強めの魔物
翌朝。
アーランパーティーと合流したデモット達は、再び森の異変調査に乗り出した。
今のところ森の中で見られる異変は、ホブゴブリンの数が多い程度。
しかし、この僅かな異変が後に大きな厄災を齎す可能性があることを理解しているアーランたちは、警戒を緩めない。
森の異変は、その小さな違和感から大きくなってく。
デモット達もそれは理解してる為、その原因がわかるまでは調査を続けるつもりだ。
「それで、昨日はどうしたんすか?」
「ん?おじさんを冒険者にして、色々と基本的なことを教えてあげたよ。冒険者って何も魔物を倒すだけが仕事じゃないからね。街でやることも沢山あるから、最初はそっちで色々と試しているといいよってアドバイスしてあげたんだよ」
「戦闘技術についてはからっきしだったからな。鍛えれば多少はマシになるだろうが」
「少なくとも、これで食いっぱぐれて他の人に迷惑をかけることはないと思うよ。冒険者で培った技術って、何気に他の仕事でも色々と生きるからね」
冒険者の役割として、社会のセーフティーネットと言うものがある。
身分証などは不要でなることが出来る職業。
その分実力主義な面が大きいが、最初の登録料さえ支払えれれば何とかなるのだ。
幸いなことに、彼は登録料分のお金は所持しており、問題なく冒険者になれたのである。
犯罪歴があるものもダメなのだが、アーランがその傷を負わせなかったというのも大きいだろう。
「まぁ、簡単な説明が終わった後に飯を奢ってやったら、号泣してたけどな。なんやかんや、愛した人に捨てられた苦しみはあるらしい」
「大変だったねぇ。お酒が入ったらもっと大変だったよあれは」
「とにかく、どんな形であれ人生を再出発したんだ。何事にも遅いなんてことは無い。もしかしたら、冒険者を代表するすごいやつになるかもな」
何事にも、今から始めて遅いなんてことは無い。
結局は本人の才能と頑張り次第であり、その未来は自分自身の手で作ることが出来る。
とりあえず生きる希望を持てただけでも、大きな進歩だろう。
デモットは、アーランが強引ながらも人を助けているその姿を見て英雄と呼ばれる所以を知った。
ジークもなんやかんや真面目な人や可哀想な人には甘い性格だ。エレノアはともかく、あのおじさんと出会っていたら、似たようなことをしていたかもしれない。
(ちゃんと見習うべきところは見習ってそうだよなぁ。まぁ、見習っちゃいけない方を多く見習ってそうだけど)
なお、デモットも人の事は言えないのだが、そんな自覚は無いのである。
自分を客観的に見ることは、意外と難しいのだ。
「どんな形であれ、再出発できたんだから、後は本人の頑張り次第だ。もう少し面倒を見てやる必要はあるがな」
「........同じ良いに苦しんでいる人を全員救うつもり?」
ふと、ナレがそんなことを口にする。
彼は偶然アーランと出会って何とかなったが、世の中そんな都合よくはできていない。
当然ながら、全ては救えないのだ。
今だって、英雄を待ち望んでいる人々は多いだろう。
ナレは、それについて聞いているのである。
「英雄なんて呼ばれて長らく経つけど、知った現実も多い。ナレちゃん。全てを救うのは無理だ。ジーク先生ならもしかしたらだけど、僕には無理だよ。でも、手の届く範囲は全て救えるように努力している。できる限りの事をやるのが全てなんだよ」
「ん、なるほど」
「偽善者だのなんだの言う人も多いけど、やらないよりはマシでしょ?やらない善よりやる偽善。誰かのためになっているなら、やった方がいいのさ」
アーランの思想を聞いたナレは、それ以上は何も言わなかった。
アーラン自身も、これが綺麗事である事は知っている。
それらを全て承知の上で、アーランは先へと進む選択をしたに過ぎないのだ。
