狂人、イカれ野郎
アダマンタイト級冒険者“漆黒の魔女”クルール。
彼女は大帝国出身あり、黒魔術に特化した魔術師だ。
子供の頃に患ってしまったとある病によって、黒魔術に目覚め、才能もあったが為にアダマンタイト級冒険者にまで上り詰めた天才。
一時期は別に目に異常がある訳でもないのに眼帯を付けたり、杖の代わりに死神の鎌を持ったりもしていたが今は病も少し落ち着いて割と普通の冒険者になっている。
しかし、黒魔術の魅力からは離れられず、結果として黒魔術を極め続けていた。
そんな彼女の前に現れた、天魔と炎魔。
この世界でオリハルコン級冒険者という規格外の存在達から認められ、更にその上を行く正真正銘の化け物。
噂に聞いていた姿とは少々異なったが、その可愛らしい姿からは想像もできない強さを秘めた2人が、今回その強さの秘訣を教えてくれると言う。
才能ではなく努力によって至れる強さ。天魔はそれを冒険者達に教えようとしていた。
ちなみに余談だが、クルールは最初の頃天魔ことジークを女の子だと思っていたりする。
それが男だったと知ったのはごく最近の話であり、世の中にはこんなにも可愛い少年が存在するのかと世界の広さを知った。
それ以降、クルールはジークのファンでもある。もちろん、その隣にいつもいるエレノアも大ファンであり、何とかして同志を集められないかと画策している。
元々可愛いものやかっこいい物が好きな彼女に、2人のビジュアルと生き方は大きく心に刺さったのだ。
なお、可愛いがジークでかっこいいはエレノアである。
そんな憧れであり尊敬すべき2人が直々に鍛えてくれる。
クルールのみならず、ほかの冒険者達もそなことに大いに喜んだのだが........彼女達はあまりにもジークとエレノアについて理解していなかった。
「はぁはぁ........オエッ........」
「ゼェゼェ........ウップ」
「はぁはぁ........きゅ、休憩........」
「何言ってんだ?次の魔物を送り込むぞー」
「ほら、ちゃんとしないと死ぬわよ」
狩りが始まってから最初の頃は良かった。ジークも多少手加減していたのが、襲って来る魔物はそれほど多くなく問題なく倒し続けられた。
が、しかし、これが5時間ぶっ続けで行われるとなると話は違う。
もちろん、休憩はできる。ウェーブ形式で次から次へと誘導された魔物達がやってくるので、その合間合間に休みを取る事は出来なくは無い。
が、その休憩時間は僅か10分足らず。
毎回1000匹以上の魔物がやってきて、それを1時間近くかけて殲滅させられているのだ。
これほどまで長時間の戦闘は、流石のアダマンタイト級冒険者達でもやったことがない。
ペース配分を間違えた彼らは、既に死者同然の顔つきをしていた。
「ほっほっほ!!皆大変そうじゃの。ワシらはまだ余裕じゃが」
「鍛錬が足りてないのよん。ここから今の私達まで強くなるのは厳しいんじゃないかしらん?」
「いやいや、この程度もできないようじゃ先が思いやられるよ。ゆくゆくはトラップを踏んでもらって爆走でレベル上げして欲しいのに」
「そのトラップは何処へ?」
「やる?やるなら天魔くんちゃんに案内させるよ」
唯一余裕そうな顔をしていたのは、オリハルコン級冒険者の二名のみ。
彼らは余裕綽々と言った雰囲気で、次の狩場を求めてどこかへと消えてしまう。
明らかに格の違いを見せつけられた瞬間であった。
「て、天魔様........少し休憩させて下さい」
「んー、そうだな。次で半分だし、それが終わったらお昼にしよっか」
「は、半分........?」
「ん?そうだよ半分。あと5回はこれをやってもらうつもりだからね。ゆくゆくは1日16回やってもらうつもりだよ。そこまでやれば、多少はレベルが上がるんじゃないかな?」
