対に可愛いわ」
「絶対にやらないからな。そう言うのは2人だけの時にしてくれ」
「つまり、2人だけの時はやってくれるって事?!やったー!!」
これでもかと目を見開いて、俺の肩を掴むエレノア。
いやまぁ、エレノアが俺の女装姿を見たがるのは前々からあったし、何故かこの前は女の子の服持ってきて無理やり着替えさせられたし........
でも人前に出るのは恥ずかしいので勘弁してくれ。
俺は男でありたいのだ。
「あのすいません。イチャつくなら出てって貰えますかね?」
「ギルドマスター、冷たい」
「私独身なんですよ。殺しますよ?」
ギルドマスター、結婚願望とかあるのか。
俺は割と逆らえない雰囲気で殺気を露わにするギルドマスターに苦笑いを浮かべると、その部屋を後にするのであった。
とりあえずアレだな。先に服の準備とかするか。
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