ナレがこれ以上とやかく言う問題ではない。
「難しい話っすよね。英雄だのなんだと言われているけど、結局救われない人からしたらそれは英雄でもなんでもない。だからと言って、英雄は全てを救えるわけじゃない」
「英雄と言うなの哲学が必要なんだよ。多分、デモットさんにもあるでしょ?自分なりの哲学が。僕たちはそれを証明するために強さを求めるんだと思う。先生もそうじゃないのかな?」
ジークは放置ゲーをすれば世界最強になれると言う哲学を持っている。その証明の為ならば、世界を敵に回したって構わない。
エレノアにも、エレノアなりの哲学がある。
誰しもが、思想という哲学を持っているのだ。
「はいはい。難しい話しは夕食中にでもしてくれ。お客さんだぞ」
「ブルル!!」
思想、哲学、そんな話をしていると、いっぴきの魔物が姿を現す。
鋭い二本の牙を持ったイノシシの魔物、インパクトボア。
強さは中級下程度でデモット達からすればざこ同然の魔物だが、こんな森の浅い所に出てきていい魔物ではないのは確かだ。
「インパクトボア。やっぱりこの森では異変が起きてるね。昨日調べて見たけど、ここら辺に生息する魔物の中で強いのは精々ウルフ程度だ」
「こんな魔物が出てこられたら、下級の冒険者たちは困るだろうな。誰がやる?」
「自分がやるっすよ。ちょっと体を動かしたいんで」
インパクトボアvsデモット。
誰がどう見ても勝敗が分かりきった勝負の幕開けである。
「ブルル!!」
「俺がいた所の魔物たちに比べれば、全然可愛いっすね」
先手をとったのはインパクトボア。
その強靭な脚力から繰り出された突撃は、涙の冒険者達では避けるのは難しい。
しかし、デモットは避けることすら必要ない。
デモットが魔界にいた頃に相手にしていたのは、最低でも最上級魔物達なのだ。
「頭蓋骨陥没パンチ」
「プギャッ!!」
バキィ!!
突進に合わせて繰り出された、何の変哲もないパンチ。
腰すら入っておらず、パンチの打ち方としては赤点どころか0点のその一撃は、インパクトボアの硬い頭蓋骨を打ち砕く。
デモットからすれば、この大陸はイージーゲーム。
本当に極小数の魔物以外では、デモットといい勝負にすらならないのだ。
「うわぁ........」
「いっ........」
顔面が凹み、鼻から血を吹き出してピクピクとするインパクトボアを見て、思わず痛みを想像してしまい顔を顰めるアーランとリーシャ。
魔物の壊し方に関しては、まるっきりエレノアと同じなのも相まって、デモットがあのエレノアの弟子であることもよく理解できた。
エレノアも似たような殺し方をするだろう。
あちらの場合は、骨すらも残らずにパァン!!と魔物が弾け飛ぶだろうが。
「デモット、見事」
「ふふん。でしょ?最近は力加減が上手になってきて、魔物を吹き飛ばさずに殺せるようになったんだからね!!」
「ん、昔は大変だった」
強い魔物とばかり戦ってきたデモット。
この大陸の魔物はあまりにも脆すぎて、軽く殴るだけで全部が吹き飛んでしまい金にならなかった時期がある。
最近は手加減も覚えて、魔物の原型を残せるぐらいになったのはデモットの大きな成長であった。
いつの日か、ジークと再会できたら自慢するつもりである。
「強さでも圧倒されてるよ。お弟子さん........本当に羨ましいなぁ。一緒にお風呂入りたい」
「アーラン。私が嫉妬で怒り狂うから、本当にやめてくれ。あいつは可愛すぎるんだ。女なんだよほぼ。寝盗られる気持ちになる」
「リーシャ?子供もいるんだから発言には気を付けてね?」
「あ、悪い」
アーランはリーシャを大切にしている。リーシャが本気で辞めてくれと言っている今、弟子になることは無いだろう。
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