「本当はもっと楽な方法もあるけど、レベル“だけ”を上げても意味が無いものね。いや、意味はあるのだけれど最上級魔物を単体で討伐する強さが必要ならば、技術の練度は必須よ」
そう、パワーレベリングをしたいだけなら、そこら辺の絶望級魔物でも連れてきて身動きを取れなくしてからタコ殴りにさせた方が早い。
しかし、それでは必要な技術が手に入らない。
最上級魔物を単独で討伐するためには、最低限の技術が必要。
ジーク達はその大切さを知っているので、ここでその力も身につけさようとしているのだ。
「ほら、来たぞ。頑張れ」
「死なせはしないけど、半殺しに会うかもしれないから死ぬ気で頑張りなさい」
「「「「........」」」」
冒険者たちの心の中は今、一つで統一されている。
“コイツ、狂ってやがる”と。
彼らは理解しているのだ。
ジーク達は、自分達を虐めたいからこの方法を取っているのではない。
ジーク達は単純にこの方法が最善であり、自分たちもこれをやってきたのだと言う経験に基づいてレベリングをさせている。
そこに悪意がなく、純粋にこの方法しかやって来てないと言わんばかりの態度を見せられれば、誰もが狂っていると思うだろう。
冒険者にとって必要なのは、安全マージンの確保と生きて帰る事。
死ねばそこで終わりなので、彼らは魔物の大軍と戦うと言ったようなことをしないのだ。
スタンピードが来たりしない限り、1000近くの魔物と相対することなんてない。
が、ジーク達はそれをさも当然かのように、なんなら少し少なめに手加減しているかのように振舞っている。
ハッキリ言って、イカレている。
普段からこの数の魔物をたった二人で殲滅し、それを何度も何度も繰り返しているかのような態度。格が違うのはもちろん、思考回路が違っているのである。
アトラリオン級冒険者になる者は、ここまで人とはかけ離れているのか。
レベリングに取り憑かれた狂人の狂気を、彼らは僅かながら感じ取り戦慄していた。
「くそっ!!来たぞ!!俺達は何としても生き残るんだ!!」
「やってやるよ!!ここで死んでたまるか!!」
「魔力が底を着いているけど、これでぶん殴ってやるわよ!!やってやろうじゃない。えぇ!!やってやるわよ!!」
「行くぞテメェら!!ここで死んだら終わりだぞ!!」
「おう!!」
ドドドドと、大地を揺らしてやってくるのは魔物の大軍。
彼らはその絶望的な光景を目撃しながらも、ここで逃げてしまっては一生強くなれないとして、そもそもジーク達が逃がしてくれる訳が無いとして、気合いで立ち向かう。
疲れと集中力を使い切っているクルールも、死ぬ気で立ち上がって残り少ない魔力を絞り出して魔術を放った。
「
呪いを付与して相手の動きを僅かでも遅くしつつ、最上級魔物であるチーターに対しての対策として影の沼を作り出す。
そして、杖を握りしめて魔物たちに向かって行くのだ。
「うをぉぉぉぉぉ!!」
「やっちまえ!!ぶっ殺せ!!これが終われば休憩だぞ!!」
こうして、冒険者達の地獄のレベリングが始まった。
午前中に5回、午後に5回。
計10000体近くの魔物を1000人程度で殲滅し続けると言うとんでもない荒業。
ジーク達からすれば簡単に殲滅できる相手でも、彼らはそもそも大軍とやり合うためのノウハウが少ない。
特に魔術師達は広域を殲滅できるものをあまり持っていないので、苦戦は必死。
しかし、それでも彼らはやり遂げた。
5回目の殲滅。多少の怪我はあれど、誰一人として欠ける事なく勝利を収めたのであった。
が、午後に地獄がまた始まる。昼食を食べていた彼らの顔は、やはり死んでいるのであった。
後書き。
ジーク、エレノア、ついに冒険者たちからヤバいやつ認定される。
当たり前すぎる。
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